職場でのハラスメントや暴力をなくすために、国際労働機関(ILO)は2019年、画期的な国際条約を採択しました。「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約(ILO第190号条約)」は、労働の現場に存在するあらゆる暴力・ハラスメントを国際的に禁じることを目的としており、ジェンダーに基づく暴力への特別な言及も盛り込まれています。ILO設立100周年という節目に採択されたこの条約は、フリーランスや就職活動中の学生も保護対象に含める広い適用範囲で注目を集めました。採択から7年が経過した2026年現在、世界では40か国以上が批准を完了していますが、日本はいまだ批准に至っていません。
国内では職場ハラスメント対策の法整備が2020年以降に大きく進みましたが、国際水準との間にはどのようなギャップがあるのでしょうか。この記事では、ILO第190号条約の内容と採択の背景、世界各国の批准状況の国際比較、日本の現行法制との差異、そして批准をめぐる議論の現在地を詳しく解説します。職場のハラスメント対策に関心のある人事・労務担当者、労働法を学ぶ方、男女共同参画推進員、そして職場環境の改善に取り組むすべての方に向けた2026年版の解説です。
ILO第190号条約とは何か――採択の背景と国際的意義
採択の経緯(2019年ILC第108回会議)
ILO第190号条約は、2019年6月にスイス・ジュネーブで開かれた第108回国際労働総会(ILC、International Labour Conference)において採択されました。ILO(国際労働機関)が労働の世界における暴力・ハラスメントを包括的に扱う条約を採択したのはこれが初めてであり、ILO設立100周年という節目の成果として国際社会から高い注目を集めました。採択は185か国の代表者が参加した会議での圧倒的な賛成多数によるもので、職場のハラスメント問題に対する国際社会の強い意志を示した歴史的な決定です。条約と一体をなす「仕事の世界における暴力及びハラスメントに関する勧告(勧告第206号)」も同時に採択され、条約の実施指針を補完する役割を果たしています。条約は2020年6月にウルグアイが世界初の批准国となり、2021年6月に発効しました。
条約の主な内容と構成
ILO第190号条約は全19条で構成されています。第1条では「暴力及びハラスメント」を「身体的・精神的・性的又は経済的被害をもたらすこと又はもたらす可能性がある一連の許容できない行動及び慣行又はその脅威」と定義し、ジェンダーに基づく暴力をその中に明示的に含めています。第4条では加盟国に対して暴力・ハラスメントのない労働の世界を促進するための包括的な義務を課し、第7条では使用者に対する予防・保護・救済措置の整備を求めています。第9条では、すべての使用者にリスク評価・防止計画・苦情申立制度の整備を義務づけています。伴う勧告第206号は、条約の実施にあたって各国が採るべき具体的な施策(調査機関の整備・被害者への特別保護・デジタル空間上の暴力への対応等)を詳細に規定しており、条約と一体のものとして位置づけられます。
適用範囲の広さ――「仕事の世界」全体をカバー
条約が定める適用範囲は「仕事の世界(world of work)」であり、従来の職場概念を大きく超えています。具体的には、通勤途上・使用者提供の宿舎や休憩所・業務関連の出張・研修・懇親会のほか、SNSやメールなどの業務関連通信手段も「仕事の世界」に含まれます。また、雇用形態にかかわらず、フリーランス・インターン・就職活動中の学生・ボランティアも保護対象とされています。この広い適用範囲は、従来の「正規雇用労働者」を念頭に置いた国内法では十分にカバーされていない部分が多く、日本が批准に向けた法整備を進める上での課題の一つとなっています。
条約が定める「暴力・ハラスメント」の定義と特徴
一元的な定義の採用
ILO第190号条約の重要な特徴は、「暴力」と「ハラスメント」を一元的に定義した点です。従来の国内法・国際規範では、身体的暴力・性的ハラスメント・パワーハラスメントなど種別ごとに異なる定義が設けられていました。しかし条約の第1条第1項(a)では、「身体的・精神的・性的又は経済的被害をもたらす可能性がある一連の許容できない行動及び慣行」として統一的に定義し、個別分類の壁を超えた包括的な保護を実現しています。この一元定義により、複合的なハラスメント(例:性的要素を伴うパワーハラスメント)や新たな形態の問題行為(デジタル・ストーキング・リベンジポルノ等)も条約の保護範囲に含まれます。
ジェンダーに基づく暴力への明示的言及
