企業の職場で長く働きながら、どこかで昇進の壁にぶつかったと感じた経験をお持ちの方は少なくありません。「努力しているはずなのに管理職になれない」「同じ成果を出しても男性の同僚に先を越される」——こうした経験の背景にある構造的な現象を、「ガラスの天井(グラスシーリング)」と呼びます。
ガラスの天井とは、性別・人種・年齢などの属性を理由として、特定のグループが組織内での昇進や上位職位への到達を阻まれる、目に見えない障壁のことです。透明で目には見えにくいが確かに存在する、という意味合いからこの名前がつけられました。
本記事では、ガラスの天井の概念・定義から、日本の職場における統計データ、法的フレームワーク、そして2026年時点での政策的到達点と残された課題まで、体系的に解説します。職場のジェンダー格差に向き合う人事担当者の方、ガラスの天井の概念を実務で活用したい方、または自身のキャリアを考える上で参考にしたい方に向けて、法令・統計・公的資料に基づいた情報を提供します。

ガラスの天井の定義と概念
用語の由来と国際的な定義
「ガラスの天井(Glass Ceiling)」という表現が広く使われるようになったのは1980年代の米国です。1978年頃に職場における女性の機会格差を議論する文脈で用いられはじめ、1980年代に米国の経済誌「ウォール・ストリート・ジャーナル」の特集記事でも取り上げられることで一般化しました。日本では1990年代以降、男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号、最終改正:令和7年法律第63号・2025年6月11日施行)の整備とともにこの概念が広まりました。
国際労働機関(ILO)は2015年の報告書「Women in Business and Management: Gaining Momentum」の中で、ガラスの天井を「女性が上位職に昇進するのを妨げる見えない障壁」として取り上げ、各国での政策対応を促しています。
ガラスの天井の核心は、能力・資格・意欲の問題ではなく、組織・制度・社会規範が複合的に絡み合う「構造」に起因するという点です。個人の努力では乗り越えにくい、透明(ガラス)だが確かに存在する(天井)障壁——この比喩がこの概念の本質をよく表しています。
ガラスの天井が問題視される背景
日本では1986年に男女雇用機会均等法が施行され、採用や配置における性差別が法律で規制されました。しかし、法律の整備が進む一方で、管理職・役員レベルでの女性比率は依然として低水準に留まっています。
近年は、ガラスの天井が個人のキャリアに与える影響にとどまらず、企業の生産性・意思決定の質・リスク管理にも影響するという研究知見も蓄積されています。マッキンゼー・アンド・カンパニーの「Women in the Workplace」報告書(2023年版)は、上位管理職に女性が多い企業ほど業績が優れる傾向を示しており、ガラスの天井の解消が経営課題として捉えられる背景の一つとなっています。
また、2015年に施行された女性活躍推進法(平成27年法律第64号)は、管理職に占める女性の割合など人事情報の公表を企業に義務付けることで、「見える化」を通じた改善を図るアプローチをとっています。こうした政策の積み重ねがある一方で、格差の解消は今なお道半ばです。
日本のガラスの天井——統計データで見る現状
管理職・役員比率の実態
内閣府「令和6年版男女共同参画白書」(2024年)によれば、2023年における民間企業の管理職(課長相当職以上)に占める女性の割合は約12.9%です。政府が掲げる「2020年代の可能な限り早期に指導的地位の女性割合を30%程度にする」(202030目標)に向けた達成状況は、いまだ低水準にとどまっています。
上場企業の取締役に占める女性比率は、2023年に約15.5%に達しました(内閣府男女共同参画局調査)。東京証券取引所は、プライム市場上場会社に対して2030年までに取締役会での女性比率30%以上を目指すよう要請しています。しかし、中小企業・非上場企業では依然として低水準にとどまっています。
昇進過程の「パイプライン問題」
採用段階では男女の就職率に大きな差はなくなりつつあります。しかし、係長→課長→部長→役員という昇進の各段階で女性比率が急落するという「パイプライン問題」が指摘されています。これは、組織の梯子を上るにつれて女性が脱落していく現象で、ガラスの天井の存在を数字で示すものです。
厚生労働省「雇用均等基本調査」(2023年)によれば、係長相当職の女性比率は約19.9%、課長相当職は12.9%、部長相当職は7.9%と、役職が上がるにつれて割合が明確に低下します。採用段階では女性の割合が増加しているにもかかわらず、上位職ほど女性が少ない——この非対称性がパイプライン問題の核心であり、ガラスの天井が実在することを示す重要な指標です。
