「男は弱音を吐くな」「稼いでこそ一人前」――こうした言葉に、見えない重さを感じたことはないでしょうか。ジェンダー平等の議論が深まる2026年においても、男性の生きづらさは社会的に十分に可視化されているとはいえません。厚生労働省の自殺統計では、男性の自殺者数は女性の約2倍の水準を長年にわたり維持し、内閣府「配偶者暴力に関する調査」(2021年)では、男性の配偶者からの暴力被害経験率も約5.0%と確認されています。
男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号、最終改正:2019年)が掲げる「すべての人が、性別にかかわりなく、個性と能力を十分に発揮できる社会」という理念は、女性だけでなく男性を含む「あらゆる人」のためのものです。しかし、男性の相談難民・孤立問題・育休取得障壁といった課題は、依然として政策の優先課題として扱われにくい現状があります。
本記事では、男性の生きづらさの背景にあるマスキュリニティ規範(社会的に期待される男性像)の概念から、男性を対象とした相談制度・法律の整備状況、現代的論点、そして市民として男女共同参画を推進する方法まで体系的に解説します。ジェンダー平等に関心のある方、人事・労務担当者、あるいはご自身が「男性として生きることのしんどさ」を感じている方にとって、情報整理の一助となることを目指しています。
「男性の生きづらさ」とはどういうことか
マスキュリニティ規範と社会的期待
マスキュリニティ規範(masculinity norms)とは、社会・文化が「男性はかくあるべき」と期待する行動・態度・役割の集合を指します。「感情を表に出さない」「弱みを見せない」「経済的に自立し家族を養う」「競争に勝つ」「助けを求めない」といった期待がその典型例です。
こうした規範は、社会への適応を支える側面を持つ一方で、感情的なケアや助けを求める行動を妨げる側面があると、ジェンダー研究・男性学(men’s studies)の蓄積は指摘してきました。規範から外れたと感じるとき、男性は自己否定感を深めやすく、問題が深刻化するまで支援を求めないという状況を生み出しやすい構造があります。
マスキュリニティ規範は、男性自身を縛るだけでなく、職場のパワーハラスメントや家庭での暴力と結びつく場合があることも、研究上指摘されています。「男が謝るな」「男なら黙ってやれ」という圧力は、ハラスメント構造を温存する一要因とも分析されます。ジェンダー平等の推進は、女性への不平等是正と同時に、こうした男性を縛る規範の解体でもあるとされています。
ジェンダー平等論の中での男性問題の位置づけ
ジェンダー平等(gender equality)の議論は、歴史的に女性の権利拡大を中心に展開されてきました。これは、女性が構造的に不平等な扱いを受けてきた事実に対応するものであり、その重要性は揺るぎません。
一方で、ジェンダー平等の理念は「すべての人が性別によらず機会と権利を等しく享受できること」を意味します。そのため、男性が性別役割規範によって生きづらさを抱える問題も、ジェンダー平等の課題の一部として位置づける理論的枠組みが国際的に広まっています。
ただし、「男性の生きづらさ」を強調することで、女性に対する構造的不平等を相対化・矮小化することには注意が必要です。男性の問題と女性の問題は対立するものではなく、いずれもジェンダー規範の解体によって改善されるという点で共通の課題を持つとされています。この認識が、「すべての人のためのジェンダー平等」という今日の政策的方向性の根拠にもなっています。
国際的な議論の整理
国際連合(UN Women)は「HeForShe(ヒーフォーシー)」キャンペーン(2014年~)を通じて、男性・男児をジェンダー平等推進の担い手として位置づけることを提唱しています。世界保健機関(WHO)も、男性の保健・育児・暴力予防についての国際的な研究・政策提言を蓄積してきました。
OECD(経済協力開発機構)は2021年の報告書「Man Enough? Measuring Masculine Norms to Understand Their Prevalence and Which Men are Most Affected」において、マスキュリニティ規範と男性の健康・就労・育児の関係を定量的に分析しています。日本は、こうした国際的な論議の中で男性のジェンダー問題への対応が遅れている国の一つとして言及されることが少なくありません。
第6次男女共同参画基本計画(2020年12月閣議決定)でも、「男性の家庭・地域参画」「男性の育休取得促進」が重点施策として組み込まれており、男性の問題が政策アジェンダに入る動きは着実に進んでいます。
統計データが示す男性の現状
自殺・メンタルヘルス統計
