男女共同参画社会の実現に向けた国の指針──男女共同参画基本計画は、1999年に制定された「男女共同参画社会基本法(社会的・文化的に形成された性別=ジェンダーを含む、すべての人の平等な参画を目指す法律)」の第13条に基づき、おおむね5年ごとに改定されてきた中長期的な政策ロードマップです。2026年3月13日、政府は第6次男女共同参画基本計画を閣議決定しました。重点8分野・成果目標51という新たな構造のもと、2030年度末を射程に置く具体的な施策方向と、2035年度末に至る長期的な基本認識が明示されています。
「第6次って何が変わったの?」「第5次との違いはどこ?」「成果目標51とはどのような指標なのか?」──こうした疑問を持つ方に向けて、本記事では閣議決定の背景から重点8分野の詳細、第4次・第5次・第6次の比較表、2026年時点の議論の現在地まで、理解するために必要な情報を体系的に解説します。行政・自治体の担当者から、職場のダイバーシティ推進に関わるビジネスパーソン、研究者・学生まで、幅広い読者を対象としています。
出典:内閣府男女共同参画局「第6次男女共同参画基本計画」(https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/6th/index.html)/e-Gov 男女共同参画社会基本法(https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000078)
第6次男女共同参画基本計画とは ── 2026年3月閣議決定の位置づけ
基本計画制度の概要
男女共同参画基本計画は、男女共同参画社会基本法第13条が政府に策定を義務づけている国の総合的・長期的な計画です。第1次が2000年に策定されて以降、おおむね5年ごとに改定が重ねられ、2026年3月13日の閣議決定で第6次が誕生しました。計画は「第1部 基本的な方針」「第2部 政策編(12分野)」「第3部 推進体制の整備・強化」の三部構成を取り、政府全体の施策を横断的に束ねる役割を担っています。
計画の法的根拠は基本法第13条であり、都道府県・市町村も同法の規定により独自の地方計画を策定することが求められています。国の基本計画が示す重点分野・成果目標・施策方向は、地方の計画にも大きな影響を与えるため、行政関係者にとって計画の内容を正確に把握することは不可欠です。
第6次計画の期間と基本構造
第6次計画は期間を二層に設定している点が特徴的です。「基本認識(ビジョン)」については令和17年度末(2035年度末)を到達地点として描き、「施策方向と具体的取組」については令和12年度末(2030年度末)を目標年として設定しています。この二層構造により、長期ビジョンと中期アクションプランを一体的に示しています。
計画全体の達成度を測るために「成果目標」が設定されており、第6次計画では51の成果目標が定められています(内閣府男女共同参画局「(別表)成果目標等一覧」参照)。成果目標は各分野の重点事項に対応する数値指標であり、定期的な進捗フォローアップの基準として機能します。なお、各成果目標の具体的な数値・達成状況については、内閣府男女共同参画局が公表する最新の別表PDFをご確認ください。
重点8分野の全体像 ── 第6次計画が定める8つの柱
第1分野~第4分野:働き方・参画・所得・健康
第1分野:ライフステージに応じた多様な働き方の選択実現
結婚・出産・育児・介護といったライフイベントを経ても、希望する働き方を続けられる社会の実現を目指します。育児休業・介護休業の取得促進、柔軟な就労形態の整備、保育・介護サービスの充実が主な施策の柱となっています。特に男性の育児参画を促進する観点から、父親の育児休業取得率の引き上げが重要な課題として位置づけられています。
第2分野:政策・方針決定過程への女性参画拡大
政治・行政・経済・地域社会における意思決定の場への女性の参画を拡大する分野です。国会議員・地方議員・国家公務員管理職・民間企業の管理職など、「指導的地位(社会の意思決定において指導的役割を果たす立場)」に占める女性割合を高めることが主要課題となっています。2015年に制定された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」との連携も重要な施策の方向性です。
第3分野:女性の所得向上と経済的自立支援
男女間の賃金格差の縮小、非正規雇用で働く女性の処遇改善、キャリアアップ支援などを通じ、女性が経済的に自立できる環境を整える分野です。離婚後の経済的困窮、配偶者控除をめぐる就労調整(いわゆる「103万円の壁」「106万円の壁」)など、制度的な壁の解消も重要な議題として含まれています。
