離婚や別居によって子どもとの同居ができなくなった親(非監護親)が、定期的に子どもと直接会い、交流を続けるための法的な制度を「面会交流」といいます。日本では民法第766条第1項に明記された制度であり、子どもの健全な成長を支える観点から国連子どもの権利条約でも保障された権利とされています。
しかし現実には、「相手が面会を一方的に拒否する」「DV(ドメスティック・バイオレンス)被害を受けておりどう対応すればよいかわからない」「取り決めをしたのに守ってもらえない」「子ども自身が強く拒絶している」といった問題が多く生じます。
2024年5月に成立し2026年5月に施行された民法改正では、日本で初めて離婚後の共同親権制度が導入されました。この改正は面会交流の位置づけや実務対応にも直接影響します。
この記事では、面会交流の法的根拠・取り決め方の3方式・DV事案での特別対応・2024年民法改正との関係・現代的な論点・面会交流が守られない場合の手続きを整理します。離婚後の子育てに悩む方・離婚を検討している方・家庭問題を支援する立場の方が法令と実務の両面を理解するための情報を提供します。
面会交流とは何か|民法が定める子どもの権利
民法第766条と「子の最善の利益」
民法第766条第1項(e-Gov:民法、最終改正:2024年5月成立・2026年5月施行)は、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と規定しています。
面会交流(英語では”contact right”または”visitation rights”)とは、子どもと別居している親が定期的に子どもと会い、交流する権利・制度です。この制度は「親のための権利」としてではなく、「子どもが双方の親と継続的な関係を持つ権利」として理解することが重要です。
国連子どもの権利条約(1989年採択・日本は1994年批准)第9条第3項は、「父母の一方または双方から分離された子どもが、定期的に父母との人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」と定めています。条約の観点からも、面会交流は親の都合ではなく子どもの利益から考えるべき制度です。
面会交流に含まれる具体的な内容
面会交流の内容は当事者が協議で自由に定めることができます。子どもの年齢・生活状況・父母の関係性などを考慮して具体的に取り決めます。一般的に取り決める主な事項は以下のとおりです。
- 頻度(月1回・月2回・隔週など)
- 一回あたりの時間(日帰り数時間・宿泊を伴うものなど)
- 場所(非監護親の自宅・公共施設・第三者機関など)
- 引き渡し場所と方法(どこで誰が受け渡すか)
- 電話・ビデオ通話の頻度や時間帯
- 誕生日・年中行事・学校行事への参加方法
- 長期休暇中の宿泊面会の扱い
取り決め内容があいまいな場合(「適宜会わせる」「話し合いで決める」など)は、後に紛争化しやすいとされています。時間・場所・頻度を具体的に定めておくことが、トラブル防止の基本です。
養育費との法的な関係
養育費と面会交流はいずれも民法第766条に規定される子の監護に関する事項ですが、法的には独立した義務・権利です。「養育費を払わないから面会交流をさせない」「面会交流に来ないから養育費を払わない」という対抗措置は、法律上認められません。
家庭裁判所の実務でも、養育費と面会交流は切り離して判断されます。ただし、実態として両者の問題が連動するケースが多く、いずれか一方だけでなく双方を視野に入れた対応が求められます。具体的な対応方針については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
面会交流の取り決め方|3方式の比較と手続き
面会交流の取り決めには、大きく3つのルートがあります。以下の比較表で各方式の特徴を確認してください。
| 方式 | 概要 | メリット | デメリット | 強制力 |
|---|---|---|---|---|
| 協議書(私的合意) | 当事者が話し合い書面化 | 費用・時間が少ない | 法的証明力が弱い | なし |
| 公正証書 | 公証役場で作成する公文書 | 証明力が高い | 費用がかかる・手続きが必要 | 限定的 |
| 調停調書 | 家裁調停委員関与の合意 | 確定判決と同一の効力 | 時間・精神的負担が大きい | あり(間接強制の基礎) |
| 審判 | 裁判官が職権で決定 | 合意不要・明確な取り決め | 手続きが長期化する場合も | あり |
離婚協議書・公正証書での取り決め
当事者間の合意がある場合は、離婚協議書として書面化するのが最もシンプルな方法です。私的な合意文書のみでは法的強制力がないため、公証役場で公正証書を作成することで証明力を高める方法が広く用いられています。
