就職活動中に、面接官やOB・OG訪問の相手から不快な言動を受けたことはありませんか。「個人的に連絡先を教えてほしい」「交際しているの?」「そういう服装は採用に影響するよ」といった言葉は、単なる雑談ではなく、就活セクハラ(就職活動中のセクシュアルハラスメント)に当たる可能性があります。就活生は採用側との立場の差から断りにくい状況に置かれやすく、これまで法的な義務規定の空白地帯となってきた問題です。
2025年6月、改正男女雇用機会均等法(改正均等法)が成立しました。この改正により、企業が求職者に対してもセクシュアルハラスメント防止措置を講ずる義務が、2026年10月1日から施行されます。採用担当者やリクルーターが就活生に対して行うハラスメントについても、企業の管理責任が明確に問われるようになります。
本記事では、就活セクハラの定義・具体例から、2026年10月施行の義務化の内容、OB・OG訪問やインターンシップでの注意点、企業が講ずべき措置、被害を受けた場合の相談先までを、法律の根拠とともに解説します。採用活動に関わる人事担当者や、就職活動中の学生・その保護者の方々にとって役立つ情報をまとめています。
就活セクハラとは何か
定義と対象となる人物関係
就活セクハラとは、就職活動(採用選考・OB/OG訪問・インターンシップ・教育実習など)の過程において、採用担当者・社員・リクルーターなどが求職者(就活生・インターン参加者等)に対して行うセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ。以下、セクハラ)のことです。
従来の職場内セクハラが「雇用関係にある労働者間」の問題として規定されてきたのに対し、就活セクハラは「雇用関係がまだ成立していない求職者」を対象とする点が異なります。この違いにより、2026年10月1日の改正施行以前は、就活セクハラに対する企業の法的義務が明文化されていませんでした。
セクシュアルハラスメントの2つの類型
セクシュアルハラスメント(社会的・文化的な性別役割に基づく不当な言動を含む性的嫌がらせ)は、一般に次の2類型に分類されます。
- 対価型セクシュアルハラスメント:性的な言動に対する拒否・抵抗を理由として、採用選考上の不利益(不採用・選考通過の妨害など)をもたらすもの。
- 環境型セクシュアルハラスメント:性的な言動によって就活生の就職活動を著しく阻害する環境を作り出すもの。
「断ったら選考で不利になるのでは」という心理的圧力を利用した言動は対価型に当たる可能性があります。また、繰り返される不快な言動によって就活活動自体が続けられなくなるほどの状況は、環境型として問題視される余地があります。
対象となる場面の範囲
改正均等法および2026年2月26日に公布された求職者等セクシュアルハラスメント防止指針では、次の場面が就活セクハラの対象として想定されています。
- 企業の採用選考(面接・グループディスカッション・適性検査など)
- OB・OG訪問(社員と就活生が個別に会って話す機会)
- インターンシップ(就業体験)
- 教育実習(学校等での実習を含む)
これらの場面は就職活動に関連したものですが、必ずしも企業の正式な採用プロセスに位置づけられていない場合もあります。OB・OG訪問のように個人の人脈を通じた面会も対象に含まれる点は、企業の管理体制のあり方として今後の議論が続く部分です。
問題になり得る言動の具体例
採用選考・面接場面での言動
採用面接や選考過程で起こり得る就活セクハラの例として、次のようなものが考えられます。
- 容姿・体型・服装について不必要なコメントをする(「その服はよく似合っている」「もっと女性らしい格好のほうが印象がいい」など)
- 交際・結婚・妊娠の予定について業務と無関係な形で執拗に質問する
- 業務と無関係な性的な話題を持ち出す、または性的な冗談を言う
- 選考の合否・通過条件と性的な事柄を結びつけるような言動をする
- 身体的な特徴を理由に特定の職種や部署を「向いている・向いていない」と誘導する
採用面接での禁止事項には、本人に責任のない事柄(家族構成・本籍地・思想など)への質問が含まれますが、性的な言動はセクハラとして別途問題となる場合があります。
OB・OG訪問における注意点
OB・OG訪問は、就活生が社会人と個別に会う非公式な場であるため、問題が起きやすい場面の一つとされています。個室や飲食の場で行われることも多く、就活生が断りにくい状況が生まれやすい実態があります。以下のような言動が問題になり得ます。
