養子縁組(ようしえんぐみ)とは、民法が定める手続きによって、血縁上のつながりがなくても法律上の親子関係を創設できる制度です。出生によって生まれる実親子関係とは別に、当事者の意思表示と法定の手続きを通じて、扶養義務・相続権・親権・氏(苗字)の変更などが生じます。子どもを産む以外の方法で親子となる選択肢として、また虐待やネグレクトなどによって実親の養育が困難な要保護状態の子どもに安定した家庭環境を提供する手段として、養子縁組制度は重要な役割を担ってきました。
日本には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2類型があり、目的・要件・手続き・効果のすべてが異なります。2019年には民法が改正され、特別養子縁組の対象年齢が引き上げられました。また、2026年4月1日に施行された離婚後の共同親権制度(民法第824条の2)の導入により、家族法の枠組み全体が変化する転換期を迎えています。
この記事では、普通養子縁組と特別養子縁組の仕組みを比較整理したうえで、養子縁組にまつわるジェンダー平等の視点、LGBTQ+家族との関係、「出自を知る権利」など2026年時点の現代的論点を解説します。養子縁組を検討している方、法制度の全体像を把握したい支援者・人事担当者・学習者に向けた解説記事です。

養子縁組とは|定義・法的効果・2類型の概要
実親子関係と養親子関係の違い
実親子関係は、出生という事実によって自動的に成立します。嫡出子の親子関係(嫡出推定)については別記事「嫡出推定とは|2024年施行の民法改正・父子関係の認定と女性の権利」も参照してください。
養親子関係は、当事者の意思表示と法律が定める手続きを経て形成される点が実親子関係と根本的に異なります。縁組が成立すると、養子は養親の「子」としての法的地位を取得し、相続権・扶養請求権・親権など実子と同等の権利義務が発生します。養子は原則として養親の氏を称することになり、戸籍上の記載も変更されます。縁組に伴う個別の権利義務の詳細は、e-Gov法令検索(民法)の親族編でご確認ください。
養子縁組が持つ2つの機能
養子縁組制度は、大きく分けて2つの社会的機能を果たしてきました。第1は「家の継承・扶養の確保」という伝統的機能です。後継者の確保、老後の扶養、相続対策、事業継承、名跡の存続などを目的として、成人同士の養子縁組も含め広く利用されてきました。第2は「要保護児童への家庭的養育の提供」という現代的機能です。虐待・ネグレクト・育児放棄などの事情で実親による養育が困難な子どもに、安定した家庭環境を提供することを目的としています。
前者に対応するのが「普通養子縁組」、後者を主たる目的として設計されたのが「特別養子縁組」です。この2つは同じ「養子縁組」という名称でも、制度の目的から成立要件・効果まで大きく異なります。
子どもの権利条約と養子縁組政策
日本が1994年に批准した子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)は、すべての子どもが家庭的環境の中で成長する権利を有することを定めています。この観点から、施設養護よりも里親・養子縁組による家庭的養育を優先する方向への政策転換が進んでいます。厚生労働省の「新しい社会的養育ビジョン」(2017年)でも、特に乳幼児は家庭養育を原則とする方針が示されました。養子縁組制度の現代化は、こうした国際的・国内的な子どもの権利保障の流れの中に位置づけられます。
普通養子縁組の仕組み
成立要件と手続きの概要
普通養子縁組は、養親と養子(または養子の法定代理人)が合意のうえで縁組届を市区町村に提出することで成立します。婚姻届と同様に届出制であり、家庭裁判所の関与なしに成立するのが基本的な形です。ただし未成年者(20歳未満。民法上の成年年齢は2022年4月1日以降18歳)を養子とする場合は、一定の例外(配偶者の子を養子とする場合など)を除いて家庭裁判所の許可が必要です。
成立に必要な具体的な要件(養親と養子それぞれの年齢要件、代諾の必要性、家庭裁判所の許可が必要なケースと不要なケースの区分など)の詳細は、e-Gov法令検索(民法)でご確認ください。
縁組後の法的効果と実親との関係
普通養子縁組が成立すると、養子は養親の相続人となり、養親は養子に対する扶養義務を負います。養子は養親の氏を称するのが原則ですが、婚姻によって既に氏が変わっている場合など、例外的な扱いが生じるケースもあります。
普通養子縁組の重要な特徴は、縁組後も実親との法的関係が存続することです。実親の相続権も養子に残るため、養子は養親と実親の双方の相続人となり得ます。相続の際に複雑な関係が生じる可能性がある点は、制度を利用する際に把握しておくべき事項です。扶養義務についても同様に、養子は養親と実親の双方に対して扶養義務を負う場合があります。扶養義務全般については「扶養義務とは|民法が定める家族の支え合いとジェンダー格差」も参照してください。
