男女共同参画社会基本法(1999年制定)に基づき、政府は5年ごとに「男女共同参画基本計画」を策定してきました。2000年12月の第1次基本計画から、2020年12月に閣議決定された第5次基本計画まで、計画ごとに重点は移り変わっています。第2次計画で登場した「202030」目標、第4次計画での女性活躍推進法との連動、第5次計画でのコロナ禍と困難な状況への対応など、計画は時代の課題を映してきました。本記事では、男女共同参画基本計画の全体構造と、第1次から第5次までの変遷を年表的に整理します。あわせて、2025年中の策定が予定される第6次基本計画について、男女共同参画会議で議論されている方向性も解説します。男女共同参画推進員や自治体担当者、企業のダイバーシティ推進担当者、政策に関心のある方を主な読者として、専門用語にはその都度注釈を添えながら、中立的な視点でまとめます。長い計画の歴史を一望することで、現在進行中の議論がどの文脈の延長にあるのかが見えてきます。
男女共同参画基本計画の基本構造
基本計画とは何か
男女共同参画基本計画とは、男女共同参画社会基本法(以下「基本法」)の第13条に基づき、政府全体で取り組む施策を体系的にまとめた計画です。基本法が「理念と枠組み」を定めるのに対し、基本計画は「何を、いつまでに、どう進めるか」を具体化する役割を担います。閣議決定によって策定され、各省庁はこの計画にしたがって個別の施策を立案・実施します。地方自治体も、これを参酌しながら独自の地方基本計画を策定する流れが定着しており、国・自治体・民間が連携する政策インフラとして機能しています。
策定のサイクル
基本計画はおおむね5年ごとに改定されてきました。第1次計画が2000年12月に策定されたのち、2005年に第2次、2010年に第3次、2015年に第4次、2020年に第5次と、ほぼ規則的に更新が続いています。第6次基本計画は2025年中の策定が予定されており、男女共同参画会議および各専門調査会で議論が重ねられています。改定のたびに、社会情勢の変化、国際的な動向、過去5年の達成状況の点検結果が反映される構造になっており、計画は固定的な文書ではなく時代に応じて更新される動的な政策文書として運用されています。
計画の構成要素
各基本計画はおおむね、(1)目指す社会の姿、(2)重点分野、(3)分野ごとの基本的方針、(4)具体的施策、(5)数値目標、(6)推進体制、という構成で組み立てられています。なかでも数値目標は、第2次計画で「202030」が登場して以降、計画の進捗を測る重要な物差しとなっています。ただし数値目標の達成状況は分野によって大きく差があり、その実効性は継続的な議論の対象となっています。目標と実態の乖離をどう埋めるかが、各計画期の運用上の大きな宿題となってきました。
第1次基本計画(2000年)|出発点の重点11分野
策定の背景
第1次基本計画は、男女共同参画社会基本法の施行(1999年6月)を受けて、2000年12月に閣議決定されました。当時は、1995年の北京女性会議(第4回世界女性会議)で採択された「北京行動綱領」の影響が強く、国内政策にも国際的な視点を反映させる動きが本格化していました。少子高齢化への対応、職業生活と家庭生活の両立、女性に対する暴力の防止など、現在に通じる課題群がここで政策の俎上に乗せられたことに、第1次計画の歴史的意義があります。基本法が示した理念を、初めて具体的な施策メニューに翻訳した文書として位置づけられています。
11の重点目標
第1次計画は11項目の重点目標を掲げました。代表的なものとして、次の項目が並びます。
- 政策・方針決定過程への女性の参画拡大
- 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保
- 農山漁村における男女共同参画の確立
- 男女の職業生活と家庭・地域生活の両立支援
- 高齢者等が安心して暮らせる条件の整備
- 女性に対するあらゆる暴力の根絶
- 生涯を通じた女性の健康支援
- メディアにおける表現の問題への対応
- 教育・学習における男女共同参画
- 地球社会における男女共同参画の推進
これらは現代まで継承される論点の原型であり、計画の出発点として今も参照されています。
到達点と課題
第1次計画は10年(平成12年度から平成22年度まで)を見通した基本的方向を示しつつ、5年間で実施する具体施策を併記する二段構造でした。施策ベースでの取り組みは前進した一方、政策決定過程への女性参画は、目標と現実のあいだに大きな隔たりが残りました。この経験が「数値目標を伴う実行計画」の必要性を浮き彫りにし、後の「202030」目標へとつながっていきます。第1次計画は、理念を施策に落とすだけでは社会変革は進まないという教訓を、その後の計画群に手渡したと評価できます。