国際比較から見る日本の位置づけ
世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数2025によれば、日本は148カ国中118位です。特に「経済参画・機会」分野と「政治参画」分野の評価が低く、アジア諸国の中でも下位に位置しています。経済分野では「管理職の男女比」「専門・技術職の男女比」「推定賃金の男女格差」の3指標で評価されており、管理職の男女比の低迷がスコアを大きく引き下げています。
OECD諸国の中でも、日本の管理職女性比率は最低水準グループに属します。フランス(管理職女性比率約43%)、英国(約36%)、米国(約40%)と比較すると、日本が抱える課題の大きさが浮き彫りになります。
ガラスの天井を生み出す3つの構造的要因
長時間労働・転勤前提の組織慣行
日本企業では、「管理職候補」とみなされるには長時間労働と全国転勤への対応が暗黙の前提とされてきた経緯があります。育児・介護の主たる担い手になりやすい女性にとって、この慣行は大きな参入障壁になります。
また、「非公式ネットワーク(Old Boys’ Network)」と呼ばれる、飲み会・早朝・深夜の非公式な場を通じた人間関係や情報流通が昇進判断に影響する場合があります。こうした場への参加が難しい属性の方は、意思決定に関わる情報や人脈を得にくい状況が生まれやすいと指摘されています。
さらに、昇進基準が明文化されておらず「リーダーシップ」「積極性」といった曖昧な基準が実質的に特定の属性を優遇してしまうケースも、ガラスの天井を生み出す組織的要因の一つです。
固定的性別役割分担意識の影響
固定的性別役割分担意識(ジェンダー規範)とは、「男性は外で稼ぐ・女性は家庭を守る」といった社会的・文化的に形成された役割期待のことです。内閣府「男女共同参画に関する世論調査」(2023年)によれば、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に「賛成」または「どちらかといえば賛成」と回答した人の割合は約36%でした(減少傾向にはあるものの、依然一定数を占めています)。
職場の昇進判断においては、こうした無意識の固定的役割意識が作用することがあります。「管理職=男性的な役割」という思い込みが人事評価・昇進推薦の段階で現れることを、固定的性別役割分担意識の影響と呼びます。男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)第4条は、「固定的な役割分担意識に基づく社会慣行」の是正を基本理念の一つに掲げており、この問題が法的にも認識されていることを示しています。
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)
アンコンシャスバイアス(Unconscious Bias:無意識の偏見)とは、自分では気づかないまま持っている思い込みや先入観のことです。ガラスの天井の維持に関与する代表的なアンコンシャスバイアスには以下があります。
- 「女性はすぐ辞めるかもしれない」という先入観から、育成投資を控える傾向
- 「リーダーシップは男性的な特性」という思い込みによる評価のゆがみ
- 同じ行動でも「男性なら積極的」「女性なら攻撃的」と異なって評価される「ダブルバインド(二重拘束)」
- 業績評価に際し、女性の成果を運や周囲のサポートによるものとする傾向(「帰属バイアス」)
内閣府は2022年以降、職場でのアンコンシャスバイアス研修の普及を後押しするガイドラインを策定しています(「職場におけるアンコンシャス・バイアス研修に関する報告書」2022年3月)。研修の導入は義務ではありませんが、女性活躍推進法に基づく行動計画の取り組み事項として位置づける企業が増えています。
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ガラスの天井に関わる法的フレームワーク
男女雇用機会均等法の役割と限界
男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号、最終改正:令和7年法律第63号・2025年6月11日施行)第6条は、配置・昇進・降格・教育訓練における性差別を禁止しています。また同法第7条では、「間接差別(かんせつさべつ)」——性別以外の要件を課しながら、実質的に一方の性別に不利益となる措置——も禁止しています。間接差別として省令で定められている例には、「労働者の募集または採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること」などが含まれます(均等法施行規則第2条)。
