育児休業を終えて職場に復帰する場面は、育児中の労働者にとって大きな転換点です。育休中に職場の状況が変わり、戻ってみると業務内容が変わっていた、評価が下がっていた、馴染みの同僚がいなくなっていたという経験をした方も少なくありません。一方で、事業主には育休からの円滑な職場復帰を支援する義務があり、復帰後も時短勤務・残業免除・テレワークなどの制度を使い続ける権利が法律で保障されています。
育児・介護休業法(以下「育介法」)が事業主に課す復帰支援の義務は、年々拡充されています。男性の育児休業取得率が50.9%(令和7年度・厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」・2026年7月31日公表)と過去最高を更新し続ける中、男女ともに育休後の復帰支援を充実させることは、女性活躍推進の観点だけでなく、職場全体の生産性と働きやすさにつながる課題として注目されています。
この記事では、育休後の職場復帰を円滑にするための制度の全体像を整理します。育介法が定める事業主の義務と労働者の権利、復帰後に起きやすいトラブルの法的な考え方、2025年10月施行の育介法改正で拡充された子育て支援制度、そして第6次男女共同参画基本計画が掲げる女性の継続就業率の目標と現状を解説します。企業の人事担当者が制度整備の参考にするとともに、育休取得中・復帰予定の労働者が自分の権利を確認するための記事としてご活用ください。

職場復帰支援プログラムとはなにか
育休後の職場復帰を支援する仕組みの概要
職場復帰支援プログラムとは、育児休業または出生時育児休業(産後パパ育休)を終えた労働者が、職場に円滑に戻れるよう事業主が講じる一連の支援措置のことです。法律が定める強制措置と、努力義務・推奨措置の組み合わせで構成されています。
厚生労働省は「育児・介護休業法に基づく職場復帰支援の手引き」を公表しており、休業前・休業中・復職直後・復職後の4つのステップで事業主が実施すべき内容を示しています。事業主が労働者の育休復帰をどう支援するかの具体的な手順については、厚生労働省の公式ウェブサイトや、詳細な条文についてはe-Gov法令検索でご確認いただけます。
対象となる休業の種類
職場復帰支援の対象となる主な休業は次のとおりです。育介法に基づく育児休業は、原則として子が1歳に達する日(保育所に入所できないなどの事情がある場合は最大2歳)まで取得できます。2022年10月1日施行の育介法改正で新設された出生時育児休業(産後パパ育休・育介法第9条の2~第9条の5)は、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる制度で、育児休業とは別に取得できます。
産前産後休業(産休)は労働基準法に基づく別制度ですが、連続して取得する労働者が多く、職場復帰支援のプロセスは産休終了後の育休復帰にも同様に適用されます。
育休中の情報提供と意向確認
事業主は育休を取得した労働者に対して、育休期間中も職場の状況や業務上の変化を適切に情報提供し、本人の意向を確認するよう求められています。完全に連絡を断ったまま復帰日が来るような対応では、スムーズな復帰が困難になります。一方で、育休中の労働者への過度な業務連絡や「自主的な職場復帰」を求める圧力は不利益取扱いになる可能性があります。情報提供は本人の同意を得た範囲で行うことが基本です。
育介法が事業主に求める職場復帰支援の義務
不利益取扱いの禁止
育介法は、育休・産休の取得を理由とした解雇・降格・減給・配置転換などの不利益取扱いを明確に禁止しています。育休から復帰した際に、休業前より低い職位や給与に変更することは、正当な業務上の理由がなければ不利益取扱いにあたる可能性があります。
男性が育休を取得した際の嫌がらせ(パタハラ=パタニティハラスメント(性的指向・性自認に関係なく、育児参加する男性への妨害的言動を指す通称))も同様に禁止されています。「育休を取ったから昇進から外す」「復帰後に重要業務から外す」といった対応は、法的に問題になり得ます。男女雇用機会均等法(以下「均等法」)も、妊娠・出産・育児を理由とした職場における不快な言動や不利益取扱いを防止する義務を事業主に課しています。均等法の現行条文についてはe-Gov法令検索でご確認ください。
職場復帰後の就業条件の調整
育休取得者が復帰した際、事業主は本人の意向と業務上の必要性を踏まえ、就業場所・業務内容・労働時間などについて適切に調整する義務を負います。一方的に全く異なる業務や格下げとも受け取られる配置に移すことは、不利益取扱いとみなされる恐れがあります。