- 個人的な連絡先(LINEや私用メールアドレスなど)を要求する
- 食事・飲み会・ドライブなど、二人きりでのプライベートな場への誘い
- 身体的な接触(肩に手を置く、手を握るなど)
- 「選考で融通できる」など、採用への影響をほのめかした要求や発言
- プライベートな交際関係や性生活について過度に質問する
OB・OG訪問は企業の正式な採用プロセスとは位置づけられていない場合もありますが、企業に関連する社員が行う言動として、企業の管理責任が問われる余地があるとされています。
インターンシップ・教育実習での事例
数日から数週間にわたるインターンシップや教育実習では、就活生・実習生が職場環境に継続的にさらされるため、以下のような言動が環境型セクハラに当たる可能性があります。
- 職場で性的な冗談や性的な話題が繰り返される環境が続く
- 特定の実習生に対して容姿へのコメントが反復される
- 個人的な関係を迫る言動が継続する
- 指導という名目で必要以上に身体的な接触を行う
インターンシップ参加者が正式な選考に進む「採用直結型インターン」が広がるなか、就活生は断ることへの心理的ハードルが特に高い状況に置かれやすいといえます。
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就活セクハラ・職場内セクハラ・カスハラの違い
3類型の対象・根拠・義務の比較
就活セクハラ・職場内セクハラ・カスタマーハラスメント(カスハラ。顧客・取引先などから労働者に向けられるハラスメント)はいずれも職場や採用活動に関わるハラスメントですが、対象となる人物・関係性、根拠法、事業主が講ずべき措置の内容が異なります。
| 区分 | 対象関係 | 主な根拠法 | 事業主措置の内容 | 義務化 |
|---|---|---|---|---|
| 就活セクハラ | 採用側社員→求職者(就活生・インターン・教育実習生等) | 改正男女雇用機会均等法(新設条文) | 就業規則への禁止明記・採用担当者研修・採用HP等への相談窓口明記 | 2026年10月1日施行 |
| 職場内セクハラ | 労働者間・上司→部下等(雇用関係あり) | 男女雇用機会均等法第11条(現行) | 相談窓口設置・就業規則整備・事実確認・再発防止 | 2007年改正で義務化(現行) |
| カスタマーハラスメント | 顧客・取引先→労働者 | 改正労働施策総合推進法 | 対応方針の明確化・体制整備・事案対応・相談窓口 | 2026年10月1日施行 |
就活セクハラとカスハラは、2026年10月1日という同日施行・同一改正パッケージで義務化される共通点があります。カスハラについてはカスタマーハラスメント対策義務化もあわせてご参照ください。
既存の職場内セクハラ規定との関係
これまでの男女雇用機会均等法第11条の事業主措置義務は、職場における雇用関係にある労働者間のセクハラを対象としていました。就活生は雇用関係がないため、同条の直接の保護対象外でした。
2025年6月の改正では新たな条文として求職者等に対するセクハラ防止が加えられ、雇用関係の有無にかかわらず、採用活動に関連した場面での事業主の義務が明確化されました。職場内セクハラとの違いについては職場のセクシュアルハラスメントとはもご参照ください。ジェンダーハラスメント(ジェンダー(社会的・文化的に形成された性別。生物学的性別=セックスと区別される概念)の固定観念に基づく嫌がらせ)との重複についてはジェンダーハラスメントとはをご確認ください。
2026年10月1日施行・改正均等法の概要
改正の経緯と成立の背景
2025年6月、第213回通常国会において、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)の改正が成立しました。この改正は、就職活動中の学生・求職者がセクハラ被害を受ける問題が社会的に注目されてきた経緯を受けたものです。
法律の条文はe-Gov: 男女雇用機会均等法(外部リンク)から確認できます。厚生労働省は2026年2月26日に「求職者等セクシュアルハラスメント防止指針」を公布しており、事業主が講ずべき措置の具体的な内容が示されています。厚生労働省のハラスメント防止に関する情報は厚生労働省ハラスメント防止ページ(外部リンク)でも参照できます。
