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LGBT理解増進法とは|2023年成立の背景・条文・2026年の現在地を解説

LGBT理解増進法(正式名称:「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」)は、2023年6月に成立しました。日本で初めて性的指向およびジェンダーアイデンティティ(以下、SOGI:Sexual Orientation and Gender Identity)について定めた国レベルの法律として、国内外から注目を集めました。一方で「差別禁止規定を持たない」「立法過程で条文が修正された」といった議論も広がっており、法律の性質をめぐる論点は2026年時点でも続いています。

この記事では、LGBT理解増進法の条文構造・基本理念・成立背景から、2026年時点での施行状況と残された課題まで体系的に解説します。企業の人事・コンプライアンス担当者、自治体の男女共同参画推進員、学校の教職員、また性的マイノリティの問題を基礎から学びたい方を主な対象としています。「この法律がどのような位置づけにあるか」「何ができて何ができないか」「他の関連法とどう異なるか」「国際比較で見たとき日本はどこにいるか」——これらの問いに、法令の正確な根拠をもとに答えられるよう整理します。

目次

LGBT理解増進法の概要——日本初のSOGI関連法

正式名称と成立の経緯

LGBT理解増進法の正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(令和5年法律第68号)です。2023年6月16日に公布・即日施行されました。

法律名に「LGBT」という略称は使われておらず、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」という表現が選ばれています。これは、性的指向(同性・異性・両性に惹かれる傾向など)と、ジェンダーアイデンティティ(自分の性別をどのように認識するか)の両方を対象とするためです。

成立に至る過程では、2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催前を目処に超党派の議員立法として準備が進められましたが、法案への賛否が国会内でも大きく割れました。最終的に2023年6月の通常国会会期末に修正案が可決・成立しています。立法過程でいくつかの文言が当初案から変更されたことが、後述する議論の出発点となっています。e-Gov法令検索では「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和5年法律第68号)」として全文を参照できます。

「理解増進法」という性質——差別禁止法との違い

LGBT理解増進法はその名称が示すとおり「理解を増進させること」を目的とする法律であり、差別禁止法ではありません。

差別禁止法とは、特定の属性(性別・人種・障害等)を理由とした不当な取り扱いを法律上明示的に禁止し、違反した場合の制裁・救済措置を定めるものです。一方、LGBT理解増進法には差別行為を禁止する条項も、違反した場合の罰則も設けられていません。

「理解増進」を目的とする点では、障害者基本法(平成23年改正)や人権教育・啓発推進法(平成12年法律第147号)と同様の「理念的・啓発的な性格」を持つ法律に分類されます。したがって、LGBT理解増進法が存在するからといって、直ちに当事者への差別的取り扱いが違法になるわけではありません。この点は、法律を実際の職場・学校・生活の場で活用する際に、正しく理解しておく必要があります。

所管省庁と施行状況

LGBT理解増進法の所管は内閣府男女共同参画局が中心的な役割を担い、文部科学省・厚生労働省・経済産業省と連携して施策が進められています。

施行後、政府は2023年12月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する施策の推進に関する基本計画(第一次)」(以下、基本計画)を閣議決定しました。この基本計画には、国・地方公共団体・事業者・学校がそれぞれ取り組むべき内容が列挙されており、年次の実施状況報告が義務づけられています。2026年時点では第一次基本計画の折り返し期にあたり、各省庁の施策進捗の評価が行われています。

条文の骨格と主要規定

目的規定(第1条)と基本理念(第3条)

LGBT理解増進法第1条は、法律の目的を次のように定めています。

「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑み、(中略)全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。」(第1条要旨)

注目すべきは「全ての国民が(中略)等しく基本的人権を享有する」という部分です。これは憲法第14条の法の下の平等原則と整合する記述ですが、この理念を実現する具体的手段として同法が定めるのは「理解の増進」にとどまっています。

