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マタハラ・パタハラの法的論点|均等法・育介法での位置づけ

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目次

育介法における法的根拠|10条・25条の構造

育介法10条|不利益取扱いの禁止

育児・介護休業法(e-Gov法令検索)第10条は、労働者が育児休業の申出・取得をしたことを理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止しています。「その他の不利益取扱い」には降格・減給・昇進差別・配転・雇止めが含まれると解されており、男性・女性を問わず育休を申請した労働者全員が保護対象です。

「育休を申し出たこと」自体が保護の契機となる点は重要です。実際に育休を取得する前であっても、申出後に嫌がらせを受けたり撤回を強要されたりする行為は同条違反とされる可能性があります。また、育休復帰後の人事評価への不当な反映も、「育休取得を理由とする不利益取扱い」として問題化するケースがあります。

育介法25条|ハラスメント防止措置義務

育介法第25条は、育児休業等の制度利用に関するハラスメントを防止するための措置義務を事業主に課しています。均等法11条の3と同様、方針の周知・相談窓口設置・行為者への対応・プライバシー保護・不利益取扱いの禁止が求められます。2022年改正で相談者の不利益取扱い禁止が明記されました。

育介法上のハラスメント防止義務は「制度等の利用への嫌がらせ型」と「就業環境を害する型」の二つを対象とします。前者は「育休を取るな」と圧力をかける行為、後者は育休取得後に職場内で孤立させたり業務から外したりする行為が該当しうるとされています。

育介法違反の効果と行政対応

育介法違反も均等法と同様、厚生労働大臣による報告徴収・助言・指導・勧告の対象となります。勧告に従わない場合は企業名が公表される制度が設けられており、企業のレピュテーションリスクとしても認識されています。民事上は不法行為責任のほか、育休申請に基づく労働者の権利が認められる場合には、配転命令の無効確認や原職復帰を求める手続きが検討されることもあります。

最高裁判例|広島中央保健生協事件(平成26年)の意義

事件の概要と争点

広島中央保健生協事件(最高裁平成26年10月23日判決)は、マタハラ法理を確立した先例的判決として現在も引用されています。事案の概要は、理学療法士として副主任の職にあった女性労働者が、妊娠中に業務負担軽減のため別の業務(軽易業務)への転換を申し出たところ、副主任の職位を解かれ、育休復帰後も元の職位に戻らなかった、というものです。

争点は、①この降格が均等法9条3項の「不利益取扱いの禁止」に違反するか、②違反するとした場合の法的効果はどうなるか、という二点でした。

最高裁の判断枠組み

最高裁は、均等法9条3項の趣旨から「妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格は、原則として同項の禁止する不利益取扱いに当たる」と判示しました。そのうえで例外として二つの要件を示しています。

一つ目の例外は「本人の自由な意思に基づく同意」です。ただし最高裁はここでの「同意」を厳格に解しており、降格を余儀なくされるような状況下での形式的な同意はこれに当たらないとしています。二つ目の例外は「業務上の必要性、本人の不利益の程度、同意の有無などの諸事情に照らし、特段の事情」が認められる場合です。この判断は客観的・総合的に行われるとされています。

判決の現代的意義

この判決が示した「同意の厳格解釈」と「特段の事情の客観的判断」という枠組みは、その後の下級審判決でも繰り返し参照されています。特に、「本人が何も言わなかったから同意があった」という事業主側の主張が退けられるケースが増えたとされており、均等法9条3項の実効性を高める方向で機能していると評価されています。

同事件の判断枠組みはパタハラ案件にも類推的に参照されることがあり、育介法10条の解釈においても「本人が同意したかどうか」を厳格に問う傾向に影響を与えているとも指摘されています。

