育児休業(育休)を取得すると、一定の要件を満たす期間は健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料が免除されます。従業員の手取り収入が育休中に減少するなかで、この免除制度は育休取得の経済的負担を軽減する重要な仕組みです。一方、2022年10月に免除の要件が大きく改められ、月末を跨ぐだけで免除を受けられた旧ルールから新たな要件が加わりました。
改正の背景には、賞与の支払い月に合わせて数日間だけ育休を取得し、社会保険料の負担を免れるという慣行への問題提起がありました。2025年以降の政策審議でも「制度の趣旨に沿った育休取得」と「免除要件の公平性」が継続的な論点となっています。
民間企業の男性育休取得率は令和7年度(2025年度)に50.9%まで上昇し(厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」2026年7月31日公表)、1桁台が続いた2010年代と比べて制度の実態も大きく変わりました。女性の育休取得率が88.3%(同調査・同時点)であることを踏まえると、男女間の差は依然として残りますが、男性の育休が珍しくなくなりつつある現在こそ、免除制度の仕組みと論点を正確に把握することが重要です。
本記事では、育休中の社会保険料免除の仕組み・要件・申請方法を整理したうえで、2022年10月改正の内容と2026年時点の政策議論を解説します。育休取得を検討している方、制度を運用する企業の人事担当者、男女共同参画の文脈で育休制度を学ぶ方を対象としています。

育休中の社会保険料免除制度とは
免除の対象となる保険料の種類
育児休業等の期間中に免除される社会保険料は、健康保険料(協会けんぽや各組合健保の保険料)・厚生年金保険料・介護保険料(40歳以上が対象)の3種類です。事業主負担分と労働者負担分の両方が免除される点が特徴です。
一方、雇用保険料は社会保険(健康保険・厚生年金)とは別の制度であり、育休中の免除対象には含まれていません。なお、育休中の生活費補填として支給される育児休業給付金は雇用保険から支払われる別の制度であり、社会保険料免除とは根拠法令も仕組みも異なります。
免除の根拠は健康保険法および厚生年金保険法に定められた育児休業等に関する規定です。具体的な条文番号や申請様式の詳細については、日本年金機構の公式ウェブサイトまたは加入している健康保険組合・全国健康保険協会(協会けんぽ)にお問い合わせください。
免除を受けるための基本的な仕組み
社会保険料の免除は、労働者が育児休業等を開始した月から終了した月の分が対象となります。免除を受けるには、事業主が所定の申出書を日本年金機構等に提出する手続きが必要です。労働者が直接申請するのではなく、事業主を介した手続きが前提となっています。
免除を受けた期間であっても、健康保険の給付(療養の給付や出産育児一時金等)は通常どおり受けられます。厚生年金については、免除期間中の保険料を納付したものとみなして年金額を計算する仕組みがあるため、育休中の社会保険料免除が将来の年金額を直接減らすことにはなりません。この点が、育休取得の経済的な安心感を支えるひとつの要素となっています。
産後パパ育休(出生時育児休業)との関係
育児・介護休業法第9条の2から第9条の5に規定される産後パパ育休(出生時育児休業)は、2022年10月1日に施行された制度です。子の出生日から8週間以内を上限に最大4週間(28日)まで取得でき、2回に分割することも可能です。産後パパ育休の期間も通常の育児休業と同様に社会保険料の免除対象となりますが、後述する2022年10月改正後の要件が適用されます。
月例保険料の免除要件(2022年10月改正後)
月末時点で育休中であることが基本
月例の社会保険料(毎月の給与から控除する保険料)が免除されるためには、「その月の月末時点で育児休業等を取得中であること」が基本的な要件です。月の途中から育休を開始した場合でも、月末に育休が続いていれば免除の対象となります。逆に、月末の前日までに育休が終了している月は月例保険料の免除対象になりません。
2022年10月改正で追加された「14日以上」要件
2022年10月1日の改正以前は、月末時点で育休中であれば月例保険料は免除されていました。この旧ルールのもとでは、月の最終1日~2日だけ育休を取得した場合でも、その月の社会保険料が全額免除される状況が生じていました。
改正後は、月末時点で育休中であることに加えて、「その月内に育児休業等を取得した日数が14日以上であること」という要件が追加されました。1か月を跨いで育休を取得している場合でも、月ごとに14日以上の育休日数があるかどうかを確認する必要があります。月内での育休日数が14日未満の月は、月末に育休中であっても月例保険料の免除対象から外れます。