第3条は基本理念として「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」という文言を含みます。この「全ての国民が安心して生活できる」という表現は立法過程で追加されたものであり、「性的マイノリティ以外の人々の懸念・不安にも配慮する趣旨ではないか」という解釈をめぐる議論を呼びました。これに対し「性的マイノリティを含む全員が安心できる社会を指すもの」との解釈もあり、文言の意味については今後の行政解釈・司法判断の集積を待つ状況が続いています。

国・地方公共団体・事業者・学校の役割(第4条~第8条)

LGBT理解増進法第4条は国の役割として「基本計画の策定」「施策の総合的・計画的な推進」を定めています。地方公共団体については第5条で、国との連携・協力のもと地域の実情に応じた施策を実施する努力義務が課されています(「努めるものとする」の表現)。

第6条は事業者に対し、「職場における性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする」としています。これもあくまで努力義務であり、法的拘束力を持つ強制的な義務ではありません。ただし、厚生労働省のパワーハラスメント防止指針(労働施策総合推進法に基づく)では、性的指向・性自認に関するアウティングがパワーハラスメントに該当しうるとの旨が明記されており、LGBT理解増進法とは別の文脈で企業に対する規制的要請が生じています。

第7条は学校設置者に対して、家庭・地域社会と連携しつつ教育・啓発活動を推進するよう努める義務を課しています。第8条は民間団体による取り組みへの支援について定めています。なお、いずれの条文も「~するよう努めるものとする」という努力規定であり、不実施に対する制裁規定はありません。

基本計画と施策の実施(第9条以降)

第9条は政府に対し、LGBT理解増進施策に関する基本計画を策定し、実施状況を公表することを義務づけています。2023年12月に第一次基本計画が策定され、(1)啓発活動・教育の充実、(2)職場環境の整備、(3)医療・福祉分野での対応整備、(4)各府省庁の連携体制が盛り込まれました。

基本計画の実効性を担保する仕組み(第三者機関による監視・罰則等)は設けられていないため、各省庁の施策実施は自主的な取り組みに委ねられています。内閣府が毎年とりまとめる「実施状況報告書」が、施策進捗を確認できる一次資料となります(内閣府男女共同参画局公式サイトで公表)。

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成立背景と国際的潮流

国内における性的マイノリティへの差別実態

LGBT理解増進法の成立背景には、日本国内で蓄積されてきた性的マイノリティへの差別・偏見の実態があります。

電通ダイバーシティ・ラボが定期的に発表する「LGBT+調査」(最新版2023年度)によると、日本のLGBTQ+人口は調査対象の約10%前後と推計されており、当事者の多くが就職活動・職場・医療機関・学校など様々な場面で不当な取り扱いやハラスメントを経験していると報告されています。

特に「性的指向や性自認を本人の同意なく第三者に暴露すること」(アウティング)による被害は深刻です。2015年に東京都内の大学院で、学内でのアウティングの後に学生が死亡した事案が社会的に広く知られるようになり、アウティングが重大な権利侵害であるという認識が広まる契機となりました。この事案は、後にパワーハラスメント防止指針でアウティングが明記される流れにも影響したとされています。

法務省の人権擁護機関への相談件数でも、性的指向・性自認に関する相談は2010年代以降に増加傾向にあります。社会的な認知が高まるにつれ、声をあげる当事者が増えたことの反映ともいえます。

企業・自治体の先行取り組み

国の法整備に先行して、企業や自治体では独自の取り組みが進んでいました。

自治体では、2015年に東京都渋谷区・世田谷区が同性パートナーシップ宣誓制度を開始しました。2026年時点では全国350を超える自治体が同様の制度を導入しており(内閣府公表資料)、都道府県単位での広域パートナーシップ制度も普及しています。このパートナーシップ宣誓制度は法律婚ではありませんが、区の行政サービスや民間企業の福利厚生等での活用が広がっています。

企業では、採用・職場環境でのSOGI配慮を「ダイバーシティ&インクルージョン」施策の一環として積極的に取り組む動きが加速しており、一般社団法人work with Prideが策定するPRIDE指数(LGBTQ+施策評価指標)に取り組む企業が年々増加しています。特に大企業・外資系企業では、同性パートナーへの福利厚生適用(慶弔休暇・育児休業・健康保険の扶養認定等)が業界水準として定着しつつあります。