現代的論点|2026年時点の到達点

2007年以降の主な法改正・新法

マタハラ・パタハラに関する法制度は、2007年以降に大きく変容しています。主な改正の流れを時系列で整理します。

  • 2016年均等法改正(2017年1月施行):11条の3を新設し、妊娠・出産等に関するハラスメント防止措置義務を法定化。
  • 2016年育介法改正(2017年1月施行):25条を改正し、育休等の制度利用に関するハラスメント防止措置義務を強化。
  • 2022年育介法改正(段階的施行):①2022年4月から雇用環境整備・個別周知・意向確認の義務化、②2022年10月から産後パパ育休(出生時育児休業)の創設および育休の分割取得の可能化、③2023年4月から常時雇用労働者1000人超企業に対して育休取得率等の公表義務化。
  • 2025年4月施行|出生後休業支援給付金の創設:子の出生後8週間以内に男性が28日以上育休を取得した場合、育児休業給付金に上乗せして受給できる「出生後休業支援給付金」が創設されました。手取り収入の実質10割程度となることを目指した制度です(雇用保険法等の改正による)。

議論の現在地

男性育休の取得推進については、「家庭内ケアの平等化」「少子化対策」「企業の労働力確保」といった観点から政策的に推進する立場がある一方、「中小企業の現場では代替要員確保が難しい」「同僚への過大な負担になりうる」「取得を強制すると形骸化する」といった懸念も示されています。

取得率の公表義務化については、透明性を高めることでハラスメントの抑制につながるという肯定的評価がある一方、「数字だけを上げる形式的な取得(数日だけの育休)が増える」「職場環境の質が伴わないと逆効果」という批判的な見方も存在します。ハラスメント防止措置義務の実効性についても、「義務の内容が抽象的で形式的な対応に留まりやすい」という指摘が労働法学者や労働組合から出ています。

残された課題

現行制度の課題として、以下の点が指摘されています。第一に、ハラスメント防止措置義務違反に対する直接的な罰則がなく、行政指導や企業名公表にとどまる点です。民事訴訟によって救済を求めようとしても、証拠収集の困難さや手続の負担が被害者側に重くのしかかることが指摘されています。

第二に、非正規雇用労働者の保護の不十分さです。有期契約労働者は育休取得要件に「引き続き1年以上雇用」という条件があり(2022年改正で緩和方向にあるが廃止議論も継続中)、不安定な立場の労働者はそもそも申請を諦めるケースがあります。第三に、介護ハラスメントや病気治療との両立に関するハラスメントについて、法的整備がマタハラ・パタハラと比べて遅れているという指摘もあります。

比較整理|マタハラ・パタハラ・セクハラ・パワハラの違い

職場ハラスメントには複数の類型があり、それぞれ根拠法・対象・防止義務の構造が異なります。以下の表で整理します。

項目 マタハラ パタハラ セクハラ パワハラ
定義 妊娠・出産・産休等を理由とする嫌がらせ・不利益取扱い 男性の育休等制度利用を理由とする嫌がらせ・不利益取扱い 職場での性的な言動による就業環境の悪化・不利益 職場の優越的地位を背景とした身体的・精神的苦痛
主な根拠法 均等法9条3項・11条の3 育介法10条・25条 均等法11条・11条の2 労働施策総合推進法30条の2
防止措置義務 均等法11条の3(2017年施行) 育介法25条(2017年強化) 均等法11条(1999年施行) 労施法30条の2(2020年施行、中小2022年)
代表的判例 広島中央保健生協事件(最判平26.10.23) 東京地裁等で複数の下級審事例あり 仙台セクハラ事件(最判平11.3.25) パワハラ防止法施行以降の下級審事例多数
典型行為例 降格・解雇・産休阻害・「迷惑だ」発言 育休撤回強要・評価下げ・「男なのに」発言 性的言動・不必要な身体接触・性的な噂の流布 暴力・過大な要求・無視・侮辱・プライバシー侵害
事業主義務 方針明確化・相談窓口・行為者対応・プライバシー保護 同左(育介法指針に準拠) 方針明確化・相談対応・是正措置(均等法指針) 同左(パワハラ防止指針)

複数のハラスメントが複合して発生する場合(例:妊娠報告後に性的な言動も加わるケース)は、均等法上の複数規定が同時に適用されうる点にも注意が必要です。

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関連書籍:育児・介護休業法の実務ポイント(日本加除出版)