ただし、面会交流の公正証書による間接強制には後述するような制約があります。協議が難しい場合は、早期に家庭裁判所の調停を活用することを検討するとよいでしょう。
家庭裁判所の調停手続き
当事者間の話し合いがまとまらない場合、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に「子の監護に関する処分(面会交流)調停」を申し立てることができます。申立費用は収入印紙1,200円と郵便切手代のみです(2026年6月現在)。
調停では、調停委員2名が双方の意向を個別に聴き取り、合意形成を支援します。当事者が直接顔を合わせない形で進行するため、感情的な対立がある場合でも手続きを進めやすい仕組みになっています。家庭裁判所調査官が子どもの意向・生活状況を調査することもあります。
家庭裁判所の審判と判断基準
調停が不成立の場合、自動的に審判に移行します(家事事件手続法第272条第4項)。審判では、裁判官が家庭裁判所調査官の調査報告書をもとに、面会交流の内容を職権で決定します。
審判における判断の基準は「子の最善の利益」です。具体的な考慮要素には、子どもの年齢・意向(10歳前後を目安に子どもの意向が重視される傾向があります)、面会によって子どもに与えうる影響、非監護親の生活環境・監護能力、DV・虐待の有無、同居親と非監護親の協力関係などがあります。
DV・虐待事案における面会交流の特別対応
面会交流の実務で最も慎重な対応が求められるのが、DV(配偶者等に対する暴力)や子どもへの虐待が存在する事案です。子どもや同居親の安全確保と、子どもが非監護親と交流する権利をいかにバランスさせるかは、法的・実践的に難しい問題です。
面会交流の制限・拒絶が認められる主な事情
家庭裁判所が面会交流の制限・拒絶を認める主な事情は以下のとおりとされています(最高裁判所判例・家庭裁判所の実務より)。
- 非監護親による子どもへの直接的な虐待・暴力の事実が認められる場合
- 非監護親によるDVが同居中に繰り返されており、面会交流を通じて同居親への接触・監視・支配が継続する危険がある場合
- 子ども自身が強く面会を拒否しており、強制的な実施が子どもに精神的な悪影響を及ぼすと認められる場合
- 非監護親が面会中に子どもを連れ去る危険が客観的に認められる場合
一方、「面会交流を拒否したい」という同居親の心情的な抵抗だけでは、制限の理由として認められないことが多いとされています。客観的な証拠や事情の提示が必要です。
第三者機関(面会交流支援団体)の活用
DV事案や高葛藤事案では、父母が直接連絡・引き渡しをせずに、第三者機関を介して面会交流を実施する方法があります。これを「面会交流支援」といいます。主なサービス内容は以下のとおりです。
- 引き渡し支援(スタッフが同席して直接の接触を回避)
- 付き添い型支援(スタッフが面会に同席して安全を確保)
- 連絡調整代行(親同士の直接連絡を代替)
公的機関としては、各都道府県の女性相談センター(配偶者暴力相談支援センター)が支援を行うケースもあります。民間の面会交流支援団体も全国に存在しますが、費用・サービス内容はさまざまです。家庭裁判所の審判で「第三者機関を通じた面会交流」が命じられるケースも増加しています。
DV被害者が知っておきたいポイント
DV被害を受けた方が面会交流に対応する際に知っておきたい主なポイントを示します。
配偶者暴力防止法(e-Gov:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律、最終改正:2024年5月施行)に基づく保護命令が発令されている場合、相手方への接触が禁止されるため、面会交流の設定においても保護命令との整合が必要になります。
調停・審判に臨む際、相手方に住所・勤務先を知られたくない場合は「住所秘匿制度」(家事事件手続法第33条)を利用できます。裁判所に申出ることで、相手方への住所等の開示を制限できます。
DV被害の証拠(医療機関の診断書・写真・配偶者暴力相談支援センターへの相談記録など)は、保護命令の申立や調停での立証に活用できます。早期に証拠を保全しておくことが重要です。
※本記事はアフィリエイトリンクを含みます(PR)
面会交流・親権・養育費などの家族法全体を体系的に学びたい方には、家族法の専門書が参考になります。
二宮周平「家族法 第5版」(新世社)は、離婚後の親権・面会交流・養育費など家族法の各論点を体系的に解説した代表的な法学テキストです。
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
面会交流をめぐる法制度は、2007年以降に大きく変化しました。主な改正を以下に示します。