国際的な法整備の流れと日本の位置づけ

国際的には、ヨグヤカルタ原則(2006年策定・2017年第2版)が「性的指向及び性自認に関する人権の適用に関する国際法原則」として広く参照されています。この原則は各国政府に対して、性的指向・性自認を理由とする差別禁止を法制化するよう求めています。

国際労働機関(ILO)は2019年に採択した「仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約(第190号条約)」で、性的指向・性自認に基づく暴力とハラスメントも禁止対象として含めました。日本はこの条約を未批准の状態が続いています(2026年時点)。

欧州連合(EU)では2000年の雇用平等指令が性的指向を差別禁止事由に明示し、加盟国に国内法整備を義務づけました。米国では2020年の連邦最高裁判決(ボストック対クレイトン郡事件)でLGBTQ+への差別が公民権法第7編の性別差別に該当すると判断されました。国連・女性差別撤廃委員会(CEDAW)は2023年の対日審査において、日本に対してSOGI差別禁止法の制定を改めて勧告しています。

現代的論点|2026年時点の到達点

2007年以降の主な法改正・新法

LGBT理解増進法の前後を含め、性的マイノリティの権利に関連する主な法令・動向は以下のとおりです。

  • 性同一性障害特例法(平成15年法律第111号、2003年施行)性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律。一定要件(外科的手術要件等)を満たした場合の戸籍上の性別変更手続きを定めた法律。2023年10月、最高裁判所大法廷が外科的手術要件(第3条第1項第5号)について違憲と判断(令和5年10月25日大法廷決定)。
  • 労働施策総合推進法改正(2020年・大企業、2022年・中小企業施行):パワーハラスメント防止措置の義務化。同法に基づくパワハラ指針では、性的指向・性自認に関するアウティングがパワハラに該当しうることが明記。
  • 女性活躍推進法改正(2022年):101人以上の事業者へ情報公表義務が拡大。ジェンダー多様性の観点からの職場環境整備が加速する契機となった。
  • LGBT理解増進法成立(2023年6月、令和5年法律第68号):日本初のSOGI関連国法。理解増進を目的とし、差別禁止規定はなし。
  • 性同一性障害特例法の手術要件違憲判断(2023年10月):外科的手術を性別変更の要件とすることについて最高裁が違憲と判断。今後の特例法改正議論に影響。
  • 内閣府・LGBT理解増進基本計画(第一次)策定(2023年12月):施行に伴う政府の実施計画。啓発・教育・職場・医療の各分野の方向性を提示。
  • 第6次男女共同参画基本計画(2025年閣議決定予定):SOGIへの対応・パートナーシップ宣誓制度の普及が重点事項に位置づけられる見込み。

議論の現在地

LGBT理解増進法の成立をめぐっては、法律を前向きに評価する立場と、さらなる法整備の必要性を主張する立場の両方から議論が続いています。

評価する立場からの主な論点:

  • 国が初めてSOGIに言及した法律であり、社会全体の意識啓発の出発点として意義がある
  • 地方自治体・企業・学校に対して理解増進施策を努力義務とした点が、独自取り組みの後押しとなっている
  • 政府による基本計画・実施状況報告書の策定が進み、施策の「見える化」が実現した
  • 超党派での立法が可能であったことは、ある種の政治的コンセンサスの形成を示す

さらなる法整備を求める立場からの主な論点:

  • 「差別禁止規定がない」ため、当事者が不当な取り扱いを受けても法的救済を求める明確な手段が限られる
  • 立法過程で修正された「全ての国民が安心して生活できる」という文言が、本来の人権保護趣旨を弱めているとの指摘
  • G7各国が差別禁止法を持つ中、日本のみが「理解増進」にとどまっており国際基準から乖離しているとの批判
  • 国連・CEDAW委員会(2023年対日勧告)でもSOGI差別禁止法の制定が求められており、国際的な要請に応えていない