育介法2022年改正の詳細|産後パパ育休と取得率公表義務

産後パパ育休(出生時育児休業)の創設

2022年10月から施行された「産後パパ育休」(出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に男性が最大4週間(28日)取得できる休業制度です。従来の育児休業とは別制度として位置づけられており、2回まで分割して取得できます。また、労使協定を締結することで休業中の就業が一定範囲で可能となる点も新たな特徴です。

産後パパ育休を取得した場合、雇用保険から育児休業給付金が支給されます(支給率は休業開始から180日以内は67%、181日以降は50%)。さらに2025年4月から創設された「出生後休業支援給付金」を合わせると、社会保険料の免除も含めた実質的な手取り相当額が10割程度になることを目指した制度設計となっています。

育休分割取得と意向確認義務

2022年10月改正では、育児休業の分割取得も可能になりました。従来は原則1回に限られていた育休の取得が、最大2回に分けて申請できるようになっています。これにより、育休を一時取得した後に職場に戻り、再度取得するという柔軟な働き方が選択しやすくなっています。

また、2022年4月から義務化された「個別周知・意向確認」制度により、事業主は妊娠・出産を申し出た労働者(本人または配偶者)に対して、育休制度の内容を個別に知らせ、取得意向を確認することが義務付けられました。この義務の趣旨は、「知らなかった」「言い出せなかった」という状況でのパタハラ・マタハラを予防することにあります。

取得率公表義務(2023年4月~、従業員1000人超企業)

2023年4月から、常時雇用する労働者が1000人を超える企業は、男性の育休取得率または育休・育児目的休暇取得率を年1回以上公表することが義務付けられました。公表の場所は自社のウェブサイト等、一般の閲覧に供できる媒体であることが求められます。対象外の中小企業についても、厚生労働省は今後の対象拡大を議論している段階です。

公表義務の導入によって、取得率に関する社内外からの注目が高まり、一部企業では育休取得を妨げるパタハラへの抑止効果が期待されています。一方で「数字を満たすための形式的な短期取得」が増えるリスクも指摘されており、取得日数の質的な指標との組み合わせが今後の課題とも言われています。

相談窓口と被害を受けたときのステップ

公的相談窓口の一覧

マタハラ・パタハラの被害を受けた場合、以下の公的窓口に相談することができます。

  • 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):均等法・育介法に基づくハラスメントの相談窓口。調停(紛争解決援助)の申請も可能です。全国の都道府県労働局に設置されています。
  • 総合労働相談コーナー:各都道府県労働局・ハローワーク内に設置。労働問題全般の相談を受け付けます。
  • 法テラス(日本司法支援センター)|電話: 0570-078374:弁護士費用の立替制度(審査あり)や弁護士・司法書士の紹介を行う公的機関です。法的手続きを検討する際の最初の相談先として利用できます。
  • 配偶者暴力相談支援センター(DVが絡む場合):DVと職場ハラスメントが複合するケース(例:出産後の家庭内暴力と職場での不当対応が重なる場合)には、都道府県の配偶者暴力相談支援センターへの相談も検討できます。

記録と証拠の保全

ハラスメントの被害を相談・申告する際には、証拠の保全が重要となります。発言があった日時・場所・内容・同席者をメモで記録すること、メール・メッセージのやり取りは削除せず保存すること、診断書や心療内科の受診記録がある場合はその写しを手元に置くことなどが、後の手続きにおいて参考になる場合があります。

社内手続きと外部手続きの選択

被害を申告するルートとしては、①社内の相談窓口(ハラスメント相談窓口・人事部)を通じた解決、②都道府県労働局への相談・調停申請、③裁判所への仮処分・訴訟提起があります。どのルートを選択するかは、職場環境・被害の深刻さ・相手方との関係性などによって異なります。複数の手段を並行して利用することも法律上は妨げられていません。

よくある質問(FAQ)

Q1. マタハラとパタハラの違いは何ですか?

A. マタハラは妊娠・出産・産前産後休業に関するハラスメントで、主な根拠法は均等法です。パタハラは育児目的の制度(主に育休)を利用しようとする男性労働者への嫌がらせで、主な根拠法は育介法です。対象者・根拠法・典型行為が異なりますが、いずれも事業主に防止措置義務が課されている点は共通です。

Q2. 妊娠を報告したら降格・配転を命じられました。これは違法になりますか?