第4分野:生涯を通じた男女の健康支援
思春期から高齢期まで、ライフステージごとの男女の健康課題に対応する分野です。月経関連疾患・妊娠・更年期障害など女性特有の健康問題への対策に加え、男性特有の健康課題(前立腺疾患、孤立・孤独のリスクなど)も含め、包括的な健康支援体制の構築を目指しています。性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の考え方を踏まえた施策も盛り込まれています。
第5分野~第8分野:テクノロジー・暴力根絶・困難支援・防災
第5分野:テクノロジー進展を踏まえた男女共同参画推進
第5次計画以降に急速に進展したデジタル化・AI活用への対応を強化した分野です。STEM(科学・技術・工学・数学)分野への女性参画促進、デジタルハラスメントやAIによるフェイク被害への対策、テレワーク拡大に伴う働き方の変容への対応などが含まれます。デジタル格差(ジェンダー・デジタル・ディバイド)の解消も重要な課題として位置づけられています。
第6分野:ジェンダーに基づく暴力撲滅と被害者支援
配偶者からの暴力(DV)、性暴力、ストーカー被害、人身取引(性的搾取)など、ジェンダーに基づく暴力を根絶するための施策を集約した分野です。2023年に全面改正された「刑法」(不同意性交等罪の創設)、2024年施行の「DV防止法」改正、「セクシュアルハラスメント」防止対策の強化など、近年の法改正を踏まえた被害者支援体制の整備が重点課題となっています。
第7分野:貧困等生活困難への支援と多様性尊重
ひとり親家庭・高齢単身女性・若年女性の貧困対策に加え、障害のある女性、外国人女性、LGBTQ+(性的指向・性自認が多様な方々)など、複合的な困難を抱える人々への包括的支援を目指す分野です。ジェンダー(社会的・文化的に形成された性別。生物学的性別であるセックスとは区別される概念)の多様性を尊重する視点が全体を貫いています。
第8分野:防災・復興における男女共同参画推進
大規模災害における避難所運営・復興プロセスへの女性参画拡大を推進する分野です。避難所での女性特有のニーズ(更衣室・授乳室の確保、生理用品の提供など)への対応、地域の防災リーダーへの女性登用などが具体的な施策の方向性として示されています。近年の気候変動に伴う災害リスクの増大を踏まえ、防災・復興における男女共同参画の重要性が一層高まっています。
※本記事はアフィリエイトリンクを含みます(PR)
第6次計画の背景を深く理解するには、ジェンダー論の基礎文献も参考になります。ジェンダー論入門(関連書籍)
成果目標51の構造 ── 計画の達成度をどう測るか
成果目標と施策指標の違い
第6次計画では、政策の達成度を測る指標を「成果目標」と「施策指標」の二種類に整理しています。成果目標とは、計画が最終的に目指す社会状態を数値で示したものです。たとえば「政策・方針決定過程への女性参画拡大」分野であれば、指導的地位に占める女性割合が成果目標の代表例となります。一方、施策指標は成果目標を達成するための手段(各種事業・施策)の実施状況を測る中間指標であり、両者を組み合わせることで計画全体の進捗を多面的に把握できる設計となっています。
51という成果目標の数は、第5次計画(120以上の指標が設定されていた)と比較すると大幅に絞り込まれています。これは、数の多さよりも重点性と測定可能性を重視し、政策評価の実効性を高めることを意図した見直しとされています。計画の進捗は内閣府が定期的にフォローアップ調査を実施し、公表することが予定されています。
代表的な数値目標と目標年
第6次計画では、各分野の重点事項に対応する形で数値目標が設定されています。目標年は2030年度末(令和12年度末)が基本となっており、一部の長期目標については2035年度末(令和17年度末)も設定されています。具体的な数値(女性管理職比率、政治分野の女性議員割合、男女間賃金格差縮小率など)については、内閣府男女共同参画局が公表する「(別表)成果目標等一覧」でご確認ください。
注目される分野の一つが、「政策・方針決定過程への女性参画拡大」における指導的地位の女性割合です。日本では長年、この分野での遅れが国際比較で指摘されてきました。第6次計画では、2030年目標として民間企業における管理職等の女性比率の引き上げ、国家公務員の管理職女性比率の向上が定められているとされています(内閣府男女共同参画局公表資料による)。個別の数値については公式の別表PDFを確認されることをお勧めします。
比較表で見る ── 第4次・第5次・第6次の重点変化