企業・事業主が講ずべき措置の内容
求職者等セクシュアルハラスメント防止指針に基づき、事業主が講ずべきとされる主な措置は次のとおりです。
- 就業規則等への禁止明記:求職者に対するセクハラを禁止する旨を就業規則や社内規程に明記し、全社員に周知する。
- 採用担当者・リクルーターへの研修:採用活動に関わる社員全員に対し、就活セクハラの定義・具体例・防止策について教育・研修を実施する。リクルーター(在学生と交流して採用活動を担う社員)も対象となる。
- 採用HP等への相談窓口明記:採用情報ページや会社説明会の案内資料に、就活セクハラに関する相談窓口を明示する。
- 相談への適切な対応体制の整備:求職者から相談を受けた場合に、事実確認・行為者への措置・再発防止策を適切に講ずる体制を整備する。
- 相談を理由とした不利益取り扱いの禁止:相談したこと、または調査協力を理由として、採用選考上の不利益な取り扱いをすることを禁ずる規程を整備する。
全事業主への適用と対応の考え方
改正均等法による求職者等セクハラ防止措置の義務化は、従業員数にかかわらず全事業主が対象です。中小企業や個人事業主についても、採用活動を行う限り義務の対象となります。
措置の具体的な方法については、企業規模や業種に応じた合理的な範囲での対応が求められると考えられています。たとえば大規模な専門研修を整備することが難しい小規模事業者の場合、外部資料の共有や個別説明会の活用など、実態に即した対応が求められる見通しです。詳細は指針・通達・行政解釈によって順次明確化される予定です。
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
2007年の男女雇用機会均等法改正では、職場内のセクシュアルハラスメント防止措置義務が強化されました。同改正は男女双方を対象とし、事業主が相談体制の整備・事実確認・再発防止の措置を講ずることを義務づけました。
その後、2020年の労働施策総合推進法改正(いわゆるパワハラ防止法)でパワーハラスメントへの措置義務が初めて明文化され、2022年には中小企業にも義務が拡大されました。2025年の改正均等法では、これらのハラスメント規制の系譜を受け継ぎつつ、採用活動という雇用前の段階にまで保護を広げたことが大きな特徴です。男女共同参画社会基本法と雇用機会均等法の位置づけについては、男女共同参画社会基本法の概要もご参照ください。
議論の現在地
就活セクハラの義務化をめぐっては、さまざまな立場からの議論が続いています。
義務化を支持する立場からは、「採用という権力関係の非対称性が高い場面でこそ保護が必要」「OB・OG訪問は非公式な場であっても実質的に採用に影響するため規制が不可欠」という意見が出ています。就活生は断ることへの心理的ハードルが高く、従来の規制の空白地帯となってきた点は長年の課題として指摘されてきました。また、「法的義務が明確化されることで、問題が起きた際の企業の対応が迅速になる」とする見方もあります。
慎重・批判的な立場からは、「採用担当者個人の言動と企業責任の範囲が曖昧で、企業に過大な負担が生じる恐れがある」「OB・OG訪問は企業が関与しない個人的な人脈を通じた場合もあり、管理対象にすることへの困難さがある」といった指摘もあります。さらに、「訴えられるリスクへの過度な萎縮により、OB・OG訪問の機会が失われることで就活生が実際に不利益を受ける懸念がある」という声も一部にあります。
残された課題
2026年の義務化後も、以下のような課題が引き続き重要な検討テーマとなっています。
- OB・OG訪問の管理難易度:個人的な人脈を通じたOB・OG訪問は、企業が完全に把握・管理することが難しい場面です。企業としてどこまでの責任を負うかについて、今後の解釈・判例の積み重ねが求められます。
- 就活生が声を上げにくい構造:採用選考との心理的つながりがある限り、就活生が被害を申し出ることへのハードルは依然として高い状況です。相談窓口の実効性をどう確保するかが問われます。
- デジタル上での言動への対応:採用担当者からのSNSダイレクトメッセージ・オンライン面談外でのやり取りなど、デジタル上での言動についての対応範囲も今後明確化が必要です。
- 多様な立場の就活生への配慮:外国人留学生・障害のある学生・経済的困難を抱える学生など、権利情報へのアクセスが困難な立場にある就活生への情報提供と支援体制も課題として残ります。
