男女共同参画社会基本法は、1999年6月の制定以来、日本の男女共同参画政策の根幹を支えてきた法律です。2026年4月1日、令和7年法律第80号によって同法に3つの新条文が加わりました。第10条の2(独立行政法人男女共同参画機構の役割)、第18条の2(人材の確保等)、第18条の3(調査研究)の新設です。
これまで同法は、国・地方公共団体・国民の責務と基本計画の枠組みを定めながらも、政策を実行する「実施機関」や「知識基盤」の整備については、基本法上の根拠が明示されていませんでした。今回の改正は、男女共同参画を推進するための体制と科学的根拠の整備を法律レベルで明確に位置づけた点で、制定以来の重要な構造的強化といえます。
2026年3月13日には第6次男女共同参画基本計画が閣議決定され、2030年を見通した成果目標と施策の基本方向が示されました。推進体制の法的整備と計画の全面刷新が同時期に重なったこの時期は、日本の男女共同参画政策が新たな段階に入った節目として位置づけることができます。
本記事では、2026年改正によって新設された3条文の意義、改正前後の法律構成の変化、第6次基本計画との関係を詳しく解説します。男女共同参画政策に関わる自治体職員・企業の人事担当者・法律の仕組みを体系的に学びたい方を主な対象としています。

男女共同参画社会基本法の構造と推進体制の位置づけ
基本法が定める枠組みの全体像
男女共同参画社会基本法(e-Gov法令検索)は、第1条から第28条までで構成されています。大きく分けると、①目的・定義・基本理念(第1条~第7条)、②国・地方公共団体・国民の責務(第8条~第10条)、③施策の基本的方向(第11条~第20条)、④男女共同参画会議(第21条~第28条)の4部構成です。
政策の実施に直接関わる条文としては、国の責務を定める第8条、地方公共団体の責務を定める第9条(第1項のみ)、国民の責務を定める第10条が基盤を担います。計画策定の根拠は第13条(男女共同参画基本計画)と第14条(都道府県男女共同参画計画等)で、年次報告書いわゆる男女共同参画白書の根拠条文は第12条です。さらに第18条は「連携及び協働の促進」、第19条は「地方公共団体及び民間の団体に対する支援」を定めており、実施体制の基礎を形成してきました。
改正前の課題と不足点
こうした骨格がある一方で、2026年改正以前の法律には明示されていない要素がありました。男女共同参画の推進を担う独立行政法人の役割、推進に必要な人材をどう確保・育成するか、そして政策の科学的根拠となる調査研究をどう位置づけるか、という3点です。
独立行政法人のかたちで男女共同参画に関わる研究・研修・相談支援等を担う機関は実際に存在していましたが、その役割が男女共同参画社会基本法という基本法の条文に明記されてはいませんでした。人材育成と調査研究についても、それぞれが個別の施策として運用されてきたものの、基本法の条文に直接示された根拠はありませんでした。「設計図」となる理念・責務・計画は法律に刻まれていても、それを実行する「現場の体制」は個別の行政組織法・予算・告示に委ねられていた構造といえます。
令和7年法律第80号による改正の概要
2026年4月1日に施行された令和7年法律第80号は、男女共同参画社会基本法に3つの新条文を加えました。
- 第10条の2:独立行政法人男女共同参画機構の役割
- 第18条の2:人材の確保等
- 第18条の3:調査研究
第10条の2は、第8条(国の責務)・第9条(地方公共団体の責務)・第10条(国民の責務)という責務規定の流れを受け、独立行政法人が法の実施体制において果たす役割を明確化した条文です。第18条の2と第18条の3は、第18条(連携及び協働の促進)と第19条(地方公共団体及び民間の団体に対する支援)の間に置かれ、施策の基本的方向の章の中で人材と知識の基盤整備を法律に刻んだものです。各条文の詳細は e-Gov法令検索 でご確認ください。
新設第10条の2|独立行政法人男女共同参画機構の役割
条文新設の意義
男女共同参画社会基本法は「理念法(りねんほう)」として、抽象度の高い基本理念と責務・計画を定める法律です。具体的な施策実施は政府の予算・行政組織・個別法によって担われてきました。そのため、どの組織が何を担うかは、基本法よりも内閣府設置法・独立行政法人通則法・個別組織法のレベルで規律されていました。
第10条の2は、この関係に変化をもたらします。独立行政法人の役割が男女共同参画社会基本法の条文に明記されることで、その機関の業務が「基本法に基づく実施体制の一環」として法律上の根拠を持つことになりました。基本法の条文に位置づけられることは、施策の安定性・継続性・予算配分の観点からも意味があります。
