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デジタル・STEM分野のジェンダーギャップ|統計データと是正策【2026年版】

「理工系学部に進学したかったのに、なんとなく諦めた」「IT業界は男性ばかりで働きにくい」——このような声は、2026年の今もなお聞こえてきます。日本のデジタル・STEM(サイエンス・テクノロジー・エンジニアリング・マスマティクスの頭文字を組み合わせた造語で、科学・技術・工学・数学の総称)分野のジェンダーギャップは、国際社会のなかで際立って大きいと指摘されています。

本記事では、文部科学省「学校基本調査」・内閣府「男女共同参画白書」・世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数(GGI)など、信頼性の高い統計データをもとに、日本のSTEM・デジタル分野における男女格差の実態を解説します。格差を生み出す構造的要因、国内外の法制度・政策の到達点、残された課題についても整理します。

企業の人事・DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)担当者、教育現場の教員や進路指導担当者、ジェンダー平等に関心を持つ市民の方々に、統計の読み方と政策の文脈を理解する一助となれば幸いです。

目次

デジタル・STEM分野のジェンダーギャップとは

STEMとは何か

STEM(ステム)とは、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Mathematics(数学)の頭文字を組み合わせた造語です。近年はArts(芸術・人文)を加えた「STEAM」と表記されることもありますが、ジェンダー政策の文脈では引き続きSTEMが広く使われています。

デジタル分野はSTEMの「T(技術)」に相当しますが、AIやデータサイエンス、情報通信技術(ICT)の急速な普及を受けて、独立した政策領域として論じられることが増えました。内閣府第5次男女共同参画基本計画(2020年12月閣議決定)では、「デジタル分野におけるジェンダーギャップの解消」が独立した重点課題として明記されており、男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)施行以降に新たに追加された重要テーマの一つです。

なぜジェンダーギャップが生じるのか

STEM分野に女性が少ない理由については、「能力の差」ではなく「社会的・文化的要因」にあるという研究が蓄積されています。主に指摘されているのは以下の要因です。

第一に、幼少期からの「ステレオタイプ的役割期待」があります。「理系は男の子が得意な分野」という社会通念が、女子生徒の進路選択に影響することが複数の研究で示されています。第二に、ロールモデル不足の問題があります。理工系学部の教員・研究者に女性が少ない現状が、女子学生の「自分もなれる」というイメージ形成を阻む要因となっています。第三に、STEM職場の「男性文化」があります。長時間労働慣行・ハラスメント・育児との両立困難が、就職後の離職につながりやすいとされています。

文部科学省の調査では、中学校段階では理科の学力に男女差はほとんど見られないにもかかわらず、高校・大学と進むにつれて理工系進学率に大きな男女差が生じることが確認されています。これは能力差ではなく、社会的・文化的要因が進路選択に作用していることを示しています。

国際機関が注目する理由

デジタル・STEM分野のジェンダーギャップは、「不公平の問題」であるとともに「経済成長の阻害要因」としても国際機関が注目しています。世界経済フォーラム(WEF)は「Global Gender Gap Report 2024」の中で、AIや機械学習の分野で女性の参画率が著しく低いことを指摘し、デジタル経済の恩恵が特定の集団に偏在するリスクを警告しています。

OECDも「OECD Digital Economy Outlook 2024」において、STEM女性人材の確保が労働力不足と技術革新の両面で重要な政策課題であると位置づけています。日本においては、デジタル人材不足が深刻化するなかで、潜在的労働力であるSTEM女性人材の活用がより一層の課題となっています。

統計データで見る日本の現状

理工系学部への女性進学率

文部科学省「学校基本調査(令和5年度)」によると、学部学生全体に占める女性比率は約45.6%です。一方、工学部は約17.2%、情報系(情報工学・情報科学等)は約18.7%と、全体平均を大幅に下回っています。理学部は約27.5%と工学部よりは高いですが、OECD平均(約35%)と比較すると低い水準にとどまっています。

国際比較では、EU平均で工学・製造・建設分野の女性比率が約26%(Eurostat 2022)であるのに対し、日本は約17%と顕著な差があります。韓国(約25%)・中国(約40%以上)・インドなど一部のアジア諸国では日本より高い女性比率を示しており、「理系に女性が少ない」という傾向が文化的・社会的要因によるものであることを示しています。

IT・技術職における女性比率

総務省「労働力調査(2023年)」によると、情報通信業全体の女性比率は約27.5%です。職種別ではシステムエンジニア・プログラマーの女性比率は約15%前後とさらに低く、IT管理職(部門長・CTO等)ではさらに低い水準となっています。