離縁(縁組の解消)の可能性
普通養子縁組では、当事者双方の合意による「協議離縁」が認められています。合意に至らない場合は、家庭裁判所への調停申立て・審判申立てによって解消を求めることが可能です。離縁が成立すると、縁組前の状態に戻り、実親との関係が通常の状態に回復します。
未成年者の離縁には家庭裁判所の許可が必要とされる場合があります。また離縁後の養子の氏の扱いなど、詳細な規定についてはe-Gov法令検索(民法)をご参照ください。
成人の養子縁組と相続対策の現状
普通養子縁組は成人同士の間でも成立します。相続税対策として孫を養子にするケースや、事業後継者を養子として迎えるケースなど、成人の養子縁組は現代社会でも一定数行われています。ただし、節税目的と思われる養子縁組については、相続税法上の法定相続人の算定に制限が設けられており、すべての養子が節税効果を発揮するわけではありません。このような民事・税務の交差する問題については、専門家への相談をお勧めします。
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特別養子縁組の仕組み
特別養子縁組の目的と普通養子縁組との決定的な違い
特別養子縁組は、虐待・ネグレクト・育児放棄などの事情で実親による養育が困難な要保護状態の子どもに、安定した家庭環境を提供することを主な目的として、1988年(昭和63年)に新設された制度です。
最大の特徴は、縁組成立によって実親との法的親子関係が原則として終了することです。養子は養親の戸籍に「長男・長女」等として記載され、外見上は実子と同じ扱いとなります。実親の相続権は縁組後に原則として失われ、養子と実親の間の扶養義務も基本的に消滅します。これにより、子どもは新しい家族の中で安定したアイデンティティを持って成長できる環境が整えられます。
養親の要件と現行法の制限
現行法では、特別養子縁組の養親は婚姻している夫婦でなければならないとされています。また、養親となる夫婦のうち少なくとも一方は一定の年齢に達していることが必要です。具体的な年齢要件はe-Gov法令検索(民法)でご確認ください。
「婚姻した夫婦」に養親を限定するこの要件は、事実婚カップルやLGBTQ+カップルを制度から排除する効果を持ちます。この点は後述する現代的論点の核心となっています。
手続き・試験養育期間・離縁の原則禁止
特別養子縁組の成立は、養親となる者が家庭裁判所に申立てを行うことから始まります。2019年の民法改正後は、児童相談所長も一定の条件のもとで申立権者となれるようになりました。
申立てを受けた家庭裁判所は、原則として6ヶ月以上の試験養育期間を設け、養育の実態・子の状況・子の利益への適合性を確認したうえで審判を行います。審判が確定することで縁組が成立します。
特別養子縁組は原則として離縁(解消)ができません。これは実親との関係が断ち切られることを前提とする制度設計によるものです。ただし、養親による虐待など特別の事情がある場合に例外的に離縁を認める規定が設けられています。詳細はe-Gov法令検索(民法)をご参照ください。
普通養子縁組と特別養子縁組の比較
2つの制度の主な違いを以下の比較表で整理します。どちらを選択するかは目的・状況によって異なります。
| 比較項目 | 普通養子縁組 | 特別養子縁組 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 相続・事業継承・名跡存続・子の扶養など | 要保護状態の子どもへの安定した家庭的養育の提供 |
| 養親の要件 | 法定要件を満たす者(個人でも可) | 婚姻している夫婦(法定年齢要件あり) |
| 養子の年齢 | 養親より年少であることが基本(制限なし) | 原則として15歳未満(2019年改正後) |
| 実親との法的関係 | 縁組後も存続(実親の相続権が養子に残る) | 縁組成立により原則として終了 |
| 成立手続き | 市区町村への届出(未成年者は原則として家裁許可も必要) | 家庭裁判所の審判(試験養育期間あり) |
| 離縁(解消) | 協議または家庭裁判所の審判・調停で可能 | 原則として不可(特別の事情がある場合のみ例外) |
| 戸籍の記載 | 「養子(養女)」と記載 | 「長男・長女」等(実子と同様の記載) |
| 実親の相続権 | 養子に残る | 縁組成立後は原則として失われる |
| 家庭裁判所の関与 | 未成年養子の場合は原則として必要(例外あり) | 必須(申立てから審判まで全過程) |
(出典:民法の規定に基づく整理。詳細はe-Gov法令検索(民法)でご確認ください)
上表から明らかなとおり、特別養子縁組は家庭裁判所が関与する厳格な手続きを経て成立する一方、子どもの法的立場を実子と同等に近づける効果があります。要保護状態の子どもへの家庭的養育という目的に特化した制度設計といえます。