独立行政法人を基本法に位置づける意味
日本には「独立行政法人(どくりつぎょうせいほうじん)」という形態で運営される公的機関が数多く存在しています。独立行政法人は国と民間の中間に位置し、特定の政策領域の専門的業務を担います。男女共同参画分野においても、研究・研修・相談支援・情報収集といった業務を担う法人が設けられてきました。
こうした機関の役割が基本法に明記されることで、①その業務が基本法の目的の実現に直接資するものであることが法律上から明確になり、②国や地方公共団体との連携・役割分担の根拠が基本法の条文レベルで担保されます。これは、政権交代や行政改革の影響を受けやすい独立行政法人の業務に対して、一定の安定性をもたらす効果が期待されます。
国・地方公共団体との連携の法的根拠
第10条の2は、第8条(国の責務)・第9条(地方公共団体の責務)・第10条(国民の責務)と連動します。国が推進するべき施策の一環として独立行政法人が位置づけられることで、国と機構、機構と地方公共団体、さらには機構と民間団体との連携についても、基本法に根拠を持つかたちで展開できます。
第19条(地方公共団体及び民間の団体に対する支援)と組み合わせることで、独立行政法人が都道府県・市区町村の男女共同参画センターや民間団体との連携拠点として機能するための法的な枠組みが整います。条文の詳細は e-Gov法令検索 でご確認ください。
新設第18条の2・第18条の3|人材の確保と調査研究
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第18条の2「人材の確保等」とは
男女共同参画社会基本法の目的を実現するためには、政策を立案・実施できる人材が不可欠です。自治体の男女共同参画推進員、相談員(DV相談・ハラスメント相談等)、企業の人事・ダイバーシティ担当者、NPO・市民活動の担い手など、推進の現場を支える多様な人材が求められます。
第18条の2「人材の確保等」は、こうした推進人材の確保・育成を、男女共同参画社会基本法の条文として明確に位置づけた条文です。これまで人材育成は個別の研修事業・補助金・都道府県条例等によって行われてきましたが、基本法に根拠が加わることで、国が人材確保を施策として体系的に推進する法的根拠が整います。
地方の男女共同参画センターでは相談員の確保に苦労している事例が少なくありません。第18条の2は、こうした現場の課題に対して基本法レベルで応答する性格を持ちます。条文の詳細は e-Gov法令検索 でご確認ください。
第18条の3「調査研究」とは
政策の効果を正確に把握し、改善につなげるためには、実態に関するデータと研究の蓄積が不可欠です。第18条の3「調査研究」は、男女共同参画の推進に関わる調査・研究を基本法の施策事項として明記した条文です。
調査研究の対象としては、①ジェンダーギャップの実態把握(雇用・賃金・政治参画・教育等)、②施策の効果測定と評価、③国際比較研究、④当事者の経験や意識に関する調査などが考えられます。これらを継続的・体系的に実施することで、政策の科学的根拠(エビデンス)を積み上げる基盤が整います。
特に、賃金格差・管理職比率・育児休業取得率といった指標の測定と公表は、女性活躍推進法の改正(令和7年法律第63号、2026年4月1日施行)と連動しており、法律間の体系的な整合が図られています。
EBPMとの接続-データで政策を変える法的基盤
EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)とは、感覚や慣習ではなく、統計データや研究成果に基づいて政策を設計・評価する考え方です。男女共同参画分野においても、「女性管理職の割合は実際どれくらいか」「育児休業取得率はどう変化してきたか」「施策を講じた自治体と講じていない自治体で結果に差があるか」といった問いに、データで答えることが求められます。
第18条の3は、こうしたEBPMの実践を支える調査研究の実施を基本法に根拠づけるものです。内閣府男女共同参画局が毎年公表する男女共同参画白書(第12条が根拠)と連動させることで、データの収集から政策立案・評価・改善までのサイクルを法律に根拠を持つかたちで回す仕組みが整います。最新の統計データは内閣府男女共同参画局の公式サイト(https://www.gender.go.jp/)でご確認ください。
改正前後の法律構成の比較
条文構成の変化
| 条番号 | 見出し(改正前) | 見出し(改正後:2026年4月1日施行) |
|---|---|---|
| 第8条 | 国の責務 | 国の責務(不変) |
| 第9条 | 地方公共団体の責務 | 地方公共団体の責務(不変) |