たとえば、5月20日から6月10日まで育休を取得した場合を考えると、5月は12日間(20日~31日)しか育休日数がないため、5月分の月例保険料は免除されません。6月は10日間(1日~10日)となりやはり14日未満で免除対象外となります。一方、5月1日から6月30日まで連続して育休を取得した場合は、5月・6月ともに14日以上の育休日数を満たすため、両月の月例保険料が免除されます。
賞与に係る社会保険料の免除要件
1か月超の育休が必要となる改正内容
賞与(ボーナス)に係る社会保険料の免除については、月例保険料とは別の要件が定められています。2022年10月改正前は、賞与の支払い月の月末に育休中であれば賞与保険料も免除されていました。このルールを活用して、賞与支払月の月末のみ育休を取得して賞与保険料を免れるという行為が問題視されていました。
改正後は、賞与保険料の免除を受けるためには「育児休業等の開始日から終了予定日(終了日の前日まで)の期間が1か月を超えること」が要件となりました。すなわち、育休期間が1か月以内であれば賞与保険料は免除されません。これにより、賞与月に合わせた短期育休による保険料回避が実質的に封じられました。
賞与支払月と育休期間の重なり方の確認
賞与保険料の免除の判定は、賞与が支払われた月に育休等の期間があることに加え、その育休が1か月超であるかどうかで決まります。たとえば、6月末に賞与が支払われる企業で、5月15日から7月16日まで育休を取得している場合は、育休期間が2か月を超えるため6月賞与の保険料は免除対象です。一方、6月15日から6月30日までの短期育休では育休期間が1か月以内となり、賞与保険料は免除されません。
賞与保険料の免除要件の詳細や個別の判定方法は、所管の年金事務所または協会けんぽの窓口で確認することを推奨します。育休スケジュールと賞与支払日の組み合わせによって判定が変わるため、人事担当者は事前確認が安全です。
| 保険料の種類 | 改正前(2022年9月以前)の要件 | 改正後(2022年10月以降)の要件 |
|---|---|---|
| 月例保険料(毎月の給与分) | 月末時点で育休中であれば免除 | 月末時点で育休中 かつ 当月の育休日数が14日以上であれば免除 |
| 賞与に係る保険料 | 賞与支払月の月末に育休中であれば免除 | 育休期間が1か月を超える場合に免除(1か月以内は免除されない) |
免除の申請手続きと復職後の注意点
事業主を通じた申請が基本
社会保険料免除の申請は、労働者本人ではなく事業主(会社の人事・総務担当者)が行います。「育児休業等取得者申出書(健康保険・厚生年金保険)」を日本年金機構または加入している健康保険組合に提出することで申請します。申請書の書式や提出期限の詳細は日本年金機構の公式ウェブサイトで確認してください。
免除の適用を受けるためには事業主による適切な申請が欠かせません。申請が漏れた場合は遡って手続きできる場合もありますが、手続きが遅れると従業員の給与計算や年金記録に影響が出る可能性があります。育休開始が決まったら、早めに人事・総務担当者と連携することが望ましいといえます。
育休終了後の標準報酬月額の改定
育児休業から復職した後、時短勤務等によって給与額が変わる場合には、標準報酬月額(社会保険料の計算基準となる月収の区分)が改定される場合があります。育休終了後の給与水準によっては、社会保険料の額が育休前と異なります。
復職後の標準報酬月額については「育児休業等終了時報酬月額変更届」を届け出ることで、変更後の給与実態に基づいた改定が可能です。この届出は義務ではなく、労働者からの申出に基づいて事業主が手続きします。詳細は年金事務所または加入健康保険の窓口にご相談ください。
免除期間終了後の保険料再開の把握
育休が終了して職場復帰した月(または育休終了月の翌月)から、社会保険料の控除が再開されます。育休中は保険料控除がないため、復職直後の給与明細で控除額が急増したように見える場合があります。事前に人事担当者から説明を受けておくと、復職後の給与計算のミスや誤解を防ぐことができます。
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現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
- 2010年 育児・介護休業法改正: 専業主婦(夫)配偶者を持つ労働者も育休を取得できることが明確化されました。子の看護休暇の取得単位が半日単位に拡大され、3歳未満の子を持つ労働者への短時間勤務制度が義務化されました。
- 2021年 育児・介護休業法改正(2022年10月施行): 産後パパ育休(出生時育児休業・育児・介護休業法第9条の2)が新設され、子の出生後8週間以内に最大4週間の育休が取得できるようになりました。男性の育休取得を後押しするための措置として導入され、2回分割取得も可能とされました。