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
養子縁組制度と関連する主な法改正として、以下の動きがありました。
2019年に民法の特別養子縁組に関する規定が改正され(2020年施行)、養子の年齢要件の引き上げと申立手続きの整備が行われました。この改正は、長期施設入所児童が年齢要件によって制度から排除されるという課題に対応したものです。施行後は従来よりも多くの子どもが特別養子縁組の対象となり得るようになりました。
2022年成立のこども基本法は、すべての子どもの最善の利益を社会全体で実現することを基本理念として掲げており、養子縁組政策の根拠法令のひとつとなっています。
2024年には民法が改正され、離婚後の共同親権を認める規定(民法第824条の2)が創設され、2026年4月1日に施行されています。この改正は養子縁組制度に直接関わるものではありませんが、親権・子の養育に関する法的枠組み全体に影響を与えており、養子縁組後の家族形態にも間接的な関連があります。
法令改正の最新情報はe-Gov法令検索でご確認ください。
議論の現在地
出自を知る権利の問題
特別養子縁組が成立した養子は、成長の過程で自分の生物学的出自を知りたいと思う場合があります。自分の生物学的親は誰か、どのような経緯で特別養子縁組に至ったのかという疑問は、アイデンティティ形成において重要な問いです。しかし現行の日本法には、養子が実親の情報を法的に請求できる明確な規定が整備されていません。
支援団体や当事者からは、出自情報へのアクセス権を法律で保障するよう求める声が上がっています。一方で、実親のプライバシー・実親の事情(性犯罪被害によって生まれた子の場合など)との調整が複雑であり、単純な情報開示では解決しない側面もあります。欧州では養子の出自情報へのアクセス権を法律で保障している国があり、日本との制度的差異が比較法学的な議論の材料となっています。
LGBTQ+家族と特別養子縁組の壁
現行法では特別養子縁組の養親は「婚姻している夫婦」に限定されています。同性カップルは現行法上婚姻できないため、特別養子縁組の養親となることができません。事実婚カップルも同様です。LGBTQ+当事者や支援者からは、要件の見直しを求める意見が継続的に表明されています。
一方、子の利益の観点から安定した婚姻関係を要件とすることに合理性があるという意見も根強く、賛否両論が展開されています。国際的には、同性カップルの養子縁組を認める国が欧米を中心に増加しており、日本の現行要件との対比が論点となっています。LGBTQ+と家族形成の論点については「LGBTQ+と家族形成|里親・特別養子縁組・生殖補助医療と2026年の法的課題」も参照してください。
里親制度と特別養子縁組の連続性
日本では里親委託制度と特別養子縁組は法律上別々の制度として位置づけられています。里親として子どもを養育しながら、その後特別養子縁組へ移行するケースもありますが、制度間の移行が必ずしもスムーズではないという指摘があります。子どもの継続的な養育環境を確保する観点から、制度間の連携を強化すべきという声が支援現場から上がっています。
残された課題
支援体制の地域格差
特別養子縁組の年間成立件数および里親委託率は都道府県によって大きな差があります。養子縁組あっせん機関(厚生労働省の許可を受けた民間機関)の分布にも偏りがあり、地方では支援を受けにくい環境が続いています。行政・司法・民間の連携強化が急務です。
縁組後のアフターサポートの充実
縁組成立後も、養子のアイデンティティ形成・出自をめぐる問い・思春期の心理的葛藤などに継続的なサポートが必要となるケースがあります。縁組後の家族への公的支援は現状では十分とは言えず、当事者コミュニティや民間支援団体が主な役割を担っています。養子縁組家族専門の相談体制や支援プログラムの整備が求められています。
ジェンダー平等の観点からの課題
養子縁組においても、育児の主担者が女性(養母)に偏りがちという一般的な家庭と同様の傾向があります。養親が育児と就労を両立できるよう、保育サービスへのアクセス・育児休業の取得・フレキシブルな働き方の確保が重要です。
育児・介護休業法は、養子縁組による子(養子)の養育についても育児休業の対象としています。2025年10月1日から施行の改正(育児・介護休業法第23条の3の新設)により、3歳から小学校就学前の子を養育する従業員に対して、事業者がテレワーク・フレックスタイム制・時短勤務等の柔軟な働き方の措置を講ずることが義務化されました。この改正は養子を育てる養親にも適用されます。男女ともに養育に携わりやすい職場環境の整備が、養子縁組を「選択肢として選べる制度」にする前提条件のひとつです。
公的相談窓口
養子縁組を検討している方へ
養子縁組に関する相談は、以下の機関が主な窓口です。