| 第10条 | 国民の責務 | 国民の責務(不変) |
| 第10条の2 | (なし) | 独立行政法人男女共同参画機構の役割(新設) |
| 第18条 | 連携及び協働の促進 | 連携及び協働の促進(不変) |
| 第18条の2 | (なし) | 人材の確保等(新設) |
| 第18条の3 | (なし) | 調査研究(新設) |
| 第19条 | 地方公共団体及び民間の団体に対する支援 | 地方公共団体及び民間の団体に対する支援(不変) |
改正後の法律の論理構造
今回の改正により、男女共同参画社会基本法の施策部分(第11条以降)には、①実施機関(独立行政法人:第10条の2)、②人材基盤(第18条の2)、③知識基盤(第18条の3)という3つの「実施インフラ」が法律上の根拠を持つ構造が加わりました。
改正前は、基本理念・責務・計画・推進会議という「設計図」は整っていたものの、それを実行する現場の体制については個別の行政組織法・予算・告示に委ねられていました。改正後は、基本法そのものが「設計図」だけでなく「実施の法的根拠」も含む構造に近づいたといえます。
第6次男女共同参画基本計画との関係
第6次男女共同参画基本計画(2026年3月13日閣議決定。根拠条文:第13条)は、2030年を見通した成果目標と8分野の施策の方向性を定めています。今回の法改正はこの計画と同時期に実施されており、計画と法律の整合が意図的に図られています。
計画が定める成果目標を達成するためには、目標の設定だけでなく、推進を担う機関(第10条の2)、人材(第18条の2)、根拠データ(第18条の3)の3点が揃う必要があります。改正はこの三要素を基本法上に根拠づけたという意味で、第6次計画の実施体制を法律から支えるものといえます。
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
- 2021年6月16日:政治分野における男女共同参画の推進に関する法律が改正・施行。第9条(性的な言動等に起因する問題への対応)が新設された。
- 2022年4月1日:女性活躍推進法の改正により、一般事業主行動計画の策定・届出義務と情報公表義務が常時雇用する労働者100人を超える企業へ拡大(同法第8条第1項・第20条)。
- 2023年6月23日:LGBT理解増進法(令和5年法律第68号)が公布・施行。性的指向(第2条第1項)・ジェンダーアイデンティティ(第2条第2項)の理解増進が定められた。
- 2026年3月13日:第6次男女共同参画基本計画が閣議決定。根拠条文は男女共同参画社会基本法第13条(男女共同参画基本計画)。2030年を見通した成果目標が設定された。
- 2026年4月1日:男女共同参画社会基本法の改正(令和7年法律第80号)。第10条の2・第18条の2・第18条の3が新設された。
- 2026年4月1日:女性活躍推進法の改正(令和7年法律第63号)により、常時雇用する労働者100人を超える企業に対し、男女の賃金の差異(同法第20条第1項第1号)と女性管理職比率(同法第20条第1項第2号)の公表が義務化された。
議論の現在地
2026年の法改正に対しては、推進する立場とより多くの改革を求める立場の両面から評価が示されています。
推進を評価する立場からは、独立行政法人の役割・人材育成・調査研究という「推進のインフラ」が基本法に明記されたことで、政権や予算の変動に左右されにくい安定した実施体制の法的根拠が整ったとする意見があります。第6次基本計画との同期も、計画と実施体制の一体化として評価されています。
一方、さらなる改革を求める立場からは、改正が「実施体制の整備」にとどまり、基本法の規範性そのものの強化には至っていないという指摘があります。男女共同参画社会基本法は引き続き理念法であり、差別的慣行を直接禁止する規定や、企業・自治体に対する強制的な措置義務を持っていません。法律に書き込まれた「人材の確保」や「調査研究」も、予算措置と具体的な指標設定が伴わなければ実効性は限定的だという批判もあります。
2025年6月12日発表のGlobal Gender Gap Report 2025において、日本は148か国中118位(スコア0.666)に位置しています。推進体制の強化が実際の格差縮小にどう結びつくかが、今後の評価軸の一つになります。
残された課題
今回の改正でも手がつかなかった論点として、以下が挙げられます。
第一に、第14条の問題があります。同条は都道府県に対して男女共同参画計画の策定を義務づけていますが(第1項)、市町村については努力義務にとどまっています(第3項)。全国に1,700以上ある市区町村の計画策定率には地域間格差があり、この格差の解消は引き続き課題です。