A. 均等法9条3項は妊娠等を理由とする不利益取扱いを禁止しており、降格・配転もこれに含まれうるとされています。広島中央保健生協事件の最高裁判決では、妊娠を契機とする降格は「原則違法」とされた事例があります。ただし個々の事案では、本人の同意の有無や業務上の必要性の有無などを総合的に判断する必要があります。詳細は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)にご相談ください。

Q3. 育休から復帰した後、元の職位に戻る権利はありますか?

A. 育介法は育休復帰後の「原職復帰」を努力義務として定めており、事業主に対して原則として休業前と同じ職務・職場への復帰を配慮するよう求めています。義務の強度については法律上の規定と運用実態に差があるとも指摘されており、復帰後の職位・業務内容が著しく不当に変更された場合は、育介法10条の不利益取扱い禁止規定との関係で問題になりうる可能性があります。

Q4. 育休取得率の公表義務はどの企業に適用されますか?

A. 2023年4月から、常時雇用する労働者が1000人を超える企業に対して義務化されています。1000人以下の企業は現時点では義務対象外ですが、厚生労働省は中小企業への対象拡大の議論を継続しており、今後の動向を注視する必要があります。

Q5. ハラスメントを受けた場合、まずどこに相談すればよいですか?

A. 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が均等法・育介法に基づく相談・調停の専門窓口です。法的手続きを検討する場合は法テラス(0570-078374)への相談が入口として利用されることがあります。記録・証拠の保全を並行して進めることをお勧めします。

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職場での妊娠・出産・育児をめぐるハラスメントは、「個人の問題」ではなく、法律が明確に禁止する権利侵害です。しかし、「妊娠を報告したら閑職に異動させられた」「育休を申し出たら上司に嫌みを言われた」といった経験は、今なお多くの職場で起きています。マタハラ(マタニティハラスメント)もパタハラ(パタニティハラスメント)も、均等法・育介法という二つの法律が根拠法となり、最高裁判例によって違法性が確立されています。本記事では、2026年時点の法体系・判例・改正経緯を整理し、それぞれのハラスメントがどのような行為を指し、事業主にどのような防止義務が課されているかを解説します。被害を受けた方がとるべき相談先の情報も末尾に掲載しています。妊娠・出産・育児に関わる当事者、人事・総務担当者、職場環境の改善を検討している方に向けた解説記事です。

マタハラ・パタハラとは何か|定義と対象行為

マタハラ(マタニティハラスメント)の定義

マタハラとは、職場において妊娠・出産・産前産後休業の取得などを契機として、上司・同僚が行う嫌がらせや不利益取扱いを指します。厚生労働省は「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント」と定義しており、男女雇用機会均等法(以下「均等法」)第11条の3が事業主に防止措置義務を課す根拠規定となっています。

対象となる行為は大きく二種類に分けられます。一つは「制度等の利用への嫌がらせ型」で、産前産後休業・育児休業・母性健康管理措置などの制度利用を阻害する言動です。もう一つは「状態への嫌がらせ型」で、妊娠・出産したことそのものに対して不快な言動を行うものです。「妊娠するなんて迷惑だ」「育休を取るなら辞表を出せ」といった発言は後者に、降格・減給・解雇通告は前者に該当しうるとされています。

パタハラ(パタニティハラスメント)の定義

パタハラとは、主に男性労働者が育児休業をはじめとする育児目的の制度を利用しようとした際、または利用したことを理由として行われる嫌がらせや不利益取扱いを指します。「パタニティ(paternity)」は父性を意味する英語です。育児・介護休業法(以下「育介法」)第25条が事業主に防止措置義務を課しており、同法第10条が育休取得を理由とする不利益取扱いを禁止しています。

「男が育休を取るのはおかしい」「会社に迷惑をかけるな」といった発言や、育休申請後の昇進・評価への不当な影響、閑職への異動命令などが典型例として挙げられます。2022年以降の育介法改正によって男性育休への社会的関心が高まる一方、職場内の意識差がパタハラとして表面化するケースが増加傾向にあるとも指摘されています。