条約第1条第1項(b)は、「ジェンダーに基づく暴力及びハラスメント(gender-based violence and harassment)」を条約全体の中で特別に位置づけています。ジェンダーに基づく暴力(GBV)とは、ある人の性別または性自認を理由として向けられる暴力・ハラスメントを指します。セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)はGBVの典型例ですが、条約ではより広く、性差別的な言動・固定的性別役割の強制・性的指向や性自認を理由とした嫌がらせなども含まれると解釈されます。この規定は、職場における男女共同参画の実現を国際的に支持する根拠となっており、条約がジェンダー平等施策と不可分の関係にあることを示しています。
第三者による暴力を含む包括性
条約は使用者・同僚だけでなく、顧客・取引先・患者・生徒など第三者(サードパーティ)による暴力・ハラスメントも保護対象に含めています。日本においてカスタマーハラスメント(顧客によるハラスメント)が社会問題化し、2025年に東京都が全国初の防止条例を制定するなど対策が進みつつある状況は、この条約の第三者暴力規定と方向性を同じくしています。また、フリーランスや非正規労働者がハラスメント被害を受けやすい実態にも対応しており、多様な就労形態が拡大する現代の労働市場に即した設計です。条約の包括性は、こうした保護の空白をなくす国際規範としての意義を持っています。
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職場のハラスメント対策と国際労働基準について体系的に学ぶ参考書籍:
大和田敢太『職場のハラスメント――なぜ起きるのか、どうすれば防げるのか』岩波新書(ハラスメントの発生メカニズムと防止策を法的・社会学的に解説。国際比較も含む入門書)
世界の批准状況と国際比較(2026年時点)
| 国・地域 | 批准年 | 地域 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ウルグアイ | 2020年 | 南米 | 世界初の批准国 |
| フィジー | 2021年 | 太平洋 | アジア太平洋地域初 |
| ナミビア | 2021年 | アフリカ | |
| エクアドル | 2022年 | 南米 | |
| ベルギー | 2023年 | 欧州 | EU圏初 |
| 南アフリカ | 2023年 | アフリカ | |
| アルゼンチン | 2024年 | 南米 | |
| 日本 | 未批准 | アジア | 厚労省研究会で検討中 |
| アメリカ | 未批准 | 北米 | ILO条約全般の批准率が低い |
| 中国 | 未批准 | アジア |
批准が進む欧州・南米諸国
南米のウルグアイが2020年6月に世界初の批准国となり、その後南米・アフリカ・欧州を中心に批准国が増加しています。欧州ではベルギーが2023年にEU圏初の批准国となり、スペイン・フランス・ドイツなどでも批准に向けた国内手続きが進んでいると報告されています。南米ではアルゼンチン・エクアドル・ウルグアイが批准し、地域全体でハラスメント対策の国際基準が高まっています。ILO事務局の発表によると、2026年3月時点で世界40か国以上が批准しており、条約の国際的な規範力は着実に高まっています。
G7各国の対応状況
G7(主要7か国:日本・アメリカ・カナダ・ドイツ・フランス・イタリア・イギリス)の中でILO第190号条約を批准した国は2026年時点では限定的です。各国は独自の労働法制でハラスメント対策を進めているものの、批准に向けた法整備の進捗には差があります。アメリカはもともとILO条約の批准率が低く、主要ILO条約の批准数がG7中最低水準にあるため、第190号条約についても批准のめどは立っていません。フランス・ドイツは既存の労働法制との整合性を確認しながら検討を進めているとされています。各国の対応の違いは、労働法制の構造・社会的・文化的背景・立法プロセスの違いを反映しています。
アジア地域の動向
アジア太平洋地域では太平洋島嶼国のフィジーが2021年に同地域初の批准国となりましたが、日本・韓国・中国・インドなど主要経済国はいずれも2026年時点で未批准です。韓国では2019年に職場内いじめ禁止規定(근로기준법 제76조의2)が労働基準法に導入され、ハラスメント対策が法制化されていますが、ILO第190号条約との整合性確認・法改正の作業は継続中とされています。アジア地域では労働市場の構造・労使関係・法制度の多様性が大きく、批准には各国固有の事情への対応が求められています。
日本の現行法制との比較とギャップ分析