2011年民法改正では、民法第766条に面会交流の取り決めを明文化し、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」という文言が追加されました。それ以前は条文に明記されておらず、解釈・運用に委ねられていた部分が大きかったのです。
2013年家事事件手続法の全面施行により、面会交流に関する調停・審判手続きが整備されました。家庭裁判所調査官による子どもへの意見聴取手続きが標準化されたことも大きな変化です。
2019年DV防止法改正では、精神的暴力を含む保護命令の対象範囲が整理され(第10条第1項)、DV被害者の保護強化が図られました。面会交流をめぐるDV事案の対応にも影響を与えています。
2024年民法改正(2026年5月施行)では、離婚後の共同親権制度の導入とともに、面会交流をめぐる条文も整備されました(詳細は次節参照)。子の最善の利益を考慮した判断の明確化が進みました。
議論の現在地
2026年時点における面会交流をめぐる主な議論の焦点を示します。
面会交流「原則実施」をめぐる賛否両論
家庭裁判所の実務では「面会交流は子の最善の利益になる」という前提のもとで、原則として面会を実施する方向で判断する傾向が続いています。これに対し、支持する意見と反対する意見の双方があります。
支持する側は、発達心理学の研究(子どもが両親双方と継続的な関係を持つことが情緒的安定に資するとする研究)や国際的な動向(欧米諸国における共同養育の普及)を根拠として示しています。
反対する意見は主にDV被害者支援の観点から提起されています。「加害者が面会交流を口実として、被害者とその子どもへの支配・接触を継続している」「裁判所がDVの実態を十分に把握せずに面会交流を命じるケースがある」という指摘です。国内の配偶者暴力相談支援センターや弁護士会もこの問題を重要な課題として提起しています。
ハーグ条約(国際的な子の奪取)との関係
日本は2014年にハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関するハーグ条約)を批准しました。国際離婚・国際的な親権争いが生じた場合、面会交流の取り決めが国際法上の問題とも連動します。日本の家庭裁判所が国内法に基づいて判断を下しても、外国の裁判所との見解が一致しない事案もあり、実務上の課題となっています。
残された課題
面会交流不履行への実効的な対策: 審判・調停で取り決めがなされても実施されないケースが多く、間接強制の限界が指摘されています。欧米では「コンプライアンス・オーダー」「親教育プログラム」など多様な対応策が用いられており、日本での導入を求める声があります。
面会交流支援体制の全国展開: 第三者機関(支援団体)が不足している地域があり、支援の質・費用についての基準整備が求められています。公的支援の拡充を求める議論が続いています。
DV判断の精緻化: 面会交流の「原則実施」とDV被害者保護のバランスをどう図るか、司法・立法・研究の各分野で検討が続いています。裁判所のDV識別能力の向上や、DV被害者への情報提供の充実が課題とされています。
子どもの意見表明の実質化: 国連子どもの権利条約第12条に定める子どもの意見表明権を、家事手続きの中でどう実質的に確保するかが問われています。年齢・成熟度に応じた柔軟な対応が求められています。
2024年民法改正が面会交流に与える影響
共同親権制度の導入と面会交流の関係
2024年5月に成立し2026年5月に施行された「民法等の一部を改正する法律」により、日本に初めて離婚後の共同親権制度が導入されました。従来は離婚後いずれか一方の親が単独で親権を持つ仕組みでしたが、改正後は父母の協議または家庭裁判所の判断により共同親権を選択することが可能になりました(e-Gov:民法第819条)。
共同親権と面会交流は別の制度です。以下で整理します。
- 面会交流:非監護親が子どもと実際に会い、交流する実態的な制度(民法第766条)
- 共同親権:離婚後も父母双方が親権(法律的な決定権)を保持する制度(民法第819条)
共同親権を選択した場合でも、子どもの日常生活は主に同居親が担うため、面会交流の具体的な取り決めは引き続き必要です。重大な事項(進学・医療等)については共同決定が原則となりますが、日常的な事項については同居親が単独で決定できる範囲が確保されています。
なお、DV・虐待が認められる事案では、裁判所が単独親権を決定できる規定も設けられています(民法第819条第7項)。共同親権の制度趣旨はあくまで子どもの最善の利益であり、一方の親から他方の親への支配・暴力の継続手段となることは想定されていません。
施行後の実務対応