第2次基本計画(2005年)|「202030」目標の登場
「202030」目標とは
第2次基本計画(2005年12月)で最も注目された方針が、いわゆる「202030」目標です。「2020年までに、社会のあらゆる分野において、指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする」という方針として打ち出されました。これは、北京行動綱領に示された「クリティカル・マス」(集団の意思決定構造が変わる臨界点となる比率)の考え方を反映したもので、政治・行政・経済・教育など幅広い分野で目標として設定されました。30%という数字は、単なる平等の象徴ではなく、組織文化を変えるための実効ラインとして位置づけられています。
ジェンダーの視点の本格化
第2次計画では、施策の企画立案・実施・評価のあらゆる段階に「ジェンダーの視点」を取り入れる「ジェンダー主流化」が明確に位置づけられました。ここでいうジェンダーとは、社会的・文化的につくられた性別の差を意識し、その差が不利益や格差を生んでいないかを点検する視点を指します(生物学的性別を意味する「セックス」とは区別される概念です)。同時に、ジェンダーという語の用法をめぐる社会的議論も活発化し、計画本文では用語の意味について慎重な定義づけが行われました。用語の意味するところを明示することは、その後の計画にも引き継がれる重要な作法となります。
女性に対する暴力への対応強化
2001年の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(DV防止法)の制定、その後の改正を踏まえ、第2次計画では女性に対する暴力への対応が強化されました。配偶者間暴力(DV)、性犯罪、ストーカー、セクシュアル・ハラスメントなどを横断的に捉え、相談体制や被害者保護の仕組みづくりが進められています。これらは個別法と基本計画が補完しあう関係を象徴する分野であり、後の改正・新法の流れの基盤になりました。
第3次・第4次基本計画|数値目標と実行体制の精緻化
第3次基本計画(2010年)の特徴
第3次計画では「実効性のあるアクション・プラン」が強調されました。15の重点分野ごとに、具体的施策と成果目標(KPI=重要業績評価指標)を整理し、進捗管理を可視化する仕組みが整えられています。男女共同参画会議のもと、フォローアップ専門調査会が定期的に施策の進捗を点検する体制も強化されました。施策と数値の関係を明示することで、各省庁の取り組みの実効性を担保しようとする設計です。「掲げるだけでは進まない」という第1次・第2次の反省を踏まえた、運用面での組み立て直しと位置づけられます。
第4次基本計画(2015年)の特徴
第4次計画は2015年に策定され、女性活躍推進法(同年制定、2016年施行)の動きと連動しました。同法は、企業や自治体に対し、女性の登用に関する状況把握・分析、行動計画策定、情報公表を求める枠組みを整備しました。これと整合させる形で、計画は「働き方改革」「あらゆる分野での女性の参画拡大」「安全・安心な暮らしの実現」を3本柱として整理しています。基本計画と個別法が車の両輪として機能する構図が、この時期に形作られました。企業のガバナンスや情報開示と男女共同参画施策が結びついた点も、第4次計画の特徴と言えます。
達成状況の点検
第3次・第4次の期間を通じて、「202030」目標の達成は分野ごとに大きく差が出ました。国家公務員の本省課室長相当職以上に占める女性割合や、上場企業の女性役員比率は上昇傾向を示した一方、国会議員、地方議会議員、企業の管理職全般では目標水準に遠く及ばない状況が続きました。この点検結果が、第5次計画における「2020年代の可能な限り早期に30%程度」という目標年次の事実上の見直しにつながります。数値の達成期限を後ろにずらす判断は、計画の信頼性を保つうえで難しい選択でもありました。
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男女共同参画白書(最新版)|内閣府男女共同参画局 編 ― 各次基本計画の到達状況、分野別の数値目標の達成度、国際比較などを公式データで確認できる年次資料です。基本計画の歴史を俯瞰する基礎文献として参照されています。
第5次基本計画(2020年)|コロナ禍と困難な状況への対応
策定の背景