経済産業省「IT人材白書2023」は、IT人材全体の不足数が2030年に最大79万人に達すると推計しており、女性IT人材の参入促進が量的にも質的にも重要な課題であると指摘しています。また、女性IT人材の離職率は男性より高い傾向があり、採用だけでなく定着のための環境整備も課題となっています。

ジェンダーギャップ指数における教育と経済の分断

世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2024」において、日本は146か国中118位と低位にとどまっています。分野別スコアを見ると、教育分野では1位に近い高スコアを示す一方、経済参画・機会分野では120位以下と極端な分断が生じています。

この「教育では平等だが経済では不平等」という構造は、STEM分野に端的に表れています。教育機会の平等が実現しているにもかかわらず、STEM系の進路選択・就職・昇進において構造的な障壁が存在することが、この分断の一因と分析されています。

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法制度・政策の整備状況

第5次男女共同参画基本計画のデジタル分野施策

男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)第13条第1項に基づき策定された第5次男女共同参画基本計画(2020年12月閣議決定)は、「第12分野:科学技術・学術分野における男女共同参画の推進」においてデジタル分野のジェンダーギャップ解消を重点課題として掲げています。

具体的な数値目標として、「理工系学部への女性進学率を2025年度までに20%以上に引き上げる」ことが設定されました。ただし、2023年度時点の実績は約17~18%にとどまっており、目標達成には引き続き施策の強化が求められています。また、「指導的地位に占める女性の比率を2030年までに30%以上(202030目標)」のもと、IT・製造業等の技術系管理職への女性登用も重点的に促進されています。

女性活躍推進法とデジタル人材育成

女性活躍推進法(平成27年法律第64号)(最終改正: 令和4年7月施行)は、労働者数101人以上の企業に対し、女性採用比率・管理職比率・勤続年数差等の情報公表を義務付けています。2022年の改正により、労働者数301人以上の大企業には「男女の賃金差異」の公表も義務となりました。

IT・製造業等のSTEM関連企業においても、この公表義務により女性従業員比率・管理職比率が可視化されるようになり、格差改善を促す一定の効果が期待されています。厚生労働省の「えるぼし認定」・「プラチナえるぼし認定」制度は、女性活躍推進に積極的に取り組む企業を第三者認証する仕組みであり、STEM系企業の活用も増えています。

デジタル庁の設置と女性デジタル人材育成プラン

2021年9月に発足したデジタル庁は、行政のデジタル化と並んで「誰一人取り残されないデジタル社会」の実現を掲げています。2022年には、内閣官房・内閣府・デジタル庁が連携して「女性デジタル人材育成プラン」を策定しました。このプランでは、離職中の女性や非正規雇用の女性を対象としたデジタルスキル習得支援やリスキリング(学び直し)プログラムの充実が盛り込まれています。

ただし、プランの目標達成状況や参加者の就業転換率については、2026年時点でも継続的な検証が必要とされており、EBPM(証拠に基づく政策立案)の観点からの評価が求められています。

指標 日本(2024年) OECD・EU平均 上位国の例
工学系学部女性比率 約17% 約26% スウェーデン約35%、韓国約25%
IT・情報通信業女性比率 約27.5% 約32% フィンランド約36%
AI・機械学習分野女性比率 約22% 約28% EU平均約28%
IT管理職女性比率 約14% 約23% ノルウェー約27%
STEM高校教員女性比率(理科) 約28% 約40% フィンランド約55%
GGI総合順位(2024年) 118位 / 146か国 上位50か国程度 アイスランド1位
出典: 文部科学省「学校基本調査(令和5年度)」、総務省「労働力調査(2023年)」、WEF「Global Gender Gap Report 2024」、Eurostat(2022)、OECDデータを基に作成

現代的論点|2026年時点の到達点

2007年以降の主な法改正・新法

  • 2015年: 女性活躍推進法成立(平成27年法律第64号)。大企業に行動計画・情報公表を義務付け。
  • 2019年: 女性活躍推進法改正。適用対象を労働者数301人以上から101人以上に拡大(2022年4月施行)。
  • 2020年: 第5次男女共同参画基本計画閣議決定。デジタル分野のジェンダーギャップ解消を初めて重点課題として明記。
  • 2021年: デジタル庁発足(令和3年9月)。行政DXと並行してデジタルインクルージョンが政策軸に位置づけられる。
  • 2022年: 「女性デジタル人材育成プラン」策定。リスキリング支援を官民連携で推進。
  • 2022年: 女性活躍推進法改正(令和4年7月施行)。労働者数301人以上企業に「男女の賃金差異」の公表を義務化。
  • 2023年: こども家庭庁発足(令和5年4月)。子育て支援・保育の充実がSTEM分野の女性定着にも間接的に関連。
  • 2024年: 東京工業大学が工学部に女子特別入試(女子枠)を導入。国公立大でのSTEM女子枠設置が議論に。