しかし均等法は、個別事案への対応を中心とした法律であり、組織全体の管理職比率をプロアクティブに引き上げる仕組みとしては限界があります。法令違反がなくても事実上のガラスの天井が存在しうる——この点が「見えない障壁」の難しさです。都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)への相談や調停の申請(第18条、2026年10月1日以降は第24条)は、個別の差別事案への対処手段として利用できます。
女性活躍推進法と情報公表義務
女性活躍推進法(平成27年法律第64号)は2015年に成立し、2016年に完全施行されました。常時雇用する労働者が101人以上の事業主に対して、行動計画の策定・届出・情報公表が義務付けられています(第8条・第20条)。
2022年の改正(令和4年7月施行)では、301人以上の事業主に「男女間賃金差異」の情報公表が義務化されました(第20条第1項第1号)。さらに、2026年時点では、101人以上300人以下の事業主にも男女間賃金差異の公表義務拡大を求める方向での議論が継続しています。
この「見える化」制度は、企業間の比較可能性を高め、格差の大きい企業への社会的圧力として機能することが期待されます。厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」(https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/)では、各社の管理職女性比率・平均継続勤務年数・男女間賃金差異などを検索・比較できます。
ポジティブアクション(積極的改善措置)の法的根拠
ポジティブアクション(積極的改善措置)とは、男女間の格差を解消するために、特定のグループに一時的に優遇措置を講じることです。男女雇用機会均等法第14条は、女性が少数にとどまっている職務や職位での優遇措置を、違法ではなく適法と位置づけています。
具体的には、同等の資格・能力を持つ候補者が複数いる場合に女性を優先的に採用・昇進させること、女性のみを対象としたリーダー研修・メンタリングプログラムの実施などが含まれます。均等法は「積極的措置」(第8条・第14条)として位置づけており、差別禁止原則の例外的適用として認められています。
ただし、あらゆる場面で「女性を優先する」制度(いわゆる硬直的なクオータ制)については、法的・社会的な賛否があります(後述の「現代的論点」参照)。
| 法令名 | 関連条文 | 主な内容 | 施行・改正年 |
|---|---|---|---|
| 男女雇用機会均等法 | 第6条・第7条・第14条 | 昇進・配置の性差別禁止、間接差別禁止、ポジティブアクション規定 | 1986年施行、最終改正 令和7年法律第63号(2025年6月11日施行) |
| 女性活躍推進法 | 第8条・第20条 | 行動計画策定・情報公表義務(101人以上)、男女間賃金差異公表(301人以上) | 2016年完全施行、2022年改正 |
| 男女共同参画社会基本法 | 第4条 | 固定的役割分担意識に基づく社会慣行の是正を基本理念として明示 | 1999年施行 |
| 育児・介護休業法 | 第23条(2025年改正) | 3歳未満の子を持つ社員への柔軟な働き方確保措置の義務化 | 2025年4月施行(第1段階) |
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
ガラスの天井問題に直接・間接に関わる2007年以降の主な法改正・政策は以下のとおりです。
- 2007年:男女雇用機会均等法改正——間接差別禁止規定の整備、男性も保護対象に明記
- 2014年:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」開設——ポジティブアクション実施状況の公開
- 2015年:女性活躍推進法成立(翌2016年完全施行)——300人超の事業主に行動計画策定・届出・情報公表を義務化
- 2019年:女性活躍推進法改正——対象拡大(101人以上の事業主)、「えるぼし認定」制度の整備
- 2022年:女性活躍推進法改正(令和4年7月施行)——男女間賃金格差の情報公表義務(301人以上)
- 2023年:政府「女性版骨太の方針2023」——上場企業の女性役員比率30%目標(2030年)を明示
- 2025年:育児・介護休業法改正施行——柔軟な働き方確保措置の義務化(3歳未満子を持つ社員向け)
- 2026年時点:男女間賃金差異公表義務の対象拡大(101人以上への拡大に向けた議論継続中)
議論の現在地
ガラスの天井の解消をめぐっては、政策の方向性では概ね合意が得られている一方で、具体的な手段について立場が分かれています。
【クオータ制・目標数値をめぐる議論】