2026年5月以降に離婚を行う場合、親権の選択(単独か共同か)が新たな論点として加わりました。面会交流の実務においては、共同親権のもとで子どもの重要事項に関する決定の際に双方の親が協議する機会が増える可能性があります。
双方の親が連絡を取り合う機会が増えるため、高葛藤事案やDV事案では第三者機関の利用がより一層重要になると考えられます。2026年施行直後は法的解釈・実務運用が定まっていない部分もあり、弁護士などの専門家への相談が特に有益です。
面会交流が実施されない場合の対処法
履行勧告の申立
家庭裁判所の調停・審判で面会交流の取り決めがなされたにもかかわらず、相手方が実施しない場合、家庭裁判所に「履行勧告」を申し立てることができます(家事事件手続法第289条)。
履行勧告は、裁判所から相手方に「取り決め内容を守るよう」促す手続きです。法的な強制力はありませんが、費用が不要(収入印紙・郵便切手等が不要)であり手続きが簡便なため、最初に活用される手段として有効です。
間接強制の申立
履行勧告でも改善されない場合、家庭裁判所に「間接強制」を申し立てる方法があります(民事執行法第172条)。間接強制とは、義務を履行しない相手方に対して、不履行1回につき一定額の金銭の支払いを命じる制度です。
ただし、最高裁判所は2014年(最高裁平成25年(許)第47号・48号決定)に、「面会交流の調停・審判において、子どもを引き渡すべき時間・場所・方法が具体的に特定されている場合に限り間接強制が認められる」と判示しています。取り決め内容が具体的でない場合(「月1回会わせる」程度の記載)では間接強制の申立が認められない場合があります。
調停の再申立と取り決めの変更
当初の取り決めが実情に合わなくなった場合や、子どもの年齢・意向・生活状況が変化した場合は、改めて家庭裁判所に調停を申し立てて取り決めを変更することができます(家事事件手続法第171条)。子どもの成長に応じて面会の頻度・方法・内容を見直すことは、子どもの最善の利益の観点から重要です。小学校低学年と中学生では、子どもの意向・生活スケジュールも大きく異なります。
相談窓口・サポート機関
面会交流に関する問題は、法的・心理的・支援的な側面が重なり合います。状況に応じて以下の窓口を活用してください。
DV被害者のための相談窓口
配偶者暴力相談支援センター(各都道府県設置)
DV被害の相談・一時保護・情報提供を行います。内閣府男女共同参画局のウェブサイト(https://www.gender.go.jp/)から各都道府県の窓口を確認できます。DV事案での面会交流についても相談が可能です。
DV相談ナビ #8008(全国共通短縮ダイヤル、各都道府県の配偶者暴力相談支援センターにつながります)
法律相談窓口
法テラス(日本司法支援センター)
電話番号:0570-078374(平日9時~21時・土曜9時~17時)
経済的に余裕のない方への法律相談や弁護士費用の立替制度があります。面会交流・養育費・離婚に関する法的相談に対応しています。弁護士へのアクセスの出発点として利用できます。
各地の弁護士会法律相談センター
法務省の情報サービス(https://www.moj.go.jp/)から各地の弁護士会・法律相談センターを確認できます。具体的な事案については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
※本記事はアフィリエイトリンクを含みます(PR)
離婚後の子育て・面会交流・養育費についての実務的な理解を深めるために、以下の書籍が参考になります。
「子どもの権利条約コンメンタール」(日本評論社)は、国連子どもの権利条約の各条文を専門家が詳細に解説した資料として位置づけられています。面会交流の根拠となる第9条を学ぶ際の参考文献の一つです。
まとめ
面会交流は、離婚・別居後も子どもが両親双方と継続的な関係を持つための重要な制度です。民法第766条に根拠を持ち、2011年の明文化・2024年の民法改正(共同親権導入)を経て、その位置づけが変化してきました。
取り決め方は協議・調停・審判の3方式があり、それぞれ証明力と強制力が異なります。DV・虐待事案では、面会交流の制限や第三者機関の活用、住所秘匿制度や保護命令との組み合わせによる慎重な対応が求められます。
面会交流が守られない場合は、履行勧告・間接強制・調停の再申立という段階的な手続きがあります。子どもの成長とともに取り決めの見直しが必要になることも少なくありません。
2026年時点では、「面会交流の原則実施とDV被害者保護のバランス」「共同親権導入後の実務対応」「支援体制の全国的な整備」が主な課題として残っています。具体的な事案については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