- 2022年10月 社会保険料免除要件の改正: 月例保険料の免除に当月14日以上という育休日数要件が追加され、賞与保険料の免除には育休期間が1か月を超えることが必要となりました。制度の濫用防止と公平性確保を目的とした見直しです。
- 2023年 育児・介護休業法改正(2025年施行): 育児休業取得状況の公表義務が常時雇用する労働者が300人を超える企業に拡大されました(育児・介護休業法第22条の2)。また、3歳から就学前の子を持つ労働者への柔軟な働き方を実現するための措置(同法第23条の3)が2025年10月1日から義務化されました。
議論の現在地
2022年10月の改正後も、育休と社会保険料免除をめぐる議論は続いています。賞与月に合わせた短期育休取得による賞与保険料の回避については、1か月超要件の導入により実質的に封じられました。しかし、月例保険料の14日以上要件を最短で満たす取得(たとえば月の中頃から月末までの14日間のみ育休を取得するケース)については、制度上は要件を充足していても「育休の本来の趣旨に合致しているか」という問いかけが残っています。
一方、反対の立場からは「短期育休であっても取得すること自体に男性の育児参画を促す意義がある」「要件の厳格化が取得を萎縮させかねない」という意見もあります。財政審議会や社会保障審議会でも免除制度のあり方が継続議題となっており、免除が財政に与える中長期的な影響をどう評価するかが問われています。
賛否両論が存在する論点であり、本記事では特定の立場を支持しません。ただし、制度の趣旨が「育休取得期間中の家計の経済的支援と育休取得促進による少子化対策」にあることは、議論の共通認識となっています。
残された課題
第一に、非正規労働者への適用格差の問題があります。育休中の社会保険料免除は、健康保険・厚生年金に加入していることが前提です。雇用期間が短い有期雇用労働者や週の所定労働時間が短いパートタイム労働者のなかには社会保険未加入の方もおり、育休取得自体は要件を満たせば有期雇用でも可能ながら、社会保険料免除の恩恵が及ばないケースが生じています。
第二に、自営業者・フリーランスの適用外という問題があります。国民健康保険や国民年金に加入する自営業者やフリーランスには、育休中の保険料免除制度が存在しません。フリーランスを保護する制度整備は2024年に施行された法律で前進しましたが、育休中の社会保険料免除に相当する手当はなく、自営業者の育児支援は依然として不十分な領域とされています。
第三に、14日要件の実効性の評価という課題があります。産後パパ育休(最大28日)と月例保険料の14日要件を組み合わせた場合の制度活用のあり方について、取得実態のデータに基づく検証が求められています。男性育休取得率が50.9%(令和7年度)に達した現在、取得日数の分布や免除の適用状況を把握する統計整備が今後の政策立案に必要とされています。
男女共同参画の視点から見る免除制度
経済的インセンティブと男性育休の促進
社会保険料免除制度は、育休取得を経済的に後押しする仕組みとして機能しています。育休中は育児休業給付金(雇用保険から支給)を受け取れるうえ、社会保険料の負担もなくなるため、取得期間中の実質的な手取り収入の落ち込みが一定程度緩和されます。この経済的メリットは、特に収入への影響を懸念して育休取得をためらう男性に対する後押しになりうるものです。
第6次男女共同参画基本計画(令和8年3月13日閣議決定)は、民間企業の男性育休取得率について2030年までに85%とする成果目標を掲げています。現状の50.9%(令和7年度)から85%への到達には、取得率のみならず取得期間の長期化が課題とされており、社会保険料免除をはじめとする経済的支援の効果的な設計が引き続き問われています。
ジェンダー平等の観点から見た制度設計の意義
育休中の社会保険料免除制度の受益者は、かつてはほぼ女性(長期育休取得者)に限られていました。2022年改正は、この実態を踏まえた制度の公平性確保と信頼性維持を目的としており、制度の利用が男女双方に広がりつつある現状に対応したものです。
男女共同参画の観点からは、免除要件を形式的に満たす最短期間の取得ではなく、子の誕生直後の養育に実質的に関わる育休取得が広がることが長期的なジェンダー平等の実現につながるとされています。育休取得を職場文化として定着させ、取得後のキャリアが不当に不利にならない環境を整備することが、制度の趣旨を活かすうえで欠かせない条件です。具体的な事案の法的判断については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
公的相談窓口