女性役員・管理職の比率目標に関して、法的拘束力を持つクオータ制(割当制)の導入を求める意見があります。根拠として挙げられるのは、ノルウェー(2003年法制化)・フランス(2011年)・ドイツ(2015年)などの実績であり、強制的措置なしには比率が変わらないという実証研究です。一方で、「能力・実績主義に反する」「本来必要な組織環境の整備が後回しになる」という批判的意見もあります。日本政府は現時点では努力義務・情報公表・認定制度にとどめており、強制的クオータ制は採用していません。
【「見せかけの多様性」(トークニズム)批判】
比率数値の達成のみを目的として、実質的な権限や予算を持たない地位に女性を配置する「トークニズム(Tokenism)」は、ガラスの天井を解消するどころか、組織の実態を見えにくくするという批判があります。数値目標と実質的な意思決定権の確保は、別個に評価・検証する必要があります。
【「ガラスの崖」という新たな概念】
英国の心理学者ミシェル・ライアンとアレックス・ハスラムが2005年に提唱した「ガラスの崖(Glass Cliff)」は、組織が危機に陥った際にはじめて女性をリーダー職に起用し、失敗リスクを女性が背負う構造を指します。ガラスの天井を突破した後にも、別の形の障壁や不利が生じる可能性があるという問題提起であり、2026年時点でも継続的に研究・議論されています。
残された課題
①中小企業・非上場企業への政策の波及
女性活躍推進法の情報公表義務は主に101人以上の企業が対象です。全雇用者の約7割が働く中小企業での取り組みが広がらなければ、社会全体でのガラスの天井の解消には限界があります。中小企業向けの支援策(助成金・コンサルタント派遣等)は存在しますが、活用率はまだ高くありません。
②男性の働き方改革との連動
ガラスの天井の構造的要因の一つである「長時間労働・転勤前提の評価制度」は、男性の働き方を変えない限り根本的な解決が難しいといえます。男性育休取得率は2023年度に30.1%(厚生労働省)に達したものの、取得期間が短期間にとどまるケースが多く、育児負担の男女均等化はまだ道半ばです。
③評価制度の客観化・透明化
昇進基準の明文化、評価プロセスの記録化、ダブルブラインド審査(評価者・被評価者の属性情報を除いた評価)など、仕組みによるバイアス排除の取り組みは、先進企業の一部にとどまっています。国際標準(ISO 30415:Human resource management—Diversity and inclusion)の活用など、体系的なアプローチの普及が課題です。
諸外国の対策との比較
クオータ制を採用した国々の事例
ガラスの天井対策として最も強力な政策手段の一つがクオータ制です。ノルウェーは2003年に上場企業の取締役会における女性比率40%以上を義務化しました。未達の企業は会社解散命令を受ける可能性があるという強制力の高い制度で、施行後数年で上場企業役員の女性比率が大幅に上昇しました。
フランスは2011年の「コペ=ジンバーマン法」により、大企業・上場企業の取締役会で女性比率40%を義務化(段階的施行、2017年完全適用)。2023年時点の同国取締役女性比率は43%前後に達しています。ドイツも2015年から上場企業かつ完全共同決定会社(従業員2000人超で労使同等参加の監査役会を持つ企業)に対し、監査役会の女性比率30%を義務化しました。
日本の立ち位置と政策的選択
日本は現時点で強制的クオータ制を採用せず、「情報公表による見える化」と「任意の認定制度(えるぼし・くるみん等)」を軸とした政策設計をとっています。2023年の「女性版骨太の方針2023」では、2025年までにプライム市場上場企業の取締役会で女性1名以上、2030年までに女性比率30%以上という目標が示されました。この目標は「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式(達成できない場合は理由の説明義務)で運用されており、法的罰則はありません。
| 国名 | 主要政策・制度 | 法的強制力 | 女性管理職比率(推計) |
|---|---|---|---|
| ノルウェー | 上場企業取締役女性40%クオータ法(2003年) | 強制(未達は上場廃止も) | 約40% |
| フランス | 役員会の女性40%クオータ法(2011年) | 強制(罰則あり) | 約43% |
| ドイツ | 上場大企業監査役会の女性30%クオータ(2015年) | 強制 | 約36% |
| 英国 | ハンプトン=アレクサンダー・レビュー(目標33%、自主) | 自主(コンプライ・オア・エクスプレイン) | 約36% |
| 米国 | SEC多様性情報開示規則(2020年代以降) | 開示義務(比率目標なし) | 約40% |