復帰時の面談を実施し、本人の育児状況・希望する勤務形態・必要な支援を確認したうえで職場復帰計画を立てることが、トラブルを防ぐ効果的な方法とされています。
女性活躍推進法の情報公表と職場復帰支援の連動
女性活躍推進法は、常時雇用する労働者が100人を超える事業主に対して、男女の賃金差異および女性管理職比率の公表を義務づけています(同法第20条第1項。2026年4月1日から適用拡大、経過措置あり)。職場復帰支援が充実している職場は、女性の継続就業率・管理職比率の向上につながり、法律上の公表義務への対応もしやすくなります。職場復帰支援は法令遵守の手段であると同時に、人材確保・定着の経営課題でもあります。
復帰後に使える育介法上の権利
3歳未満の子を持つ労働者への措置
育介法第23条は、3歳未満の子を持つ労働者への所定労働時間の短縮措置(時短勤務)を事業主に義務づけています。育休から復帰した後も時短勤務を継続して利用することができ、子どもの保育所への送り迎えや体調不良への対応が求められる乳幼児期の働き方を支えます。時短勤務中の給与は実労働時間に応じた計算になりますが、「時短勤務を選択したことで不当に評価を下げる」対応は問題になり得ます。
小学校就学前まで拡充された残業免除と柔軟な働き方
育介法第16条の8(所定外労働の制限)は、小学校就学前の子を持つ労働者が請求した場合、残業を免除する義務を事業主に課しています。この対象範囲は2025年4月1日施行の育介法改正で小学校就学前まで拡大されました。
さらに2025年10月1日施行の育介法第23条の3(柔軟な働き方を実現するための措置)は、3歳から小学校就学前の子を持つ労働者に対して、事業主が①始業・終業時刻の変更等、②テレワーク・在宅勤務(週10日上限)、③所定労働時間の短縮措置、④育児に必要な施設・サービス利用のための費用援助、⑤育介法に基づく休業に準じる休業の5つから2つ以上の措置を用意することを義務づけています。育休復帰後も3歳未満のときと同様に柔軟な働き方を継続できる制度が整っています。
子の看護等休暇(育介法第16条の2・第16条の3)
育介法第16条の2・第16条の3で定める子の看護等休暇(旧称「子の看護休暇」、2025年4月1日から改称)は、9歳に達する日以後の最初の3月31日までの子を持つ労働者が、子の疾病・負傷・行事・健診等を理由に取得できる休暇です。2025年4月1日施行の改正で対象年齢が拡大(従来は小学校就学前まで)され、看護以外の事由(行事参加・健診付き添い等)も取得事由に加わりました。育休復帰後の子育て期を通じて利用できる重要な制度です。
| 時期・子の年齢 | 主な制度・権利 | 根拠条文(主なもの) |
|---|---|---|
| 産後8週間以内 | 出生時育児休業(産後パパ育休)最大4週間・2回分割可 | 育介法第9条の2~第9条の5 |
| 子が1歳(最大2歳)まで | 育児休業の取得。保育所未入所等の場合は最大2歳まで延長可 | 育介法第5条 |
| 3歳未満 | 所定労働時間の短縮措置(時短勤務)の義務的提供 | 育介法第23条 |
| 3歳から就学前 | 柔軟な働き方確保措置(テレワーク・時短等5選択肢から2つ以上)の義務的提供 | 育介法第23条の3(2025年10月1日施行) |
| 就学前まで | 所定外労働の制限(残業免除)・深夜業の制限 | 育介法第16条の8・第19条 |
| 9歳年度末まで | 子の看護等休暇(疾病・行事・健診等、年5日・2人以上は10日) | 育介法第16条の2・第16条の3 |
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育休後のキャリアと職場環境について深く理解したい方には、「育休世代のジレンマ」(中野円佳著・光文社新書)が参考になります。育休を取得した女性たちが復帰後に直面する職場の壁を豊富な事例で分析した一冊です。
復職後に起きやすいトラブルと対応
配置転換・職場変更の問題
育休から復帰した際に、職場や担当業務が大きく変わるケースがあります。育児中の労働者の生活事情に配慮した結果として異動が提案される場合もある一方で、本人の意向を無視した一方的な配置転換や格下げにつながる異動は、不利益取扱いとして問題になる場合があります。