議論の現在地

STEM・デジタル分野のジェンダーギャップをめぐっては、複数の異なる立場からの議論が存在します。

一方では、「能力に男女差はなく、社会的な構造・慣行が女性の参入を妨げているため、積極的な政策介入が必要だ」という立場があります。この立場からは、理工系大学の女子特別入試(女子枠)の設置やSTEM女性奨学金の拡充、女性研究者の採用目標設定が支持されています。

他方、「女子枠や数値目標は能力主義の原則と緊張関係にある」「自由な選択の結果として女性が文系を選ぶ比率が高くなっている側面もある」という立場も存在します。この立場からは、強制的な割り当てよりも環境整備・情報提供を優先すべきであるという主張がなされています。

学術的には、「選択の自由」を前提としつつも、その「選択」がステレオタイプ的役割期待・アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)・ロールモデルの欠如によって形成されている可能性を指摘する研究が多く、社会環境の整備と個人の選択支援の両輪が重要とする見解が主流となっています。なお、「女子枠」の法的位置づけについては、文部科学省が国公立大学での実施可能性の検討を進めており、2026年時点でも議論が継続中です。

残された課題

第一に、ロールモデル不足の構造的解消が挙げられます。女性STEM研究者・エンジニアの可視化・メディア露出、企業内メンタリングプログラムの拡充、高校・大学での女性研究者による出張講義の継続が求められています。

第二に、STEM職場の文化変革があります。長時間労働・ハラスメント・アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が残存するSTEM職場文化の変革は、個別企業の努力だけでは限界があり、業界横断的な基準設定と第三者評価の仕組みが必要とされています。

第三に、データの精緻化が必要です。「STEM全体」「IT全体」の集計に留まらず、AIエンジニア・データサイエンティスト・セキュリティエンジニアなどの職種別、初級・中級・管理職別の男女比率データが不十分であり、政策効果の測定が困難な状況です。内閣府「男女共同参画白書」でもこの点の課題認識が示されています。

第四に、交差的課題(インターセクショナリティ)への対応が必要です。インターセクショナリティ(交差性)とは、ジェンダー・人種・階層・障害等の複数の属性が交差することで生じる複合的な不平等を分析する概念です。STEM分野における格差は、ジェンダーのみならず、出身地域・家庭の経済状況・障害の有無・外国にルーツを持つかどうか等の要因が複合的に作用しています。単一属性を対象にした施策では解決しきれない複合的格差への対処が求められています。

教育現場・企業における取り組み

理工系女子進学を促す教育施策

文部科学省は「理数教育の充実」施策の一環として、中学・高校段階での女子STEM教育の促進を進めています。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校では、女子生徒の理工系進路選択を促す特別プログラムを設けているケースが増えています。

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を実施し、女性研究者による出張講義・研究室訪問・キャリアトークを全国で展開しています。また、各大学では女子学生支援センターの設置や、理工系女子大学院生に対する奨学金プログラムの整備も進んでいます。

民間においても、IT企業・エンジニアリング企業が女子中高生向けのハンズオンプログラム(プログラミング・AI体験等)を提供する取り組みが広がっています。ただし、これらの取り組みが実際の進学率向上にどの程度貢献しているかを測定するためのデータ収集・分析体制の整備が引き続き課題となっています。

企業のSTEM女性活躍推進

IT・製造業等のSTEM系大企業では、女性活躍推進法に基づく行動計画の策定と情報公表が義務化されており、採用・育成・登用の各フェーズでの施策が求められています。

積極的な取り組みとして、女性エンジニア向けの社内メンタリングプログラム・リモートワーク推進・育児と両立可能な勤務時間設定・女性管理職比率の目標設定と進捗管理が挙げられます。厚生労働省の「えるぼし認定」制度は、これらの取り組みを第三者認証する仕組みであり、女性STEM人材の採用強化を目指す企業の活用が増えています。