| 韓国 | 上場企業の女性取締役ゼロ禁止(2020年改正) | 強制 | 約20% |
| 日本 | 女性活躍推進法・女性役員比率30%目標(2030年) | 自主・情報公表 | 約15%(上場企業取締役) |
職場でできるガラスの天井の克服策
人事評価制度の客観化と透明化
昇進基準の明文化と評価プロセスの透明化は、バイアスを排除する基本的な手段です。具体的な取り組みとして、業績指標・コンピテンシー要件の定量化、評価シートの構造化(段階的な数値評価の導入)、複数の評価者による査定(360度評価など)、昇進推薦プロセスの記録化が挙げられます。
また、昇進推薦委員会の構成に多様な属性を持つメンバーを加えることも、「お気に入り(affinity)バイアス」の低減に効果があるとされています。評価の根拠を文書化することで、後から検証できる仕組みを整えることが重要です。
メンタリング・スポンサーシップ制度の導入
メンター(相談相手・助言者)制度は、非公式なネットワークへのアクセスが制限されがちな社員の成長を後押しする仕組みです。さらに近年注目されているのが「スポンサーシップ(Sponsorship)制度」です。スポンサーとはメンターとは異なり、特定の人材を意思決定の場で積極的に推薦する役割を担います。自組織への推薦・昇進候補リストへの記載・プロジェクトへのアサインなど、具体的な行動を伴う点でメンタリングと異なります。
米国のシンクタンク「Catalyst」の調査(「The Sponsorship Imperative」等)では、スポンサーを持つ女性は昇進確率が高くなるという結果が示されています。日本企業でも大手を中心にスポンサーシップ制度を導入する動きが広がっています。
柔軟な働き方とキャリア継続支援
育児期・介護期の短時間勤務・テレワーク・フレックスタイム制度の整備は、従来「降格やキャリア中断の時期」になりやすかった期間を、昇進パスとつないで継続できる環境にするための有効な手段です。
育児・介護休業法(平成3年法律第76号、2025年改正)第23条では、3歳になるまでの子を養育する社員に対して、テレワーク・短時間勤務・フレックスタイム・始業時刻等の変更のいずれかを含む「柔軟な働き方確保措置」を事業主が講じることが2025年4月から義務付けられました。こうした法的義務の活用は、ガラスの天井の構造的要因の一つである「育児期の昇進機会喪失」を緩和する取り組みとして位置づけられます。
さらに、育休取得後の職場復帰支援プログラム(復帰前面談・スキルアップ研修・段階的な業務復帰)は、育休中のキャリア断絶感を和らげ、復帰後の昇進機会への橋渡しとなります。具体的な事案については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
相談窓口・参考資料
職場での不当な取り扱い(昇進差別・ハラスメントなど)が疑われる場合や、制度について詳しく知りたい場合は、以下の公的機関に相談することができます。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)
男女雇用機会均等法・女性活躍推進法に基づく相談窓口。性差別・ハラスメントの相談受付のほか、調停の申請(均等法第18条、2026年10月1日以降は第24条)も可能です。最寄りの労働局は厚生労働省サイト(https://www.mhlw.go.jp/)から検索できます。 - 法テラス(日本司法支援センター)
電話:0570-078374(月曜~金曜 9:00~21:00 / 土曜 9:00~17:00)
弁護士費用の立替制度(民事法律扶助)と法律相談窓口の案内を提供しています。 - 女性の人権ホットライン
電話:0570-070-810(月曜~金曜 8:30~17:15、祝休日除く)
法務省人権擁護機関が運営する相談窓口です。職場での不当な扱いや権利侵害についても相談できます。
まとめ
ガラスの天井は、個人の能力や努力不足によるものではなく、組織慣行・制度設計・社会的な役割規範・アンコンシャスバイアスが複合的に絡み合って生じる構造的な障壁です。
日本では女性活躍推進法の整備・情報公表義務化・えるぼし認定制度など、「見える化」と「インセンティブ付与」を中心とした政策が積み重ねられてきました。しかし、上場企業の取締役女性比率は約15%、管理職全体での女性比率は約12.9%と、2030年の30%目標に向けた達成は容易ではありません。
ガラスの天井の解消には、法令遵守にとどまらず、評価制度の客観化・人材育成の仕組みの整備・職場文化の変革が必要です。また、ガラスの天井を突破した後にも「ガラスの崖」という別の課題が存在することへの認識も求められます。制度と意識の両面からのアプローチが、2026年以降の日本の職場における重要な課題といえます。
よくある質問(FAQ)