賛否いずれの立場についても、特定の価値判断を正解とすることなく、社会における多様な意見として把握することが重要です。

残された課題

2026年時点において、次のような課題が議論されています。

  • SOGI差別禁止法の制定:雇用・教育・医療・住居など各分野における性的指向・性自認を理由とした差別を明示的に禁止し、救済措置を備えた法律が存在しないことが最大の課題として指摘されている。
  • 性同一性障害特例法の改正:最高裁の違憲判断(2023年)を受けた特例法の見直しについて、国会での具体的な改正議論が続いている。手術要件に代わる性別変更手続きのあり方が問われている。
  • パートナーシップ制度の法的効果の限界:自治体のパートナーシップ宣誓制度では相続権・扶養義務・医療同意等の法的効果が生じない。法律婚と同等の効果を持つ制度のあり方に関する議論は継続中。
  • アウティング禁止規定の整備:現状はパワハラ防止指針でのアウティング言及にとどまっており、民事上の損害賠償請求根拠としての明確な法的規定が未整備。
  • 教育現場での実施状況のばらつき:LGBT理解増進法に基づく学校での啓発教育の内容・頻度に地域差が大きく、標準化が課題とされている。

LGBT理解増進法と男女共同参画社会基本法の接点

両法の目的と人権的基盤

男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号、最終改正: 平成11年6月23日施行)は、「男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現」(第1条要旨)を目的としています。

LGBT理解増進法は、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」を対象とする点で、男女共同参画社会基本法が前提とする「男女」の二元的枠組みを拡張するものとして位置づけられます。両法は独立した法律ですが、「性別に関わりなく個人が尊重される社会」という人権的基盤を共有しています。内閣府男女共同参画局が両法の関連施策を所管していることも、政策的な連続性を示しています。

なお、男女共同参画社会基本法第5条(社会における制度又は慣行についての配慮)は、「社会における制度又は慣行が、性別による固定的な役割分担等を反映して、男女の社会における活動の選択に対して中立でない影響を及ぼすことのないよう配慮されなければならない」と定めています。この「固定的な役割分担」への問題意識は、性別二元論に縛られた社会規範全体への批判と通底しており、SOGI施策との親和性があります。

第6次男女共同参画基本計画での位置づけ

内閣府が2025年度を目処に策定を進める第6次男女共同参画基本計画(第5次は2020年~2025年)では、LGBTQ+に関する施策が「性的指向・性自認に関する多様性への対応」として独立した柱として盛り込まれる方向で議論されています。

第5次基本計画(2020年12月閣議決定)においても「性的指向・性自認(SOGI)を理由とする差別・偏見の解消」が重点事項とされていましたが、具体的な法的措置にまで踏み込むには至りませんでした。第6次計画では、LGBT理解増進法の施行後の実施状況評価と、さらなる施策の方向性が示される見込みです。また、自治体のパートナーシップ宣誓制度の全国的な普及に向けた国の関与のあり方も論点の一つとなっています。

職場・学校での実践的な取り組み事例

LGBT理解増進法の施行後、職場・学校での取り組みを後押しする動きが活発化しています。

職場での取り組みの例:

  • 社内規程・就業規則への性的指向・性自認に関する差別禁止条項の追加
  • 福利厚生(慶弔休暇・家族手当・育児休業)の同性パートナーへの適用拡大
  • 性別に関係のない制服・職場施設(更衣室・トイレ等)の利用方針の明文化
  • 人事担当者・管理職向けのSOGI研修の定期実施
  • 社内相談窓口でのSOGI相談受け付け体制の整備(守秘義務の明確化含む)

学校での取り組みの例:

  • 文部科学省「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(通知)」(2023年改定)に基づく個別対応の整備
  • 制服・名簿・更衣室における性別配慮の柔軟化(本人の希望を尊重する運用)
  • 性の多様性に関する授業・ホームルーム活動の実施
  • スクールカウンセラー・養護教諭向けのSOGI対応研修の実施