厚生労働省「令和5年(2023年)の自殺の状況」によれば、2023年の国内自殺者数は21,818人で、そのうち男性は14,862人(全体の68.1%)を占めています。女性の約2倍という数値は過去10年以上継続しており、男性の自殺は深刻な社会課題として認識されています。
自殺の背景には経済的問題・健康問題・家庭問題・職場問題など複合的な要因があります。研究者や支援現場からは、「男性は弱音を吐けない」というマスキュリニティ規範が相談行動を妨げ、問題が深刻化するまで支援につながりにくい構造があるとの指摘が出ています。
精神保健福祉センターや産業保健分野の調査でも、男性は抑うつ状態になっても受診や相談を遅らせる傾向があることが示されています。「誰かに頼る」という行動そのものが、男性にとって規範に反すると感じられやすいことが背景にあります。
男性の孤立・無縁社会問題
内閣府「令和4年 人との繋がりに関する基礎調査」(2022年)では、「相談できる人がいない」と回答した割合は男性(13.0%)が女性(7.0%)を大きく上回っていました。男性は家族以外の社会的ネットワークが薄く、特に離別・死別後や退職後に孤立しやすい傾向が数値として確認されています。
東京都監察医務院の統計では、自宅での孤独死のうち男性が占める割合は約7割前後とされています。「助けを求める」行動が社会的にマイナスと見られやすい規範が、命に関わる問題の深刻化につながる一因として注目されています。
孤独・孤立対策推進法(令和5年法律第45号、2024年4月施行)は、孤独・孤立状態にある人への支援体制整備を国・自治体の責務として規定しており、男性特有の孤立リスクへの対応も視野に入れた施策展開が求められています。
働き方と男性のケア役割
厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」(2024年公表)によれば、2023年度の男性育児休業取得率は30.1%と初めて30%台に達しました。一方、取得日数をみると1か月未満が約6割を占め、女性(平均約10か月)と比較して短期取得にとどまる実態があります。
男性がケア役割(育児・介護・家事)を担うことへの社会的障壁として、「育休を取りたいが言い出せない」「職場の雰囲気が取得を許さない」という状況が各種調査で明らかになっています。2022年の育児・介護休業法改正で創設された「産後パパ育休」制度の認知は進みつつありますが、職場文化の変革には時間を要しています。
男性も被害者になる――DVとハラスメントの実態
男性DV被害の法的位置づけ
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法、最終改正:2023年5月成立・2024年4月施行)は、2001年の制定当初から「被害者」を性別で限定しておらず、男性被害者も法的保護の対象です。2024年施行の改正では精神的暴力・性的暴力・自由の制限なども保護命令の申立て根拠に追加され、保護の範囲が拡大されました。
内閣府「配偶者暴力に関する調査」(2021年)によれば、「配偶者から身体的暴力・精神的攻撃・性的強要のいずれかを受けたことがある」と答えた男性の割合は約5.0%です。数としては女性(約10.3%)より低いですが、深刻な被害も一定数存在することが統計として確認されています。
ただし、男性被害者の相談率は女性に比べて著しく低いとされています。「男性が被害を受けることへの恥ずかしさ」「信じてもらえないという恐れ」「対応できる相談窓口・シェルターが少ない」という構造的障壁が要因として挙げられています。
男性へのハラスメント被害
職場におけるハラスメントは、男性も被害者となります。労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」、最終改正:2020年6月施行、中小企業は2022年4月義務化)第30条の2は、事業主に対してパワーハラスメント防止措置を義務づけており、被害者の性別は問いません。
男性が男性から受けるパワーハラスメント、上位者からのセクシュアルハラスメント、「男なんだから」「男のくせに」という発言に起因するジェンダーハラスメントなど、男性被害者の事例は多様です。職場での開示が困難であることや、ハラスメント相談窓口が利用しにくいと感じている男性が多いことが課題として指摘されています。
相談を阻む社会的障壁
男性が相談・支援を求める際の障壁として、研究・支援現場では主に以下の点が指摘されています。
- 「弱音を吐くのは男らしくない」という規範による心理的抵抗
- 「男性の被害は大したことない」という周囲や支援者の認識
- 男性専用のDV相談窓口・シェルターが女性向けに比べて著しく少ない
- 支援制度・情報が女性向けに設計されていることが多く、男性には使いにくい
- 保護命令申請など法的手続きに関する情報のアクセスが難しい
こうした障壁の存在は問題の早期把握・支援を妨げ、深刻化につながる恐れがあります。具体的な事案については、下記「公的相談窓口」の案内や弁護士など専門家への相談をご検討ください。