両者の共通点と相違点

マタハラとパタハラは、いずれも「仕事と育児の両立に関する権利行使を妨げるハラスメント」という点で共通しています。しかし根拠法・対象者・典型的な行為類型が異なります。マタハラは主に均等法が根拠となり、妊娠・出産した(主に女性の)労働者が対象です。パタハラは主に育介法が根拠となり、育児参加を希望する(主に男性の)労働者が対象となっています。

もっとも、近年は育休を取得しようとした女性への嫌がらせが「パタハラ類似」として取り上げられたり、男性の妊娠関連差別(配偶者の妊娠を理由とした不当対応)が問題化するケースもあり、両者の境界は必ずしも明確ではありません。

均等法における法的根拠|9条・11条の3の構造

均等法9条3項|不利益取扱いの禁止

男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索)第9条第3項は、事業主が妊娠・出産・産前産後休業の取得などを「理由として」行う解雇その他の不利益取扱いを禁止しています。条文上は「解雇してはならない」という形式ですが、厚生労働省の指針により、降格・減給・契約更新拒否・不利益な配転なども「不利益取扱い」に含まれると解されています。

「理由として」の因果関係をどう判断するかは重要な論点です。後述する広島中央保健生協事件の最高裁判決では、妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格について「原則として違法」と判断した上で、例外として①本人の自由な意思に基づく同意があること、または②業務上の必要性や不利益の程度から見て同意がなくても「特段の事情」が認められることを挙げています。この判断枠組みは現在も先例的価値を持っています。

均等法11条の3|ハラスメント防止措置義務(2017年施行)

2016年の均等法改正(2017年1月施行)により、第11条の3が新設されました。同条は事業主に対し、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントを防止するために必要な措置を講じることを義務付けています。具体的には、①ハラスメント防止の方針の明確化・周知啓発、②相談窓口の設置・周知、③相談への適切な対応、④ハラスメント行為者への適切な措置、⑤プライバシー保護と不利益取扱いの禁止、の五項目が指針で定められています。

従業員数にかかわらずすべての事業主に適用される義務であり、措置を怠った場合は厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となりえます。2022年の法改正でハラスメント防止の相談対応義務が強化され、労働者が相談したことを理由とする不利益取扱いも明示的に禁止されました。

均等法違反と民事責任

均等法違反は直接の罰則規定を持つ場合が限られていますが、民事上の不法行為(民法709条)や安全配慮義務違反(労働契約法5条)を根拠とする損害賠償請求の基礎となりえます。過去の裁判例では、マタハラによる精神的損害を認めたとされる事例が複数報告されており、損害賠償額は事案の悪質性や労働者の被った損害の大きさによって幅があるとされています。

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育介法における法的根拠|10条・25条の構造

育介法10条|不利益取扱いの禁止

育児・介護休業法(e-Gov法令検索)第10条は、労働者が育児休業の申出・取得をしたことを理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止しています。「その他の不利益取扱い」には降格・減給・昇進差別・配転・雇止めが含まれると解されており、男性・女性を問わず育休を申請した労働者全員が保護対象です。

「育休を申し出たこと」自体が保護の契機となる点は重要です。実際に育休を取得する前であっても、申出後に嫌がらせを受けたり撤回を強要されたりする行為は同条違反とされる可能性があります。また、育休復帰後の人事評価への不当な反映も、「育休取得を理由とする不利益取扱い」として問題化するケースがあります。

育介法25条|ハラスメント防止措置義務

育介法第25条は、育児休業等の制度利用に関するハラスメントを防止するための措置義務を事業主に課しています。均等法11条の3と同様、方針の周知・相談窓口設置・行為者への対応・プライバシー保護・不利益取扱いの禁止が求められます。2022年改正で相談者の不利益取扱い禁止が明記されました。

育介法上のハラスメント防止義務は「制度等の利用への嫌がらせ型」と「就業環境を害する型」の二つを対象とします。前者は「育休を取るな」と圧力をかける行為、後者は育休取得後に職場内で孤立させたり業務から外したりする行為が該当しうるとされています。