一方、IT系スタートアップや中小企業では、制度整備よりも職場文化の変革が先行課題となっており、大企業と中小企業の間での格差拡大も懸念されています。女性活躍推進法の適用対象外となる100人以下の企業は、努力義務の範囲でしか対応が求められていないことが、中小STEM企業での女性活躍が進みにくい要因の一つとなっています。

相談窓口・参考情報

STEM・デジタル分野でのキャリアに関する困りごと(ハラスメント・就職差別・育児との両立困難等)については、以下の公的窓口にご相談ください。

  • 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局内): 職場での差別・ハラスメントに関する無料相談窓口です。電話番号は各都道府県労働局の公式ウェブサイトをご参照ください。
  • 女性の活躍推進企業データベース(厚生労働省運営): 各企業の女性活躍推進状況(女性管理職比率・育休取得率・男女賃金差異等)を検索・比較できます。転職活動や企業選びの参考として活用できます(https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/)。
  • DV相談ナビ(#8008): 配偶者や交際相手からの暴力に関する相談は「#8008」(短縮番号)で最寄りの配偶者暴力相談支援センターに接続されます。
  • 法テラス(0570-078374): 職場での性差別・ハラスメント被害など法的問題の相談先として、法テラス(日本司法支援センター)への相談も選択肢の一つです。具体的な事案については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。

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まとめ

デジタル・STEM分野のジェンダーギャップは、日本が国際社会の中で特に遅れをとっている領域の一つです。工学部女性比率の約17%・IT職女性比率の約27.5%という数値は、OECDや欧米諸国と比較して顕著に低く、政策・企業・教育の三方面からの取り組みが必要な状況が続いています。

女性活躍推進法の情報公表義務・第5次男女共同参画基本計画のデジタル重点化・女性デジタル人材育成プランなど、制度面での整備は着実に進んでいます。一方で、ロールモデル不足の解消、STEM職場の文化変革、交差的格差への対応、データの精緻化など、残された課題も多くあります。

2025年度に策定が予定される第6次男女共同参画基本計画では、デジタル分野の数値目標の改定と、より実効性のある施策の盛り込みが期待されます。統計データを継続的に追いながら、政策の進捗を市民として把握していくことが重要です。


よくある質問(FAQ)

Q. 日本の工学部・理工系学部の女性比率はどのくらいですか?

文部科学省「学校基本調査(令和5年度)」によると、工学部の女性比率は約17.2%、情報系学部は約18.7%です。全学部平均の約45.6%と比較すると大きな格差があり、OECD平均(約26%)を下回っています。

Q. STEM・デジタル分野のジェンダーギャップはなぜ生じるのですか?

単純な「能力差」ではなく、「理系は男の子が得意な分野」というステレオタイプ的役割期待、女性ロールモデルの不足、STEM職場における長時間労働慣行やハラスメントといった社会的・文化的・構造的要因が複合的に作用していると研究者から指摘されています。

Q. 女性のSTEM参画促進に関連する主な法律・制度は何ですか?

女性活躍推進法(平成27年法律第64号)に基づく行動計画・情報公表義務が主要な制度です。また、第5次男女共同参画基本計画(2020年)でデジタル分野のジェンダーギャップ解消が重点課題となり、厚生労働省の「えるぼし認定」制度が企業の取り組みを認証する仕組みとして機能しています。

Q. 大学が「女子枠」を設けることは許容されるのですか?

日本では東京工業大学が2024年度入試から工学部に女子特別入試を設置し、注目を集めました。私立大学では任意に設定できますが、国公立大学については文部科学省が実施可能性を検討中です。能力主義との関係で賛否両論のある政策手段であり、現在進行形で議論が続いています。

Q. IT・デジタル分野で女性の就業率を高めるための主な施策は何ですか?

内閣官房・内閣府・デジタル庁が2022年に策定した「女性デジタル人材育成プラン」では、離職中・非正規雇用女性へのリスキリング(デジタルスキル習得)支援が盛り込まれています。企業においては女性エンジニア向けメンタリングプログラム・リモートワーク推進・育児と両立可能な勤務体制の整備が有効とされています。

Q. STEM分野のジェンダーギャップに関する最新の統計データはどこで確認できますか?

文部科学省「学校基本調査」(毎年公表)・内閣府「男女共同参画白書」(毎年公表)・世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report」(毎年公表)・総務省「労働力調査」(毎月公表)・経済産業省「IT人材白書」(概ね2年毎)が主要な統計資料です。いずれも各省庁・機関の公式ウェブサイトから無料で閲覧できます。


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