| 項目 | 第4次計画(2015年) | 第5次計画(2020年) | 第6次計画(2026年) |
|---|---|---|---|
| 閣議決定日 | 2015年12月25日 | 2020年12月25日 | 2026年3月13日 |
| 重点分野数 | 15分野 | 17分野 | 8分野(重点)+12分野(全体) |
| 成果目標数 | 約120指標 | 約120指標 | 51(重点絞込み) |
| 目標年 | 2020年 | 2025年 | 2030年(施策)/2035年(基本認識) |
| 新規重点 | 女性活躍推進・就業継続 | 新型コロナ・デジタル化対応 | テクノロジー進展・多様性尊重の深化 |
| 関連主要法 | 女性活躍推進法制定(2015) | 女性活躍推進法改正(2019) | 刑法改正(不同意性交等罪)・DV防止法改正(2023-24) |
| 指導的地位女性割合の扱い | 「2020年30%」目標を設定 | 「実質的な達成」へ表現修正 | 分野別・職種別の多様な目標設定 |
第5次から第6次への主な変化点
第5次計画(2020年)はコロナ禍を経て女性への影響が顕在化した時期に重なり、「孤独・孤立対策」や「デジタル化への対応」が急遽重点課題に加えられました。第6次計画はその方向性を引き継ぎつつ、より体系的な構造に整理しています。特に変化が大きい点は以下の通りです。
第一に、「テクノロジー進展と男女共同参画」が独立した重点分野として位置づけられたことです。AI・デジタル化の加速を踏まえ、STEM分野の女性参画促進とデジタルハラスメント対策が一体として扱われるようになりました。第二に、「多様性尊重」がより明確に打ち出されています。LGBTQ+や障害のある女性など、複合的な困難を抱える人々への支援が第7分野として明示されました。第三に、成果目標を51に絞り込み、進捗管理の実効性を高める仕組みが採用されています。
指導的地位における女性比率目標の変遷
「指導的地位(社会の政策決定または方針立案に参画し、または影響を与え得る立場)」に占める女性割合の目標設定は、歴代の計画で最も注目を集めてきたテーマの一つです。第4次計画では「2020年30%」という具体的な数値目標が設けられましたが、この目標の達成が極めて困難であることが明らかになるにつれ、第5次計画では表現が「実質的な機会の確保」へと修正されました。
第6次計画では、単一の「30%」という包括的な目標から、政治・行政・民間企業・学術など分野ごとにより細分化された目標設定へと移行したとされています(内閣府男女共同参画局「第6次基本計画」による)。政治分野については、2018年に制定された「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(候補者男女均等法)」との連携のもと、国会・地方議会の女性議員比率の引き上げが引き続き重要課題として扱われています。
現代的論点|2026年時点の到達点
第5次→第6次の重点変化(政策の進化と連続性)
第6次計画が誕生した2026年は、第1次計画から26年が経過した節目にあたります。法整備の面では、2023年の刑法改正(不同意性交等罪の創設・配偶者間強姦の明示)、2024年施行のDV防止法改正(接近禁止命令の拡大など)、女性活躍推進法に基づく開示義務の拡大など、着実な前進が続いています。第6次計画はこれらの法改正を受け、施策の継続性と新たな課題への対応を両立する内容となっています。
一方で、政策の連続性という観点からは「積み残し課題」も多く存在します。第4次以来、繰り越されてきた「指導的地位の女性割合」の目標達成遅延、非正規雇用における男女格差、家事・育児負担の偏りなどは、第6次でも引き続き取り組むべき課題として列挙されています。第6次計画は「革命」ではなく「継続と深化」という性格を持つと見ることもできます。
議論の現在地
第6次計画の内容をめぐっては、さまざまな立場から異なる評価が示されています。推進派の立場からは、重点8分野の設定と51成果目標への絞り込みが「測定可能・説明責任ある計画」への前進として評価される一方、「目標数値が依然として緩い」「実施義務のない努力目標に過ぎない」という批判もあります。
夫婦別姓・同性パートナーシップなど、より広範な「ジェンダー平等」につながる論点については、計画に盛り込まれた内容を評価する声と、「踏み込みが不十分」という批判の双方が存在します。また、「男女」という概念の設定自体について、性的少数者の観点からは二元論的すぎるという指摘もあります。法令や行政計画の記述は社会の現状と議論の蓄積を反映するものであり、今後の議論の進展によっては見直しが生じる可能性もあります。計画の評価は立場によって異なるため、複数の視点から読み解くことが重要です。