育介法違反の効果と行政対応

育介法違反も均等法と同様、厚生労働大臣による報告徴収・助言・指導・勧告の対象となります。勧告に従わない場合は企業名が公表される制度が設けられており、企業のレピュテーションリスクとしても認識されています。民事上は不法行為責任のほか、育休申請に基づく労働者の権利が認められる場合には、配転命令の無効確認や原職復帰を求める手続きが検討されることもあります。

最高裁判例|広島中央保健生協事件(平成26年)の意義

事件の概要と争点

広島中央保健生協事件(最高裁平成26年10月23日判決)は、マタハラ法理を確立した先例的判決として現在も引用されています。事案の概要は、理学療法士として副主任の職にあった女性労働者が、妊娠中に業務負担軽減のため別の業務(軽易業務)への転換を申し出たところ、副主任の職位を解かれ、育休復帰後も元の職位に戻らなかった、というものです。

争点は、①この降格が均等法9条3項の「不利益取扱いの禁止」に違反するか、②違反するとした場合の法的効果はどうなるか、という二点でした。

最高裁の判断枠組み

最高裁は、均等法9条3項の趣旨から「妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格は、原則として同項の禁止する不利益取扱いに当たる」と判示しました。そのうえで例外として二つの要件を示しています。

一つ目の例外は「本人の自由な意思に基づく同意」です。ただし最高裁はここでの「同意」を厳格に解しており、降格を余儀なくされるような状況下での形式的な同意はこれに当たらないとしています。二つ目の例外は「業務上の必要性、本人の不利益の程度、同意の有無などの諸事情に照らし、特段の事情」が認められる場合です。この判断は客観的・総合的に行われるとされています。

判決の現代的意義

この判決が示した「同意の厳格解釈」と「特段の事情の客観的判断」という枠組みは、その後の下級審判決でも繰り返し参照されています。特に、「本人が何も言わなかったから同意があった」という事業主側の主張が退けられるケースが増えたとされており、均等法9条3項の実効性を高める方向で機能していると評価されています。

同事件の判断枠組みはパタハラ案件にも類推的に参照されることがあり、育介法10条の解釈においても「本人が同意したかどうか」を厳格に問う傾向に影響を与えているとも指摘されています。

現代的論点|2026年時点の到達点

2007年以降の主な法改正・新法

マタハラ・パタハラに関する法制度は、2007年以降に大きく変容しています。主な改正の流れを時系列で整理します。

  • 2016年均等法改正(2017年1月施行):11条の3を新設し、妊娠・出産等に関するハラスメント防止措置義務を法定化。
  • 2016年育介法改正(2017年1月施行):25条を改正し、育休等の制度利用に関するハラスメント防止措置義務を強化。
  • 2022年育介法改正(段階的施行):①2022年4月から雇用環境整備・個別周知・意向確認の義務化、②2022年10月から産後パパ育休(出生時育児休業)の創設および育休の分割取得の可能化、③2023年4月から常時雇用労働者1000人超企業に対して育休取得率等の公表義務化。
  • 2025年4月施行|出生後休業支援給付金の創設:子の出生後8週間以内に男性が28日以上育休を取得した場合、育児休業給付金に上乗せして受給できる「出生後休業支援給付金」が創設されました。手取り収入の実質10割程度となることを目指した制度です(雇用保険法等の改正による)。

議論の現在地

男性育休の取得推進については、「家庭内ケアの平等化」「少子化対策」「企業の労働力確保」といった観点から政策的に推進する立場がある一方、「中小企業の現場では代替要員確保が難しい」「同僚への過大な負担になりうる」「取得を強制すると形骸化する」といった懸念も示されています。

取得率の公表義務化については、透明性を高めることでハラスメントの抑制につながるという肯定的評価がある一方、「数字だけを上げる形式的な取得(数日だけの育休)が増える」「職場環境の質が伴わないと逆効果」という批判的な見方も存在します。ハラスメント防止措置義務の実効性についても、「義務の内容が抽象的で形式的な対応に留まりやすい」という指摘が労働法学者や労働組合から出ています。