現行法制度の到達点
日本では、2020年以降のハラスメント対策強化により、職場での暴力・ハラスメントに対処する法制度が整備されてきました。主な法令として、パワーハラスメント防止措置義務を定めた労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法・最終改正2022年)第30条の2、セクシュアルハラスメント・マタハラ・パタハラ対策を定めた雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法・最終改正2022年)第11条、育休ハラスメント対策を含む育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法・最終改正2023年)第25条があります。これらにより、使用者に対するハラスメント防止措置義務・相談体制整備義務が法定化されました。
| 比較項目 | ILO第190号条約の要件 | 日本の現行法 | ギャップ |
|---|---|---|---|
| 適用対象 | フリーランス・インターン・就活生含む全就労形態 | 主に「労働者」(雇用関係にある者) | 非雇用就労者の保護が不十分 |
| 第三者ハラスメント | 顧客等第三者も明示的に含む | カスハラ規制は2025年東京都条例のみ(国法未整備) | 国レベルでの立法が未整備 |
| 制裁・救済 | 効果的な制裁(刑事・民事・行政)を規定 | 刑事罰なし、使用者への行政指導・民事損害賠償が主 | 加害個人への直接制裁が弱い |
| 被害者保護措置 | 地位・収入・健康の保護・秘密保持・証拠保全 | 相談対応・配置転換等の措置義務 | 被害者保護の包括性に差 |
| デジタル暴力 | デジタル・テクノロジー経由の暴力も適用対象 | 2023年撮影罪・リベンジポルノ防止法等 | SNS等を通じた職場ハラスメントの明示規定が不十分 |
| GBVの位置づけ | 条約全体に横断的に組み込み(第1条(b)) | 均等法でセクハラ規定あり | ジェンダーに基づく暴力の一元的な包括規定が弱い |
条約との主な差異点
日本の現行法とILO第190号条約の最大の差異は、適用対象の範囲です。条約は雇用形態を問わず「仕事の世界」で就労するすべての人を保護しますが、日本の労働関係法令は原則として「労働者(雇用関係にある者)」を対象としており、フリーランス・ギグワーカー・インターン・就職活動中の学生は保護が弱い状況にあります。2025年に施行されたフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は取引上の優越的地位の濫用を規制しますが、ハラスメント規制という観点では条約の水準には達していません。また、条約は職場暴力・ハラスメントに対する「効果的な制裁(刑事・民事・行政)」を求めていますが、日本の現行法は主に使用者に対する行政指導・勧告が中心であり、加害個人への直接的な刑事制裁は設けられていません。
批准に向けて必要な国内整備
条約批准に向けては、複数の法整備課題が指摘されています。第一に、フリーランス等の非雇用就労者への保護拡大です。第二に、第三者(顧客・取引先)によるハラスメントを規制する国レベルでの法令整備です。第三に、ジェンダーに基づく暴力の定義を一元化した包括的立法の設計です。第四に、被害者の秘密保持・証拠保全・不利益取扱い禁止の強化です。第五に、条約第19条が求める国際報告義務に対応したモニタリング統計の整備です。これらは段階的な法改正で対応可能なものから、新たな立法が必要なものまで多様であり、批准の時期については2026年時点で政府から具体的な見通しは示されていません。
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
ILO第190号条約採択(2019年)の前後を含む、2007年以降の日本の職場ハラスメント対策に関する主な法改正・新法の動きを整理します。
- 2007年: 男女雇用機会均等法改正(セクハラ防止措置義務の強化、男性への適用拡大)
- 2017年: 育児・介護休業法改正(マタハラ・パタハラ防止措置義務化)
- 2019年: ILO第190号条約採択(日本は議案に賛成票を投じた)
- 2019年: 労働施策総合推進法改正(パワーハラスメント防止措置義務化、2020年大企業施行・2022年中小企業施行)
- 2022年: 男女雇用機会均等法等改正(相談対応体制強化、不利益取扱い禁止強化)
- 2023年: 刑法改正(不同意性交等罪の設置、性的暴行の要件を「不同意」に再整理)