法制度における男性の位置づけ
男女共同参画社会基本法と男性
男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号、最終改正:2019年)第2条は、男女共同参画社会を「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」と定義しています。
同法第3条(男女の人権の尊重)は「男女の個人としての尊厳が重んぜられること、男女が性別による差別的取扱いを受けないこと」を明示しており、男性が性別役割規範によって不当な扱いを受けることもこの基本理念の射程に入ると解釈されています。また第6条(社会における制度又は慣行についての配慮)は、制度・慣行が男女の活動の自由な選択に「中立でない影響を与えないよう配慮されなければならない」と定めており、男性の育児参加を阻む職場慣行なども同条の問題意識と連続しています。
育児・介護休業法と男性育休
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法、最終改正:2025年段階施行)は、男性労働者の育児休業取得を促進するための改正を重ねてきました。2022年10月施行の改正では「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が創設され、子の出生後8週間以内に最大4週間の休業を2分割して取得できる仕組みが整備されました。
2023年4月施行の改正では1,000人超の事業主に男性育休取得率の公表が義務づけられ、2025年4月施行の改正では対象が300人超の事業主に拡大されました。男性の育休取得は「ジェンダー平等な家庭のあり方」という観点だけでなく、男性自身が「育てる経験」を通じてケア役割を担う主体となる意義があるとされています。
労働施策総合推進法とパワハラ防止
パワーハラスメント防止措置の義務化(労働施策総合推進法第30条の2)は、男性被害者を含むすべての労働者のハラスメント防止を企業に義務づけています。事業主が講ずべき措置として、社内方針の明確化・相談窓口設置・被害者への配慮措置等が規定されています。
「男なんだからもっと頑張れ」「男のくせに弱音を吐くな」といった発言は、性別を理由とした就業環境の悪化をもたらすものとして、同法が定めるパワーハラスメントに該当する可能性があると解釈される場合があります。具体的な事案の法的判断は弁護士等の専門家にご相談ください。
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現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
- 男女雇用機会均等法改正(2007年施行): セクシュアルハラスメント防止措置義務を男女双方に拡大(改正前は主として女性対象)
- 第3次男女共同参画基本計画(2010年): 「男性、子どもにとっての男女共同参画」を初めて重点課題として明記
- 育児・介護休業法改正(2021年・2022年施行): 産後パパ育休制度創設、育休取得率の企業公表義務化(段階的拡大)
- 労働施策総合推進法改正(2020年施行、中小企業2022年義務化): パワーハラスメント防止措置の全事業者義務化
- 孤独・孤立対策推進法(2023年成立・2024年4月施行): 孤独・孤立状態への支援体制整備を国・自治体の責務として規定
- DV防止法改正(2023年成立・2024年4月施行): 精神的暴力等を保護命令の申立て根拠に追加。男性被害者の保護も対象
- 育児・介護休業法改正(2025年4月・10月施行): 育休取得状況の公表対象を300人超の事業主に拡大
議論の現在地
男性の生きづらさをめぐる議論は、大きく二つの立場が存在します。
一方は、男性の困難を「ジェンダー平等推進の一部」として積極的に取り上げるべきとする立場です。男性の自殺率・孤立・DV被害・相談難民の問題は無視できない社会課題であり、ジェンダー平等の理念に男性の問題を含めることで、より広い連帯と政策の実効性が高まるという論拠が示されます。国連・OECDなど国際機関もこの方向性を打ち出しています。
もう一方は、男性の生きづらさを強調することで、女性が依然として直面している構造的不平等(賃金格差・政治的過少代表・DV被害の多数派など)が相対化される危険があると指摘する立場です。「男性も大変だ」という議論が、女性への支援予算削減の口実に使われるケースへの警戒が背景にあります。
内閣府男女共同参画局は、両者の問題を対立させず「すべての人のジェンダー平等」として政策を展開する方向性を示しています。学術的にも、男女のジェンダー問題は相互に連関しており、一方の解消が他方の改善につながるという見解が主流とされています。
残された課題