残された課題

現行制度の課題として、以下の点が指摘されています。第一に、ハラスメント防止措置義務違反に対する直接的な罰則がなく、行政指導や企業名公表にとどまる点です。民事訴訟によって救済を求めようとしても、証拠収集の困難さや手続の負担が被害者側に重くのしかかることが指摘されています。

第二に、非正規雇用労働者の保護の不十分さです。有期契約労働者は育休取得要件に「引き続き1年以上雇用」という条件があり(2022年改正で緩和方向にあるが廃止議論も継続中)、不安定な立場の労働者はそもそも申請を諦めるケースがあります。第三に、介護ハラスメントや病気治療との両立に関するハラスメントについて、法的整備がマタハラ・パタハラと比べて遅れているという指摘もあります。

比較整理|マタハラ・パタハラ・セクハラ・パワハラの違い

職場ハラスメントには複数の類型があり、それぞれ根拠法・対象・防止義務の構造が異なります。以下の表で整理します。

項目 マタハラ パタハラ セクハラ パワハラ
定義 妊娠・出産・産休等を理由とする嫌がらせ・不利益取扱い 男性の育休等制度利用を理由とする嫌がらせ・不利益取扱い 職場での性的な言動による就業環境の悪化・不利益 職場の優越的地位を背景とした身体的・精神的苦痛
主な根拠法 均等法9条3項・11条の3 育介法10条・25条 均等法11条・11条の2 労働施策総合推進法30条の2
防止措置義務 均等法11条の3(2017年施行) 育介法25条(2017年強化) 均等法11条(1999年施行) 労施法30条の2(2020年施行、中小2022年)
代表的判例 広島中央保健生協事件(最判平26.10.23) 東京地裁等で複数の下級審事例あり 仙台セクハラ事件(最判平11.3.25) パワハラ防止法施行以降の下級審事例多数
典型行為例 降格・解雇・産休阻害・「迷惑だ」発言 育休撤回強要・評価下げ・「男なのに」発言 性的言動・不必要な身体接触・性的な噂の流布 暴力・過大な要求・無視・侮辱・プライバシー侵害
事業主義務 方針明確化・相談窓口・行為者対応・プライバシー保護 同左(育介法指針に準拠) 方針明確化・相談対応・是正措置(均等法指針) 同左(パワハラ防止指針)

複数のハラスメントが複合して発生する場合(例:妊娠報告後に性的な言動も加わるケース)は、均等法上の複数規定が同時に適用されうる点にも注意が必要です。

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育介法2022年改正の詳細|産後パパ育休と取得率公表義務

産後パパ育休(出生時育児休業)の創設

2022年10月から施行された「産後パパ育休」(出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に男性が最大4週間(28日)取得できる休業制度です。従来の育児休業とは別制度として位置づけられており、2回まで分割して取得できます。また、労使協定を締結することで休業中の就業が一定範囲で可能となる点も新たな特徴です。

産後パパ育休を取得した場合、雇用保険から育児休業給付金が支給されます(支給率は休業開始から180日以内は67%、181日以降は50%)。さらに2025年4月から創設された「出生後休業支援給付金」を合わせると、社会保険料の免除も含めた実質的な手取り相当額が10割程度になることを目指した制度設計となっています。

育休分割取得と意向確認義務

2022年10月改正では、育児休業の分割取得も可能になりました。従来は原則1回に限られていた育休の取得が、最大2回に分けて申請できるようになっています。これにより、育休を一時取得した後に職場に戻り、再度取得するという柔軟な働き方が選択しやすくなっています。

また、2022年4月から義務化された「個別周知・意向確認」制度により、事業主は妊娠・出産を申し出た労働者(本人または配偶者)に対して、育休制度の内容を個別に知らせ、取得意向を確認することが義務付けられました。この義務の趣旨は、「知らなかった」「言い出せなかった」という状況でのパタハラ・マタハラを予防することにあります。

取得率公表義務(2023年4月~、従業員1000人超企業)

2023年4月から、常時雇用する労働者が1000人を超える企業は、男性の育休取得率または育休・育児目的休暇取得率を年1回以上公表することが義務付けられました。公表の場所は自社のウェブサイト等、一般の閲覧に供できる媒体であることが求められます。対象外の中小企業についても、厚生労働省は今後の対象拡大を議論している段階です。