第二に、推進体制の財政基盤の問題があります。独立行政法人の役割が法律に明記されても、それを支える予算・人員・施設が確保されなければ、法的根拠は空文化する恐れがあります。特に地方の男女共同参画センターは財政難を背景に機能縮小を余儀なくされているケースもあり、財政措置の問題は実務上の大きな課題です。
第三に、第17条(苦情の処理等)の実効性の問題があります。同条は国が苦情の適切な処理のために必要な措置を講ずることを定めていますが、義務主体は「国」のみです。自治体レベルの苦情処理は各自治体の条例に委ねられており、その対応水準にばらつきがあります。
相談窓口・参考情報
男女共同参画に関する公的相談窓口
- 内閣府男女共同参画局: 政策・法律に関する公式情報を提供しています。https://www.gender.go.jp/
- DV相談ナビ(#8008): 配偶者や交際相手からの暴力に関する相談窓口を案内する全国共通番号です。
- 法テラス(日本司法支援センター): 法律に関する情報提供と弁護士・司法書士等の紹介を行います。https://www.houterasu.or.jp/(電話: 0570-078374)
具体的な事案については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
まとめ|2026年改正が指し示す方向性
実施体制を法律に刻む意義
2026年4月1日に施行された令和7年法律第80号による男女共同参画社会基本法の改正は、独立行政法人の役割(第10条の2)・人材の確保等(第18条の2)・調査研究(第18条の3)という3条文の新設により、基本法の「実施インフラ」を法律上に根拠づけた改正です。
基本法は目的・基本理念・責務・計画・推進会議という枠組みを定める「設計図」として機能してきました。今回の改正はこの設計図の実行を支える機構・人材・知識の3要素を法律レベルで明示したものです。第6次男女共同参画基本計画(2026年3月13日閣議決定)と連動することで、目標から実施体制・評価サイクルまでの連鎖が法律と計画の両面から支えられる構造になりつつあります。
今後の学びのために
男女共同参画社会基本法の全体像と基本理念を改めて確認したい方は、同法の概要を解説した記事をあわせてご参照ください。第6次基本計画の成果目標については別記事で詳説しています。最新の法令条文は e-Gov法令検索 でご確認ください。
関連記事
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- EBPM(証拠に基づく政策立案)と男女共同参画統計|データで政策を変える仕組みと2026年の現状
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よくある質問(FAQ)
- Q. 2026年の男女共同参画社会基本法改正で何が変わりましたか?
- 令和7年法律第80号(2026年4月1日施行)により、第10条の2(独立行政法人男女共同参画機構の役割)、第18条の2(人材の確保等)、第18条の3(調査研究)の3条文が新設されました。推進体制の実施機関・人材・知識基盤を基本法レベルで明確化した改正です。
- Q. 「独立行政法人男女共同参画機構」とはどのような機関ですか?
- 第10条の2に定められた独立行政法人で、男女共同参画の推進に関わる研究・研修・相談支援・情報収集等を担う機関です。詳細な役割・業務内容は e-Gov法令検索 の条文でご確認ください。
- Q. 第6次男女共同参画基本計画はいつ決定されましたか?
- 令和8(2026)年3月13日に閣議決定されました。根拠条文は男女共同参画社会基本法第13条(男女共同参画基本計画)です。2030年を見通した成果目標が示されており、今回の法改正と同時期に施策の法的根拠と計画目標が整備されました。
- Q. 今回の改正で、企業や自治体への義務は変わりましたか?
- 令和7年法律第80号による男女共同参画社会基本法の改正は、推進体制・人材・調査研究に関する条文の新設であり、企業・自治体に直接新たな義務を課す改正ではありません。企業への情報公表義務拡大は、同日施行された女性活躍推進法の改正(令和7年法律第63号)によるものです。
- Q. 男女共同参画社会基本法における苦情処理の仕組みはどうなっていますか?
- 第17条が「苦情の処理等」を定めており、国が苦情の適切な処理のために必要な措置を講ずることとされています。ただし、義務主体は「国」のみです。自治体レベルの対応は第9条(地方公共団体の責務)を受けた各自治体の条例・施策によります。