2026年時点においても、男性の生きづらさへの対応には次のような課題が残されています。
- 男性専用相談窓口の量的不足: DV・ハラスメント・孤立問題に対応する男性向け相談窓口は、女性向けに比べて量・質ともに不十分な状況が続いています。
- 男性の育休の「実質化」: 取得率は上昇しているものの、短期・形式的取得にとどまる事例が多く、職場文化の根本的な変革が課題です。
- マスキュリニティ規範の教育的解体: 学校教育・家庭・メディアにおいて固定的な男性役割期待を問い直す取り組みは、国際比較では依然として限定的です。
- 男性被害者支援の制度整備: DV防止法の男性被害者向けシェルター・同行支援等は制度的に整備途上であり、自治体間の格差も大きい状況です。
- 自殺対策と男性支援の統合: 自殺対策基本法(平成18年法律第85号、最終改正:2016年)に基づく施策において、男性特有のリスク要因へのアプローチをさらに明確化することが求められています。
男性の生きづらさに関する主な制度比較
| 制度・法律 | 所管省庁 | 男性への適用範囲 | 主な課題・限界 |
|---|---|---|---|
| DV防止法(配偶者暴力防止法) | 内閣府・警察庁 | 男性被害者も対象(性別不問) | 男性向けシェルター不足、相談窓口の認知度が低い |
| パワハラ防止法(労働施策総合推進法) | 厚生労働省 | 被害者の性別を問わない | 男性被害者の相談率が低い、職場での開示が困難 |
| 育児・介護休業法 | 厚生労働省 | 男性の育休取得権保障・取得率公表義務化 | 短期取得・形式化が多く、職場文化の変革に時間を要する |
| 孤独・孤立対策推進法 | 内閣官房 | 男性の孤立問題への対応を視野に含む | 2024年施行で施策整備途上、具体的な男性向け事業が少ない |
| 自殺対策基本法 | 厚生労働省 | 男性特有のリスク要因に言及 | 男性向け支援プログラムの具体化が引き続き課題 |
| 男女共同参画社会基本法 | 内閣府 | 「すべての人」対象。男性の役割固定化にも言及 | 「男性支援」が施策の優先度として低く位置づけられやすい面がある |
市民として男女共同参画を推進するために
男性がジェンダー平等の担い手となる意義
国連「HeForShe」キャンペーンや内閣府の啓発活動は、ジェンダー平等を「女性だけの問題」ではなく、男性を含むすべての人の課題として位置づけることを一貫して強調しています。男性がジェンダー平等の担い手となることの意義は、複数の側面から整理されます。
まず家庭の側面では、育児・家事を対等に分担することで女性の就労継続・キャリア形成を支えることができます。次に職場の側面では、男性管理職や上司がハラスメント防止に積極的に関与することで、組織文化の変革を促進できます。さらに社会規範の側面では、「男性も相談してよい」「男性も育休を取ってよい」という規範の形成が、男性自身の生きやすさにも直結します。
内閣府が策定している男女共同参画基本計画には「男性の家庭・地域参画」「固定的性別役割分担意識の解消」が施策として明記されており、行政・企業・市民の連携が求められています。
アライシップと市民参画の実践
アライシップ(allyship)とは、社会的に不利な立場に置かれたグループを支持・支援する、外部の立場にある人々の在り方を指す概念です。ジェンダー平等においては、男性が女性の権利やLGBTQ+の権利を積極的に支持・発信することや、職場でハラスメントを傍観せずに声を上げること、後輩に育休取得を積極的に勧めることなどがその実践として挙げられます。
アライシップの実践として市民にできる具体的な行動として、次のようなものが考えられます。①自分自身のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)に気づき、点検する ②パブリックコメント(意見公募)など公的参加手続きに積極的に参加する ③地域の男女共同参画推進事業(条例策定プロセスなど)に関心を持つ ④「男性も相談できる」という情報を周囲に共有する。
市民がジェンダー平等を推進するための具体的な方法については、男女共同参画 個人ができること|市民参画・声をあげる方法もあわせてご参照ください。また、無意識の偏見の解消についてはアンコンシャスバイアスとは|ジェンダー平等を阻む無意識の偏見と克服法が参考になります。
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公的相談窓口・まとめ
公的相談窓口
男性の生きづらさ・DV被害・ハラスメントに関する相談は、以下の公的窓口を利用できます。
- DV相談ナビ #8008: 最寄りのDV相談機関に電話がつながります。男性被害者も利用可能です。
- よりそいホットライン 0120-279-338(24時間): 一般社団法人社会的包摂サポートセンターが運営。孤立・生きづらさ・男性相談に対応しています。