公表義務の導入によって、取得率に関する社内外からの注目が高まり、一部企業では育休取得を妨げるパタハラへの抑止効果が期待されています。一方で「数字を満たすための形式的な短期取得」が増えるリスクも指摘されており、取得日数の質的な指標との組み合わせが今後の課題とも言われています。

相談窓口と被害を受けたときのステップ

公的相談窓口の一覧

マタハラ・パタハラの被害を受けた場合、以下の公的窓口に相談することができます。

  • 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):均等法・育介法に基づくハラスメントの相談窓口。調停(紛争解決援助)の申請も可能です。全国の都道府県労働局に設置されています。
  • 総合労働相談コーナー:各都道府県労働局・ハローワーク内に設置。労働問題全般の相談を受け付けます。
  • 法テラス(日本司法支援センター)|電話: 0570-078374:弁護士費用の立替制度(審査あり)や弁護士・司法書士の紹介を行う公的機関です。法的手続きを検討する際の最初の相談先として利用できます。
  • 配偶者暴力相談支援センター(DVが絡む場合):DVと職場ハラスメントが複合するケース(例:出産後の家庭内暴力と職場での不当対応が重なる場合)には、都道府県の配偶者暴力相談支援センターへの相談も検討できます。

記録と証拠の保全

ハラスメントの被害を相談・申告する際には、証拠の保全が重要となります。発言があった日時・場所・内容・同席者をメモで記録すること、メール・メッセージのやり取りは削除せず保存すること、診断書や心療内科の受診記録がある場合はその写しを手元に置くことなどが、後の手続きにおいて参考になる場合があります。

社内手続きと外部手続きの選択

被害を申告するルートとしては、①社内の相談窓口(ハラスメント相談窓口・人事部)を通じた解決、②都道府県労働局への相談・調停申請、③裁判所への仮処分・訴訟提起があります。どのルートを選択するかは、職場環境・被害の深刻さ・相手方との関係性などによって異なります。複数の手段を並行して利用することも法律上は妨げられていません。

よくある質問(FAQ)

Q1. マタハラとパタハラの違いは何ですか?

A. マタハラは妊娠・出産・産前産後休業に関するハラスメントで、主な根拠法は均等法です。パタハラは育児目的の制度(主に育休)を利用しようとする男性労働者への嫌がらせで、主な根拠法は育介法です。対象者・根拠法・典型行為が異なりますが、いずれも事業主に防止措置義務が課されている点は共通です。

Q2. 妊娠を報告したら降格・配転を命じられました。これは違法になりますか?

A. 均等法9条3項は妊娠等を理由とする不利益取扱いを禁止しており、降格・配転もこれに含まれうるとされています。広島中央保健生協事件の最高裁判決では、妊娠を契機とする降格は「原則違法」とされた事例があります。ただし個々の事案では、本人の同意の有無や業務上の必要性の有無などを総合的に判断する必要があります。詳細は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)にご相談ください。

Q3. 育休から復帰した後、元の職位に戻る権利はありますか?

A. 育介法は育休復帰後の「原職復帰」を努力義務として定めており、事業主に対して原則として休業前と同じ職務・職場への復帰を配慮するよう求めています。義務の強度については法律上の規定と運用実態に差があるとも指摘されており、復帰後の職位・業務内容が著しく不当に変更された場合は、育介法10条の不利益取扱い禁止規定との関係で問題になりうる可能性があります。

Q4. 育休取得率の公表義務はどの企業に適用されますか?

A. 2023年4月から、常時雇用する労働者が1000人を超える企業に対して義務化されています。1000人以下の企業は現時点では義務対象外ですが、厚生労働省は中小企業への対象拡大の議論を継続しており、今後の動向を注視する必要があります。

Q5. ハラスメントを受けた場合、まずどこに相談すればよいですか?

A. 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が均等法・育介法に基づく相談・調停の専門窓口です。法的手続きを検討する場合は法テラス(0570-078374)への相談が入口として利用されることがあります。記録・証拠の保全を並行して進めることをお勧めします。

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