第5次計画は2020年12月に閣議決定されました。策定の過程は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大期と重なり、女性の雇用への影響、家庭内のケア負担の偏り、DV相談件数の増加など、コロナ禍が顕在化させた課題への対応が、計画の重要なテーマとなりました。「2020年30%」目標の未達も明確化し、目標年次は「2020年代の可能な限り早期に」という表現に修正されています。社会的危機が既存の不均衡をどのように増幅するかを、計画本文が直接的に取り扱った点が大きな特徴です。
「困難な状況にある女性」への支援
第5次計画では、ひとり親世帯、性暴力被害者、生活困窮者、若年女性など、複合的な困難を抱える女性への支援が独立した重点項目として位置づけられました。この流れは、2022年に成立した「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(困難女性支援法、2024年4月施行)へと結実しています。従来の売春防止法に基づく「婦人保護事業」の枠組みを再構築し、当事者の意思を尊重した支援体制への転換が進められています。基本計画と新法の連動によって、戦後長らく続いてきた支援の枠組みが大きく組み替えられた事例として注目されています。
男性・男児の課題への着目
第5次計画では、「男性にとっての男女共同参画」という視点も明確に位置づけられました。男性の育児休業取得促進、長時間労働の是正、男性の家事・育児参画の推進などが、女性活躍と表裏一体の課題として整理されています。男性が育児休業を取得しやすい職場環境の整備は、その後2022年の育児・介護休業法改正(産後パパ育休の創設、育休取得状況の公表義務化)として制度化されました。男女共同参画は女性のための政策に限定されないという視点が、政策文書のレベルでより鮮明になった転換点と言えます。
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
2007年以降、男女共同参画にかかわる法制度は大きく動きました。代表的な動きとして、次の法整備が続きました。
- 2015年|女性活躍推進法の制定
- 2016年|ストーカー規制法の改正
- 2017年|刑法性犯罪規定の大改正
- 2022年|困難女性支援法の制定
- 2022年|育児・介護休業法改正(産後パパ育休の創設)
- 2023年|刑法性犯罪規定の再改正(不同意性交等罪の創設)
- 2023年|LGBT理解増進法の制定
- 2024年|配偶者暴力防止法改正(精神的暴力の保護命令対象化)
基本計画はこれらの法整備と並走しながら、計画本文の重点項目や数値目標を更新してきました。法律と計画が相互に参照しあう関係は、近年とくに強くなっています。
議論の現在地
2026年時点で、男女共同参画政策をめぐる議論は複線化しています。第一に、数値目標の置き方をめぐる議論があります。「202030」目標の未達を踏まえ、より高い目標(例えば指導的地位の男女比をおおむね均等にする方向)を設定すべきだという意見があります。一方、目標値の設定より達成プロセスや実効性ある制度設計を重視すべきだという意見もあり、両論が並んでいます。第二に、「ジェンダー」概念の射程をめぐる議論があり、性的指向・性自認に関する施策をどこまで基本計画に取り込むかについて、推進派・慎重派の双方から論点が示されています。本記事ではいずれの立場にも与せず、賛否両論があることを記述するにとどめます。
残された課題
残された主要な課題として、次の論点が指摘されています。
- 政治分野での女性参画(衆参両院・地方議会の女性議員比率の伸び悩み)
- 企業の管理職・役員における女性比率の業種間格差
- 無償ケア労働(家事・育児・介護)の男女非対称
- 地方部における女性流出と若年女性の選択肢
- 性暴力・DV被害者支援の地域格差
- 男性の生きづらさ(長時間労働、相談行動の少なさ、自殺率の高さ)
これらは第6次計画の重要な論点となる見通しであり、いずれも単一施策では解きほぐせない複合的なテーマとして整理されています。
第6次基本計画(2025年予定)が示す方向性
議論されている重点テーマ
第6次基本計画の策定に向けて、男女共同参画会議や各専門調査会では、次のテーマが議論されています。
- 指導的地位への女性参画の加速
- 経済的自立とジェンダーギャップの縮小
- 女性に対するあらゆる暴力の根絶
- 生涯を通じた健康支援(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)
- 防災・復興、地域、地球規模課題への対応
- 推進体制の強化
気候変動や人口減少と男女共同参画の交差領域も論点として浮上しており、より広い社会課題と接続する方向で議論が進められています。
「ジェンダーギャップ指数」の位置づけ