- 2023年: 性的姿態等撮影罪(いわゆる撮影罪)の創設
- 2025年: 東京都カスタマーハラスメント防止条例施行(全国初)
- 2025年: フリーランス保護新法施行(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)
こうした法整備はILO第190号条約の方向性と部分的に軌を一にするものですが、条約が求める包括的な枠組み全体を満たすには至っていません。
議論の現在地
ILO第190号条約の批准をめぐる国内議論は、労働組合や市民団体が批准を強く求める一方、経済界・一部行政機関からは法整備の必要性や費用負担を理由とした慎重論も出ています。
批准推進側の主な論点としては、国際標準に合わせることで企業のコンプライアンス水準が向上する点、フリーランスや非正規労働者を含む多様な就労者の保護が実現する点、そして批准がジェンダー平等施策の一貫性を示す国際的なシグナルになる点が挙げられます。日本労働組合総連合会(連合)は早くから批准推進の決議を採択し、具体的なデータを示しながら立法府・行政府への働きかけを続けています。
慎重論側の主な論点としては、国内の労働法制でも主要なハラスメント対策は段階的に整備されてきたという実績評価、適用範囲拡大(フリーランス等)には別途丁寧な議論が必要という点、そして性急な批准は中小企業に過大な負担を与える可能性という懸念が挙げられます。政府(厚生労働省)は条約の内容を研究会で検討してきましたが、2026年時点で具体的な批准時期は示されていません。これらの主張はいずれも政策的な論点であり、どちらが正しいかを断言できる問題ではなく、社会的合意形成のプロセスが継続しています。
残された課題
ILO第190号条約の批准に向けて、2026年時点でなお残る主な課題は次のとおりです。第一に、フリーランス・ギグワーカー・就活生など非雇用就労者への法的保護の空白をどう埋めるかという問題です。第二に、カスタマーハラスメントを規制する国レベルでの立法が未整備のまま都道府県条例の積み上げに留まっている点の統一化です。第三に、ジェンダーに基づく暴力の一元的な定義と包括的立法の設計です。第四に、被害者保護の実効性(不利益取扱い禁止・秘密保持・証拠保全)の強化です。第五に、条約第19条に基づく国際報告・モニタリング体制の確立です。これらは短期間で解決できる課題ではなく、中長期的な立法・政策議論が必要です。ジェンダーギャップ指数(GGI)で2024年に118位という低順位を記録した日本にとって、この条約の批准は国際的な信頼性を高める一つの重要な選択肢とも指摘されています。
批准をめぐる国内議論と各主体の立場
労働側(労働組合・市民団体)の主張
日本労働組合総連合会(連合)はILO第190号条約の批准を求める方針を継続的に示しており、フリーランスや非正規労働者のハラスメント被害実態を調査・公表し、批准推進の根拠を積み上げています。また、ハラスメント被害者支援を行う市民団体も、現行法の保護から漏れる当事者の声を国会・行政に届けています。女性団体・LGBTQ+支援団体からは、ジェンダーに基づく暴力の明示規定が条約の重要な価値であるとして、批准を優先事項に位置づけるよう求める声が上がっています。
経営側・政府の立場
日本経済団体連合会(経団連)は、国内のハラスメント対策法制が段階的に整備されてきた実績を評価しつつも、批准による新たな法的義務や費用負担については慎重な検討が必要との立場を示しています。政府(厚生労働省)は条約の内容を研究会で検討してきましたが、2026年時点で明確な批准時期は示されていません。政府は「国内法制との整合性確認を進めている」との立場を維持しており、法改正の具体的な工程は今後の課題となっています。日本がILO第190号条約の採択に際して賛成票を投じたことは、批准に向けた政治的な意思の表れとも解釈されますが、採決時の賛成が批准義務を意味するわけではありません。
学術・専門家の視点
労働法学者・ジェンダー法研究者の間では、条約批准をむしろ国内法整備の梃子(てこ)として活用する視点が注目されています。国際条約批准が先行することで、立法府・行政府が法改正に着手しやすくなるという立法政策論上の考え方です。有斐閣・日本評論社等の法律専門誌でも、条約と国内法制のギャップ分析が継続的に行われており、学術的な議論の蓄積が進んでいます。他方で、日本のハラスメント法制の固有の発展経路(行政指導中心・企業自律尊重)を重視する立場からは、条約の一律適用に懐疑的な見方もあります。いずれの立場も、最終的には当事者・労使・行政・議会の広範な議論を経た民主的な決定が必要という点では共通しています。
相談窓口・参考情報