育介法は、就業場所の変更を行う際に育児または介護を行う労働者の就業継続に配慮することを事業主に求めています。配置転換に合理的な理由があるかどうか、本人の意向が適切に聴取されているかが、判断の分かれ目になります。疑問がある場合は労働局や総合労働相談コーナーへの相談をご検討ください。
評価・賞与への影響
育休取得期間中は業務実績が生じないため、評価に一定の影響が出ることはある程度やむを得ない部分がありますが、育休を取得したこと自体を理由にペナルティを与えることは許されません。「育休を取得したから減点する」「育休取得者は次期昇進候補から外す」という取り扱いは、育介法上の不利益取扱い禁止規定に違反する可能性があります。
人事評価制度において育休取得期間を適切に除外して評価する仕組みや、復帰後の実績に基づいて評価をリセットできる仕組みを整備している企業も増えています。
マミートラックとの関係
マミートラック(育休・時短復帰後に昇進コースから外れ、補助的業務のみに固定されるキャリアパターン)は、職場復帰支援の失敗の典型例の一つです。法律が定める時短勤務や残業免除は権利の行使であるにもかかわらず、それを理由にキャリアアップの機会から排除することは、実質的な不利益取扱いとみなされる可能性があります。育休後のキャリア形成を支援する制度的な仕組みと、マネージャー層の意識変革の両方が求められています。
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
- 2022年10月1日施行(令和3年法律第58号による改正): 出生時育児休業(産後パパ育休・育介法第9条の2)の新設。育児休業の分割取得(2回まで)が可能に。事業主による個別周知・意向確認義務が創設。
- 2025年4月1日施行(令和6年法律第42号による改正): 育休取得状況の公表義務が常時雇用1,000人超から300人超に拡大(育介法第22条の2)。子の看護等休暇の名称変更と対象年齢・取得事由の拡大(育介法第16条の2・第16条の3)。所定外労働の制限の対象が就学前まで拡大(育介法第16条の8)。
- 2025年10月1日施行(同上): 柔軟な働き方確保措置の新設(育介法第23条の3)。3歳から就学前の子を持つ労働者への5選択肢から2つ以上の措置が義務化。
- 2026年4月1日施行(令和7年法律第63号による改正): 女性活躍推進法の改正で、常時雇用する労働者が100人を超える事業主への男女の賃金差異・女性管理職比率の公表義務が新設(同法第20条第1項。経過措置あり)。
議論の現在地
育休後の職場復帰をめぐっては、制度は整備されてきた一方で「使いやすさ」に課題が残るという声が多くあります。賛否両論をまとめると、「育休後の時短勤務・残業免除は労働者の権利として定着しつつある」という評価がある一方、「時短勤務者の業務負担を他のメンバーが吸収する職場では、権利行使への心理的なプレッシャーが生まれやすい」という指摘も根強くあります。
男性育休取得率が50.9%(令和7年度・雇用均等基本調査・2026年7月31日公表)まで高まる中、「育休を取った後の復帰支援は女性だけの問題ではない」という認識が広がっています。男性も育休後に時短勤務・残業免除・子の看護等休暇を利用する権利があり、男性の育休後支援を充実させることが、育児の男女平等分担につながります。
残された課題
第6次男女共同参画基本計画(令和8年3月13日閣議決定)は、第一子出産前後の女性の継続就業率について、現状69.5%(2021年・計画本体記載値)から2030年までに80%へ引き上げる成果目標を掲げています。この目標達成には、職場復帰支援の質的向上が不可欠です。
残された課題としては、①中小企業での職場復帰支援体制の整備(大企業との格差が大きい)、②マネージャー層の育休・時短勤務への理解促進、③復帰後のキャリア形成支援と昇進機会の確保、④有期雇用・非正規労働者の育休取得後の復帰支援、の4点が主要なものとして指摘されています。
第6次基本計画と継続就業率の目標
女性の継続就業率の現状と目標
第6次男女共同参画基本計画が掲げる「第一子出産前後の女性の継続就業率」の成果目標は、2030年までに80%です(現状: 69.5%・2021年・計画本体記載値)。第一子を出産した後も就業を継続できる環境を整えることが、この目標達成のための中核課題であり、育休制度の充実と職場復帰支援の強化がその両輪です。