残された課題
第6次計画が策定された2026年時点においても、日本のジェンダー平等の達成度は国際的に見て課題が多い状況が続いています。世界経済フォーラム(WEF)が毎年公表するジェンダーギャップ指数では、日本は先進国の中で依然として低い順位にあります(特に政治・経済分野)。
課題として特に指摘されるのは以下の点です。第一に、「政策・計画の量と実効性のギャップ」です。計画や法律の整備は着実に進んでいますが、現場レベルの文化変容や意識改革が追いついていないという指摘があります。第二に、「男性への支援の不足」です。男性が育児・家事に参加しやすい社会環境の整備が、女性の職場参画と不可分の課題であるという認識は高まっていますが、施策の充実はまだ途上にあります。第三に、「交差性(インターセクショナリティ)への対応」です。障害・国籍・年齢・性的指向など複数の属性が重なることで複合的な困難が生じるケースへの対応は、第7分野に盛り込まれているものの、具体的な施策展開はこれからの課題です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 第6次男女共同参画基本計画の重点8分野とは何ですか?
2026年3月13日に閣議決定された第6次計画が定める重点8分野は、①ライフステージに応じた多様な働き方の選択実現、②政策・方針決定過程への女性参画拡大、③女性の所得向上と経済的自立支援、④生涯を通じた男女の健康支援、⑤テクノロジー進展を踏まえた男女共同参画推進、⑥ジェンダーに基づく暴力撲滅と被害者支援、⑦貧困等生活困難への支援と多様性尊重、⑧防災・復興における男女共同参画推進、の8つです。
Q2. 第5次計画と比べて何が変わりましたか?
主な変化点は三つあります。第一に「テクノロジー進展と男女共同参画」が独立した重点分野となりました。第二に、成果目標を約120から51に大幅に絞り込み、測定可能性と説明責任を高めました。第三に、目標期間が「基本認識(2035年度末)」と「施策方向(2030年度末)」の二層構造となりました。
Q3. 「成果目標51」とは何を指しますか?
第6次計画が設定した51の数値指標のことです。各重点分野の達成状況を客観的に測定するための基準として機能します。政策ごとに達成年(主に2030年度末)が設定されており、内閣府が定期的に進捗をフォローアップします。具体的な指標内容は内閣府男女共同参画局が公表する「(別表)成果目標等一覧」をご参照ください。
Q4. 第6次計画はいつ閣議決定されましたか?
2026年(令和8年)3月13日に閣議決定されました。計画の施策方向と具体的取組の目標年は2030年度末(令和12年度末)、基本認識の期間は2035年度末(令和17年度末)までとなっています。
Q5. 2030年目標と2035年目標の違いは何ですか?
2030年度末(令和12年度末)は「施策の方向性と具体的な取組」の達成目標年であり、成果目標51の多くがこの年を基準としています。2035年度末(令和17年度末)はより長期的な「基本認識(ビジョン)」の到達点として位置づけられ、社会変革の方向性を示す時間軸です。つまり2030年は政策の中間評価地点、2035年は計画が目指す社会像の実現期限という関係にあります。
※本記事はアフィリエイトリンクを含みます(PR)
男女共同参画の法制度について体系的に学びたい方には専門書の活用もお勧めです。ジェンダーと法(関連書籍)
関連記事と公的相談窓口
関連記事
公的相談窓口
DV・性暴力・生活困窮など、本記事のテーマに関連した困難を抱えている場合は、以下の公的機関にご相談ください。
- DV相談ナビ(#8008):配偶者・パートナーからの暴力に関する相談窓口を案内します。
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891):性的な被害に関する相談・支援を提供します。
- 女性の人権ホットライン(0570-070-810):法務省が運営する女性に対する人権侵害の相談窓口です。
- 法テラス(0570-078374):法的トラブルに関する情報提供・弁護士費用の立替援助などを行う国の機関です。
- 内閣府男女共同参画局(オンライン相談):各種支援機関への案内・政策に関する情報提供を行っています。
※各窓口の受付時間・対応方法は変更される場合があります。最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。