職場での暴力・ハラスメントに関する相談は、以下の公的機関をご利用ください。
- 総合労働相談コーナー(ハラスメント相談): 各都道府県労働局が設置しています。電話・来所相談が可能で、専門の相談員が対応します。詳細は厚生労働省のウェブサイトをご参照ください。
- 配偶者暴力相談支援センター(DV相談): 各都道府県が設置。DV被害者の相談・支援・保護命令申立のサポートを行います。内閣府の「DV相談ナビ」(#8008)で最寄りのセンターに案内されます。
- 性犯罪被害相談電話(#8103): 24時間対応。全国どこからでも「シャープ8103(ハートさん)」にかけると最寄りの相談機関につながります。
- 法テラス(法律援助制度): 電話0570-078374。ハラスメント・DV被害に関する法律相談、弁護士紹介を無料で行っています(収入要件あり)。
具体的な事案については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。心身の不調を感じる場合は、医療機関・精神保健福祉センター・専門相談窓口へご相談ください。
まとめ――ILO第190号条約と日本の今後
ILO第190号条約は、2019年の採択から7年を経て、世界40か国以上が批准する国際規範となりました。条約が定める「仕事の世界」全体をカバーする一元的な暴力・ハラスメント禁止の枠組みは、フリーランスや就活生を含む多様な就労者を守るものとして国際的な評価を高めています。
日本では2020年以降、パワハラ防止法・均等法改正・育介法改正・カスハラ条例等、段階的にハラスメント対策が整備されてきました。しかし条約との比較では、非雇用就労者への保護・第三者ハラスメント規制・ジェンダーに基づく暴力の一元的な位置づけなどの分野で整備の余地が残っています。
批准の可否は政府・国会・労使・社会全体が議論する政策決定事項です。男女共同参画の推進という観点から、条約の内容と国内議論の動向を引き続き注視することが重要です。
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ジェンダー平等と国際労働基準の理解を深める参考書籍:
菅野和夫『労働法(第12版)』有斐閣(労働法の代表的なテキスト。ハラスメント関連法制・均等法・育介法を体系的に解説)
よくある質問(FAQ)
- Q. ILO第190号条約はいつ採択されましたか?
- 2019年6月に、スイス・ジュネーブで開かれた第108回国際労働総会(ILC)において採択されました。ILO設立100周年の節目の年に、職場の暴力・ハラスメントを包括的に禁じる初めての国際条約として成立しました。2021年6月に発効しています。
- Q. 日本はILO第190号条約を批准していますか?
- 2026年時点で、日本はILO第190号条約を批准していません。厚生労働省の研究会で条約内容と国内法との整合性が検討されていますが、具体的な批准時期は示されていません。
- Q. 条約が定める「仕事の世界」の範囲はどこまでですか?
- 条約は職場だけでなく、通勤途上・業務関連の出張・研修・懇親会・使用者提供の宿舎や休憩所・SNSやメールなどの業務関連通信手段も含みます。また、フリーランス・インターン・就職活動中の学生・ボランティアも保護対象とされています。
- Q. 日本のパワーハラスメント防止法はILO第190号条約の要件を満たしていますか?
- 部分的には方向性が一致していますが、条約全体の要件を満たしているとは言えない状況です。主な差異は、①フリーランスなど非雇用就労者への保護が不十分、②顧客等第三者によるハラスメントの国レベル規制が未整備、③ジェンダーに基づく暴力の一元的な包括規定が弱い、の3点です。
- Q. ジェンダーに基づく暴力(GBV)とは何ですか?
- GBV(Gender-Based Violence)とは、その人の性別または性自認を理由に向けられる暴力・ハラスメントを指します。セクシュアルハラスメントはGBVの典型例ですが、性差別的な言動・固定的性別役割の強制・性的指向や性自認を理由とした嫌がらせなども含まれます。ILO第190号条約では第1条第1項(b)でGBVを条約全体に横断的に位置づけています。
- Q. 条約批准のメリットと課題は何ですか?
- 批准のメリットとしては、フリーランスを含む多様な就労者の保護拡大、国際水準に沿ったハラスメント対策の強化、企業コンプライアンスの向上などが挙げられます。一方で批准に向けた課題としては、非雇用就労者への法的保護拡大・国レベルでのカスハラ規制立法・被害者保護強化・国際報告体制の整備など、複数の法改正が必要とされています。