25歳から44歳の女性の就業率は83.6%(2025年・計画本体記載値)と高くなっていますが、就業継続者の多くが時短勤務・非正規雇用にとどまる傾向があり、育休後のフルタイム・正規就業への復帰も課題として残っています。
女性管理職比率と復帰支援の関係
女性管理職比率(課長相当職)は13.2%(令和7年度・厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」・2026年7月31日公表)にとどまっており、第6次基本計画が掲げる2030年目標(課長相当職24%)との差は10ポイント超です。育休後に時短勤務や残業免除を使い続けながら管理職に就ける仕組みを整えることが、この差を縮める上で重要です。「管理職になるには時短を卒業しなければならない」という暗黙のルールが残っている職場では、育休後に権利を行使した女性が実質的にキャリアアップから排除されてしまう恐れがあります。
公的相談窓口と支援情報
育休・職場復帰に関する相談先
育休後の職場復帰に関するトラブルや不利益取扱いへの相談は、以下の窓口で受け付けています。
- 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室): 均等法・育介法に関する事業主・労働者双方からの相談窓口。無料で相談できます。電話番号は各都道府県労働局の公式ウェブサイトでご確認ください。
- 総合労働相談コーナー: 全国の労働局・労働基準監督署内に設置。育休・復職に関するトラブル、不利益取扱いについての相談を無料で受け付けています。
- 法テラス(日本司法支援センター): 電話番号0570-078374。弁護士費用の立替制度があり、経済的に難しい方も無料で法的な情報を得られます。育休復帰をめぐる労働紛争が深刻化した場合に活用できます。
くるみん認定制度の活用
次世代育成支援対策推進法第13条に基づく「くるみん認定」(職場環境整備に積極的に取り組む企業への認定制度)は、男性育休取得率・育休後の職場復帰率などの指標を満たした企業が取得できる認定です。認定を受けた企業はロゴを採用や広報に活用でき、求職者が職場復帰支援の充実した職場を選ぶ際の目安になります。
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育休・復職後の法的権利と職場での実践を体系的に理解したい方には、「労働法」(水町勇一郎著・有斐閣)のような標準的な労働法テキストも、権利の根拠を確認する際に役立ちます。
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よくある質問(FAQ)
- Q. 育休から復帰したら担当業務が大きく変わっていました。これは違法ですか?
- 業務変更が育休取得を理由とした不利益取扱いにあたる場合は、育介法上の問題になります。業務変更に合理的な理由があるか、本人の意向が適切に確認されているかが判断の分かれ目です。納得できない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談することができます。
- Q. 育休復帰後も時短勤務を使いたいのですが、上司から「早くフルタイムに戻れ」と言われています。
- 3歳未満の子を持つ労働者は、育介法第23条により時短勤務を請求する権利があります。時短勤務の利用を妨げたり、利用し続けることへの嫌がらせをしたりすることは、育介法上の不利益取扱いにあたる可能性があります。都道府県労働局への相談が有効です。
- Q. 男性ですが、育休から復帰した後に時短勤務や残業免除を使えますか?
- はい、使えます。育介法の時短勤務(第23条)・残業免除(第16条の8)・柔軟な働き方確保措置(第23条の3)は、男女を問わず育児中の労働者が利用できる権利です。男性が利用することへの嫌がらせ(パタハラ)も育介法上の不利益取扱いとして問題になります。
- Q. 育休後の評価が下がり、賞与が大幅に減りました。会社に説明を求められますか?
- 育休を取得したこと自体をペナルティとして評価を下げることは許されません。会社に評価基準と算定根拠の説明を求めることは労働者の正当な権利であり、説明が不十分な場合は都道府県労働局への相談も選択肢です。
- Q. 育休復帰後の継続就業を支援する国の補助制度はありますか?
- 厚生労働省の「両立支援等助成金」(出生時両立支援コース・育児休業等支援コースなど)は、男性育休や職場復帰支援に取り組む事業主への助成制度です。詳細は厚生労働省の公式ウェブサイトでご確認ください。