- 法テラス 0570-078374: 法律問題全般の相談窓口。DVや職場問題についての弁護士紹介を行っています。
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556: 都道府県・政令指定都市設置の精神保健福祉センターに接続。メンタルヘルスの相談に対応しています。
- 産業保健相談窓口: 独立行政法人労働者健康安全機構が都道府県ごとに設置。職場のメンタルヘルス・ハラスメント問題の相談に対応しています。
具体的な事案については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
まとめ
男性の生きづらさは、ジェンダー平等社会の実現において無視できない課題です。自殺率の高さ・孤立問題・DV被害・育休取得の形式化――これらの問題の根底にあるのは、「男性はこうあるべき」という固定的な性別役割規範であり、それは女性への差別的構造と同じ源泉から生まれています。
男女共同参画社会基本法が目指す「すべての人が性別にかかわりなく能力を発揮できる社会」は、男性の生きやすさにも直結しています。育休制度の拡充・パワハラ防止義務化・孤独・孤立対策推進法の整備など、2007年以降の法改正は着実に進んでいますが、男性専用相談窓口の不足・男性育休の形式化・教育における規範解体という課題はなお残されています。
市民一人ひとりが性別役割規範を問い直し、互いが生きやすい社会を構築する担い手となることが、男女共同参画社会基本法の理念を現実のものにする第一歩です。
よくある質問(FAQ)
- Q. 男性もDV被害者になれますか? 相談できる窓口はありますか?
- DV防止法は被害者の性別を限定しておらず、男性被害者も法的保護の対象です。ただし男性向け専用相談窓口・シェルターは女性向けに比べて少ないのが現状です。「DV相談ナビ #8008」または法テラス(0570-078374)に相談することで、対応可能な機関を紹介してもらえます。個別の法的判断については専門家へのご相談をご検討ください。
- Q. 男性の育児休業取得率はどのくらいですか?
- 厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」(2024年公表)によれば、2023年度の男性育児休業取得率は30.1%で初めて30%台を達成しました。ただし取得日数は1か月未満が約6割を占めており、女性(平均約10か月)との差は依然として大きい状況です。育児・介護休業法の改正(2025年施行)により企業の取得率公表義務対象が拡大されており、今後のさらなる改善が期待されています。
- Q. 「男性の生きづらさ」を論じることは、女性の問題を軽視することになりますか?
- 男性の生きづらさと女性の構造的不平等は対立するものではなく、いずれも固定的性別役割規範に根ざしている点で共通の課題を持っています。内閣府男女共同参画局の政策方針も「すべての人のジェンダー平等」であり、一方の問題を取り上げることが他方を軽視することにはならないとされています。ただし、女性が依然として直面する構造的格差(賃金・政治参加・DV被害の多数派など)の解消は引き続き重要な課題です。
- Q. 職場で「男なんだから」という発言を受けました。これはハラスメントになりますか?
- 「男なんだから」という発言が性別を理由に特定の負担を強いたり就業環境を悪化させたりする場合、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2が定めるハラスメントに該当する可能性があります。ただし、具体的な事案が法的にハラスメントにあたるかどうかの判断は個別の事情によって異なりますので、社内相談窓口または外部の専門機関(法テラス等)にご相談ください。
- Q. 男性の孤立・孤独問題に対応する法律はありますか?
- 2024年4月に施行された孤独・孤立対策推進法(令和5年法律第45号)は、孤独・孤立状態にある人への支援体制整備を国・自治体の責務として規定しています。同法に基づく孤独・孤立対策推進計画(2023年策定)では、男性が孤立しやすいというデータを踏まえた施策展開が期待されていますが、具体的な男性向け支援事業はまだ整備途上の面があります。
- Q. アンコンシャスバイアスとマスキュリニティ規範はどう関係しますか?
- マスキュリニティ規範は、「男性はこうあるべき」という社会的期待の集合体ですが、これが内面化されると「男性が弱音を吐くのはおかしい」「男性が育休を取るのは異常だ」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)として現れます。個人のバイアスへの気づきと職場・地域レベルでの規範変革が両輪となって、男性の生きやすさの改善につながるとされています。