Q. ガラスの天井とはなんですか?
ガラスの天井とは、能力・資格・意欲とは無関係に、性別や人種などの属性を理由として組織内での昇進が阻まれる、目に見えない構造的障壁のことです。透明(ガラス)だが確かに存在する(天井)という意味の比喩で、1980年代の米国で広まった概念です。個人の努力では乗り越えにくい、制度・慣行・意識が複合的に絡み合った問題として捉えられています。
Q. ガラスの天井は法律で禁止されていますか?
明文で「ガラスの天井」を禁止する条文はありませんが、関連する法令が規制の根拠になります。男女雇用機会均等法第6条は昇進・配置における性差別を禁止しており、同法第7条は間接差別を禁止しています。また女性活躍推進法は、管理職女性比率などの情報公表を事業主に義務付けることで、実態の「見える化」を通じた改善を促しています。具体的な差別事案については、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談することができます。
Q. 日本の女性管理職比率はどのくらいですか?
厚生労働省「雇用均等基本調査」(2023年)によれば、係長相当職の女性比率は約19.9%、課長相当職は12.9%、部長相当職は7.9%です。役職が上がるにつれて女性比率が低下するこの「パイプライン問題」は、ガラスの天井の存在を統計的に示す指標として広く参照されています。政府は2020年代の可能な限り早期に指導的地位の女性割合を30%程度にする目標(202030)を掲げています。
Q. 「ガラスの崖」とはなんですか?ガラスの天井とどう違いますか?
ガラスの崖(Glass Cliff)は、英国の研究者ミシェル・ライアンとアレックス・ハスラムが2005年に提唱した概念です。組織が危機に陥った際にはじめて女性をリーダー職に起用し、失敗リスクを女性が担わされる構造を指します。ガラスの天井が「昇進への参入障壁」を示すのに対し、ガラスの崖は「昇進後に直面する別のリスク」を示します。ガラスの天井を突破した後も、不利な状況に置かれる可能性があるという問題提起として、2026年時点でも研究・議論が続いています。
Q. 企業はガラスの天井の解消に法的義務がありますか?
すべての企業に直接的な「管理職女性比率の目標達成義務」はありませんが、101人以上の企業には女性活躍推進法に基づく行動計画策定・情報公表義務があります。また男女雇用機会均等法は昇進・配置での性差別を禁止しており、違反した場合は都道府県労働局の是正勧告・企業名公表の対象となりえます(第29条、2026年10月1日以降は第35条)。301人以上の企業には2022年改正以降、男女間賃金差異の情報公表も義務付けられています。
Q. アンコンシャスバイアス研修に法的な実施義務はありますか?
アンコンシャスバイアス研修の実施そのものを直接義務付ける法令は、2026年時点では存在しません。ただし、内閣府「職場におけるアンコンシャス・バイアス研修に関する報告書」(2022年)は普及促進のためのガイドラインを示しており、女性活躍推進法に基づく行動計画の取り組み事項として位置づける企業が増えています。パワハラ防止指針(職場のパワーハラスメント防止のための指針)でも、研修・啓発が推奨されています。

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