世界経済フォーラムが毎年公表する「ジェンダーギャップ指数」(経済・教育・健康・政治の4分野で男女格差を測る国際比較指標)における日本の順位低迷は、計画策定の議論で繰り返し言及されています。とくに政治分野・経済分野での順位の低さが課題とされ、第6次計画でもこの国際比較データを参照しつつ、分野別の目標設定が議論される見通しです。ただし、指数の評価軸そのものの妥当性については学術的な議論があり、複数の指標を組み合わせて評価することの重要性が指摘されています。順位の改善そのものを目的化せず、国内の構造課題を解きほぐす視点が必要だという議論も並んでいます。
計画の連続性と変化
下記の表は、第1次から第5次までの基本計画の重点を比較整理したものです。年表として参照することで、各計画がどの社会的課題に対応してきたかを俯瞰できます。
| 計画 | 策定年 | 主な特徴・重点 |
|---|---|---|
| 第1次 | 2000年 | 11の重点目標。基本法の理念を施策に展開する出発点 |
| 第2次 | 2005年 | 「202030」目標の登場。ジェンダー主流化の本格化 |
| 第3次 | 2010年 | 15の重点分野とKPIの整理。アクション・プラン化 |
| 第4次 | 2015年 | 女性活躍推進法と連動。3本柱(働き方・参画・安全安心) |
| 第5次 | 2020年 | コロナ禍対応、困難女性支援、男性の課題、目標年次見直し |
| 第6次(予定) | 2025年 | 議論中(指導的地位、経済的自立、暴力根絶、健康など) |
公的な相談窓口
男女共同参画にかかわる具体的な困りごとは、状況に応じて公的な相談窓口に問い合わせることが推奨されます。配偶者からの暴力やデートDVに関しては、内閣府の「DV相談+(プラス)」(電話 0120-279-889)や、各都道府県の配偶者暴力相談支援センターが、夜間・休日を含む相談体制を整えています。性犯罪・性暴力の被害については、警察庁の「性犯罪被害相談電話 #8103(ハートさん)」が全国共通短縮ダイヤルとして整備されています。法律問題全般については、法テラス(日本司法支援センター、電話 0570-078374)が、収入要件などの条件のもとで無料法律相談を案内しています。いずれも公的な窓口であり、必要に応じて専門の支援機関や法律専門家への橋渡しが行われます。
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これからの男女共同参画――政策と理論の最前線 ― 第5次計画策定後の政策議論と、ジェンダー研究の理論的展開を架橋する解説書です。基本計画の射程を学術的に位置づけ直したい方の入門書として参照されています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 男女共同参画基本計画は法律ですか?
A. 法律ではありません。男女共同参画社会基本法(1999年法律第78号)第13条に基づき、政府が閣議決定する計画です。法律は国会で議決して制定されますが、基本計画は法律のもとで政府が定める実行プランの位置づけです。各省庁はこの計画にしたがって個別の施策を立案・実施します。
Q2. 「202030」目標は達成されたのですか?
A. 分野によって差がありますが、社会全体として2020年時点で目標水準には届きませんでした。第5次基本計画では「2020年代の可能な限り早期に達成する」という表現に修正され、政治・経済分野では依然として達成への道のりが長い状況が続いています。一方、国家公務員の特定の職位や上場企業の女性役員比率など、上昇傾向が明確な指標もあります。
Q3. 地方自治体にも基本計画はあるのですか?
A. 都道府県は基本法第14条第1項により策定義務、市町村は同条第2項により策定の努力義務が定められています。多くの都道府県・市町村が、国の基本計画を参酌しながら、地域の実情に応じた地方基本計画を策定しています。地方計画は通常、各地方公共団体のウェブサイトで公開されています。
Q4. 第6次基本計画はいつ策定されますか?
A. 2025年中の策定が予定されており、男女共同参画会議と各専門調査会で議論が進められています。策定後は内閣府男女共同参画局の公式サイトで全文が公開される見通しです。最新の策定状況は同局の公式情報を参照することが推奨されます。
Q5. 基本計画の進捗はどこで確認できますか?
A. 毎年6月頃に公表される「男女共同参画白書」が、基本計画の進捗状況を公式に確認できる主要な資料です。白書は、各分野の現状データ、施策の実施状況、国際比較などを含み、内閣府男女共同参画局のサイトで全文がPDFで公開されています。図書館でも閲覧可能です。

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