被害を受けた場合の相談先と対処の考え方
被害を受けたと感じたときの初期対応
就活セクハラと感じる経験をした場合、以下のような記録を残しておくことが、後の相談・手続きに役立つ場合があります。ただし、記録を残すことは義務ではなく、まず自身の安全と精神的な安定を最優先にしてください。
- 日時・場所・言動の内容をできるだけ具体的にメモしておく
- メールやSNSメッセージ・通話履歴がある場合はスクリーンショットなどで保存する
- 信頼できる人(友人・家族・大学のキャリアセンター担当者など)に状況を話しておく
ひとりで問題を抱え込まず、専門機関や信頼できる周囲の人に相談することが重要です。
公的相談窓口
就活セクハラに関して利用できる主な相談窓口を以下に示します。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):男女雇用機会均等法に関する相談・申告を受け付けています。2026年10月以降は就活セクハラについても相談対象となります。無料で利用できます。
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891):性暴力・性的被害全般の相談に対応しています。24時間対応している都道府県もあります。
- 法テラス(0570-078374):法的な問題について、弁護士費用の立替制度や無料の情報提供が受けられます。収入・資産の要件があります。
- 学校・大学のキャリアセンター・学生相談室:在学中の就活生であれば、就職活動に関するトラブルを含めた相談が可能な場合があります。
相談機関への問い合わせは、必ずしも訴訟・申告に直結するものではありません。状況を整理し、選択肢を確認するためだけに利用することも可能です。
企業の相談窓口が機能しない場合
企業内の相談窓口に申し出ることが難しい、または申し出たにもかかわらず適切に対応されなかった場合には、企業外の機関(都道府県労働局・弁護士・支援団体など)に相談する方法があります。
改正均等法では、就活セクハラに関して相談したこと、または事実関係の調査に協力したことを理由として、採用選考上の不利益な取り扱いをすることが禁じられるとされています。ただし、実際の対応の可否・手続きの方法については個別の事情によって異なるため、具体的な判断については専門の相談機関への問い合わせが適切です。
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よくある質問(FAQ)
就活セクハラとはどのような行為ですか?
就活セクハラとは、採用選考・OB/OG訪問・インターンシップなどの就職活動の場で、採用担当者や社員が求職者(就活生)に対して行う性的な言動のことです。容姿へのコメント・個人的な連絡先の要求・交際の誘い・選考への影響をほのめかした発言などが代表的な例として挙げられています。
OB・OG訪問も就活セクハラの対象になりますか?
2026年10月1日施行の改正男女雇用機会均等法に基づく求職者等セクシュアルハラスメント防止指針では、OB・OG訪問も対象となる場面として示されています。企業と関連する社員が就活生に行う言動として、企業の管理責任が及ぶ範囲については今後の解釈・運用が積み重ねられていく見込みです。
いつから企業の防止措置が義務になりますか?
2026年10月1日から施行されます。根拠法は改正男女雇用機会均等法(2025年6月成立)です。従業員規模にかかわらず全事業主が対象となります。
就活セクハラを受けた場合、どこに相談すればよいですか?
都道府県労働局(雇用環境・均等部・室)が主な相談窓口です。また、法テラス(0570-078374)・大学のキャリアセンターや学生相談室・性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891)なども利用できます。相談したことで採用に不利が生じることは法律上禁じられています。
企業が講ずべき措置にはどのようなものがありますか?
求職者等セクハラ防止指針が示す主な措置として、①就業規則等への禁止明記、②採用担当者・リクルーターへの研修実施、③採用HP等への相談窓口明記、④相談への適切な対応体制の整備の4点が挙げられています。
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