主要国のSOGI関連法制比較

国・地域 SOGI差別禁止 パートナーシップ・婚姻 性別変更要件 特記事項
日本 理解増進法(罰則なし・努力義務) 自治体パートナーシップ宣誓制度のみ(法律婚なし) 性同一性障害特例法(手術要件を2023年最高裁が違憲判断) G7で唯一・差別禁止規定なし
ドイツ 一般平等待遇法(AGG)に規定・罰則あり 同性婚(2017年~) 自認主義(2024年新法・手術不要) EU雇用平等指令に準拠
フランス 刑法・労働法に差別禁止規定 同性婚(2013年~) 自認主義(手術不要・2016年~) PACS制度(1999年~)が先行
英国 平等法(Equality Act 2010)性的指向・性同一性を保護特性に明記 同性婚(2014年~) 性別承認証明書(手術不要) 包括的な差別禁止法が整備済み
米国 2020年連邦最高裁判決で公民権法第7編の適用拡張 同性婚(2015年最高裁判決後、2022年結婚尊重法で法制化) 州によって異なる(自認主義の州あり) 州によって大きく対応が異なる
台湾 性別平等教育法・性別工作平等法 同性婚(2019年~、アジア初) 手術要件あり(緩和議論継続中) アジアで最も法整備が進む
韓国 差別禁止法案は未成立(2021年以降審議継続) 法律婚なし(議論あり) 手術要件あり 日本と類似した状況にある

※上記は2026年時点の概況です。各国の制度は変更されることがあります。最新情報は各国政府・EU公式資料等でご確認ください。

欧米諸国と日本の法的差異

表が示すとおり、G7主要国(日本・米国・英国・フランス・ドイツ・イタリア・カナダ)のうち、SOGI差別禁止に関する実効的な法律(罰則・救済措置付き)を持たないのは日本のみとなっています。欧州連合(EU)は2000年の雇用平等指令で性的指向を差別禁止事由に含め、加盟国に対して国内法整備を義務づけました。

日本国内では、憲法第14条の「法の下の平等」に基づく司法判断や、民法上の不法行為(第709条)法理による損害賠償請求が個別事案ごとに行われていますが、性的指向・性自認を差別禁止事由として明文化した根拠規定がないため、訴訟での立証が難しいケースも見られます。

アジア地域の動向

アジア地域では、台湾が2019年にアジア初の同性婚を実現しており、性別平等教育法・性別工作平等法による職場差別禁止体制も整備されています。タイでは2024年に同性婚法が国会で可決・2025年施行となり、東南アジア初の法律婚が実現しました。

インドでは2023年に最高裁が同性婚の憲法上の権利を認めない判断を示しており、各国それぞれの法的・社会的状況の違いが際立っています。韓国では差別禁止法案の審議が長期化しており、日本との類似点が指摘されています。国際NGO・人権研究者からは、日本はアジアの中でも法整備が相対的に遅れているという評価も示されています。

性的マイノリティに関する相談窓口

公的相談窓口・支援先

性的指向・性自認に関する悩みや差別被害については、以下の窓口に相談することができます。

  • 法務省・みんなの人権110番(0570-003-110):平日8:30~17:15。性的指向・性自認を理由とした差別・ハラスメント被害の相談を受け付けています。最寄りの法務局・地方法務局につながります。
  • よりそいホットライン・性的マイノリティ専用回線(0120-279-338):24時間無料。一般社団法人いのちの電話系列。性的マイノリティ当事者・支援者向けの悩み相談に対応しています。
  • 法テラス・法律相談(0570-078374):弁護士費用の立替・紹介制度あり。収入・資産要件を満たす場合は法律相談を無料で受けられます。職場差別・アウティング被害等の法的問題に対応できる弁護士の紹介が可能です。

具体的な法的問題(雇用差別・アウティング被害・パートナーシップに関する法的手続き等)については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。