- 児童相談所:特別養子縁組・里親を希望する方の第一相談窓口です。養親希望者の登録手続きや支援情報を案内しています。全国の児童相談所一覧は厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/)でご確認ください。
- 法テラス(日本司法支援センター):養子縁組の法律手続きや権利義務に関する無料法律相談の窓口です。収入要件を満たす方は無料で相談できます。電話:0570-078374(平日9:00~21:00、土曜9:00~17:00)
- 厚生労働省認可の民間養子縁組あっせん機関:婚姻している夫婦を対象として、特別養子縁組の支援を行う民間機関です。厚生労働省が許可した機関の一覧は厚生労働省ウェブサイトに掲載されています。
- 家庭裁判所:縁組の審判・調停に関する申立て窓口です。手続きの概要については最高裁判所ウェブサイト(https://www.courts.go.jp/)の家事事件コーナーをご参照ください。
具体的な法律上の判断については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
まとめ
養子縁組制度は、普通養子縁組と特別養子縁組という性質の異なる2類型から成り立っています。普通養子縁組は届出制で実親との関係が続く点が特徴であり、特別養子縁組は家庭裁判所の審判によって成立し実親との関係が原則終了する点で根本的に異なります。
2019年の民法改正によって特別養子縁組の対象年齢が引き上げられ、より多くの要保護児童への家庭的養育の機会が広がりました。2026年4月1日施行の共同親権制度(民法第824条の2)など、家族法全体が転換期を迎える中で、養子縁組制度もその位置づけを改めて問い直されています。
現代的な課題としては、養子の「出自を知る権利」の法的整備、LGBTQ+カップルが特別養子縁組を利用できない現行要件の問題、縁組後のアフターサポートの充実、支援体制の地域格差などが挙げられます。男女がともに養育に携わりやすい社会環境の整備は、養子縁組を本当の意味で「選べる制度」にするための基盤でもあります。
関連するテーマとして、「親権停止・親権喪失とは|虐待・DV家庭と子どもの保護」「離婚後共同親権とは|2024年民法改正・2026年施行の要点」「生殖補助医療と親子法制とは|第三者提供と親子関係の認定」もあわせてご参照ください。
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よくある質問
- Q. 普通養子縁組と特別養子縁組はどちらを選べばよいですか?
- 目的によって異なります。要保護状態の子どもに家庭を提供したい場合は特別養子縁組が設計目的に沿っており、相続・事業継承・子の扶養などを目的とする場合は普通養子縁組が広く使われています。どちらが適切かは個別の事情に依存するため、児童相談所・家庭裁判所・弁護士への相談をお勧めします。
- Q. 特別養子縁組の申立てはだれができますか?
- 原則として婚姻している夫婦が申立てを行います。2019年の民法改正後は、一定の条件のもとで児童相談所長も申立権者となれるようになりました。個人(単身者)や事実婚・同性カップルは現行法上、特別養子縁組の申立てができません。詳細はe-Gov法令検索(民法)でご確認ください。
- Q. 養子は実親と養親の両方から相続を受けられますか?
- 普通養子縁組では実親との法的関係が継続するため、一般的に実親・養親の双方の相続権を持ちます。特別養子縁組では実親との法的関係が原則として終了するため、養親側の相続権のみとなるのが通常です。具体的な相続関係は個別の状況によって異なるため、専門家へのご相談をお勧めします。
- Q. LGBTQ+カップルや事実婚カップルは養子縁組できますか?
- 特別養子縁組については、現行法で養親が「婚姻している夫婦」であることが要件となっているため、同性カップルや事実婚カップルは申立てができません。普通養子縁組は個人単位で行うことが可能ですが、未成年者を養子とする場合には家庭裁判所の判断が加わります。制度の今後の方向性については議論が続いています。
- Q. 特別養子縁組の縁組を後から解消することはできますか?
- 特別養子縁組は原則として解消(離縁)できません。これは実親との関係が断ち切られることを前提とする制度設計によるものです。ただし、養親による虐待など特別の事情がある場合に限り、例外的に離縁が認められる規定があります。詳細はe-Gov法令検索(民法)または家庭裁判所にご相談ください。
- Q. 養子縁組と里親制度はどう違いますか?
- 里親制度は、行政(児童相談所)が委託した子どもを一時的または長期的に養育する制度です。里親には親権はなく、子どもの戸籍や実親との法的関係は変わりません。養子縁組は法的な親子関係を新たに創設する制度であり、特別養子縁組では実親との法的関係が終了します。里親から特別養子縁組へ移行するケースもありますが、別制度である点に注意が必要です。