まとめ——理解増進から制度整備へ

LGBT理解増進法が示す意義と限界

LGBT理解増進法は、日本の法体系において性的指向とジェンダーアイデンティティが初めて明示された国法という点で歴史的な意義を持ちます。政府・地方公共団体・事業者・学校に対して「理解増進のための取り組みを進める」という方向性が示されたことは、自治体や企業の独自施策を後押しする効果があります。

同時に、この法律が「理解増進」にとどまり差別禁止規定を持たないという事実は、当事者の法的保護という観点で大きな課題を残しています。男女共同参画社会基本法が1999年に理念を示し、その後の均等法改正・育介法改正・女性活躍推進法等につながったように、LGBT理解増進法もまた、さらなる法制度整備に向けた出発点として機能する可能性があります。

これからの学びのために

LGBT理解増進法を正確に読み解くためには、男女共同参画社会基本法・性同一性障害特例法・労働施策総合推進法(パワハラ防止)・CEDAW(女性差別撤廃条約)・ILO第190号条約など、周辺の法令・国際条約を横断的に理解することが重要です。

また、最高裁判所の動向(性同一性障害特例法の違憲判断の続報)、国会での関連法案の審議状況、第6次男女共同参画基本計画の策定状況は、引き続きウォッチすることが推奨されます。内閣府男女共同参画局の公式サイトや最高裁判所の判例検索システムを活用することで、一次資料に基づく最新情報の確認が可能です。

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よくある質問(FAQ)

Q1. LGBT理解増進法は「差別禁止法」ではないのですか?
LGBT理解増進法は「理解を増進させること」を目的とする啓発・促進型の法律であり、差別行為を明示的に禁止したり、違反した場合の罰則・救済手続きを定めたりするものではありません。G7各国が差別禁止規定を持つ中、日本のみが「理解増進」の段階にとどまっているとの指摘があります。
Q2. 企業はこの法律によって具体的に何をする必要がありますか?
LGBT理解増進法第6条は、事業者に対して「職場での理解増進のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする」という努力義務を課しています。罰則や義務履行の強制手段は設けられていないため、どの程度の対応をするかは各事業者の判断に委ねられています。ただし、労働施策総合推進法に基づくパワーハラスメント防止指針では、アウティングがパワハラに該当しうると明記されており、別の法律の観点から留意が必要です。
Q3. 性同一性障害特例法とLGBT理解増進法はどう違いますか?
性同一性障害特例法(平成15年法律第111号)は、一定要件を満たすトランスジェンダーの方が戸籍上の性別を変更できる手続きを定めた法律です。LGBT理解増進法とは対象・目的が異なります。性同一性障害特例法については2023年10月の最高裁決定で手術要件が違憲と判断されており、法改正の議論が進行中です。
Q4. 自治体のパートナーシップ宣誓制度と法律婚はどう違いますか?
パートナーシップ宣誓制度は、自治体が同性カップル等の関係を「パートナーシップ」として証明するものであり、民法上の婚姻(法律婚)ではありません。相続権・扶養義務・医療同意権などの法的効果は生じず、異動した際には転入先自治体でも同様の手続きが必要になる場合があります(複数自治体が連携する「広域パートナーシップ制度」の導入は進んでいます)。
Q5. 「全ての国民が安心して生活できる」という文言はどういう意味ですか?
LGBT理解増進法第3条の基本理念に含まれるこの文言は、立法過程で追加されたものです。「性的マイノリティを含む全ての人が安心して暮らせる社会」との解釈がある一方、「性的マイノリティ以外の人々の懸念にも配慮した」との解釈もあり、法学者・当事者の間で議論が続いています。今後の行政解釈・司法判断の集積を待つことになります。
Q6. 性的マイノリティに関する悩みを相談できる公的窓口はありますか?
法務省が運営する「みんなの人権110番」(0570-003-110)や、24時間対応の「よりそいホットライン・性的マイノリティ専用回線」(0120-279-338)が利用できます。法律問題については「法テラス」(0570-078374)で弁護士の紹介を受けることも可能です。

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