社会保険・年金に関する相談
- 日本年金機構(ねんきんダイヤル): 0570-05-1165。厚生年金保険・健康保険(協会けんぽ加入の場合)の育休中免除の手続き・要件についての問い合わせ先です。
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)各都道府県支部: 健康保険の保険給付・保険料免除について。詳細は協会けんぽの公式ウェブサイトでご確認ください。
育休取得に関する労働相談
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室): 育児・介護休業法の解釈、育休取得に関する労使トラブルの相談窓口。厚生労働省のウェブサイトから各都道府県の窓口を検索できます。
- 法テラス(日本司法支援センター): 0570-078374。育休取得をめぐる法的な問題について相談できます。収入要件を満たす場合は無料相談も利用できます。
まとめ
免除制度の主要ポイント
育休中の社会保険料免除制度は、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料を対象に、育児休業等の期間中の経済的負担を軽減する仕組みです。2022年10月の改正で、月例保険料には当月14日以上の育休日数要件が、賞与保険料には1か月超の育休期間要件が追加されました。これにより、賞与月の月末だけを跨ぐ形での短期育休による保険料回避は封じられています。
免除期間中も厚生年金の保険料は納付したものとみなして年金額が計算されるため、育休中の免除が将来の年金額を直接減らすことにはなりません。申請は事業主を通じて行われるため、育休開始前に人事・総務担当者と手続きを確認してください。
2026年以降の注目点
男性育休取得率が50.9%(令和7年度)に上昇した現在、社会保険料免除の受益者は男女双方に広がっています。第6次男女共同参画基本計画の2030年目標(男性育休85%)に向けて、免除制度の実態と公平性をめぐる政策議論は今後も続く見通しです。最新の要件や手続き様式については、日本年金機構・協会けんぽ・都道府県労働局の公式情報を随時ご確認ください。最新の改正状況はe-Gov法令検索でもご確認いただけます。
よくある質問(FAQ)
育休中はどの社会保険料が免除されますか?
育児休業等の期間中は、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料(40歳以上の方)が免除されます。事業主負担分と労働者負担分の両方が対象です。ただし2022年10月以降は月例保険料に当月14日以上の育休日数要件が、賞与保険料には1か月超の育休期間要件があります。雇用保険料は免除の対象外です。
産後パパ育休(出生時育児休業)でも社会保険料は免除されますか?
産後パパ育休(育児・介護休業法第9条の2で定める出生時育児休業)も社会保険料免除の対象です。2022年10月改正後の要件(月例保険料は当月14日以上、賞与保険料は育休期間が1か月超)が適用されます。最大28日間の産後パパ育休を連続して取得すれば、月をまたぐ場合は免除要件を満たしやすくなります。
育休中に社会保険料が免除されても将来の年金額は減りますか?
厚生年金については、育休中の免除期間は保険料を納付したものとみなす仕組みがあります。そのため、育休中の社会保険料免除が将来の年金額を直接減らすことはありません。ただし、育休後の復帰後に時短勤務等で報酬が下がると、それ以降の保険料の計算基準(標準報酬月額)が変わり、将来の年金額算定に影響することがあります。
賞与保険料の免除を受けるには育休をどのくらい取れば良いですか?
2022年10月改正後は、育児休業等の開始日から終了予定日の前日までの期間が1か月を超えることが賞与保険料の免除要件です。たとえば賞与が6月に支払われる場合、6月以前から翌月以降にかけて1か月超の育休を取得していれば免除対象となります。個別のスケジュールによって判定が変わるため、年金事務所や協会けんぽに事前確認することを推奨します。
社会保険料免除の申請はどのようにすればよいですか?
申請は労働者本人ではなく事業主(会社の人事・総務担当者)が行います。「育児休業等取得者申出書(健康保険・厚生年金保険)」を日本年金機構または加入の健康保険組合に提出します。育休開始が決まったら早めに人事担当者に連絡し、申請書の準備を進めてください。
自営業者やフリーランスも育休中の社会保険料免除を受けられますか?
国民健康保険・国民年金に加入する自営業者やフリーランスには、育休中の社会保険料免除制度は適用されません。免除制度は健康保険・厚生年金(会社員等が加入する社会保険)を前提とした仕組みです。自営業者の育児支援については、所管の市区町村や関係省庁の情報をご確認ください。

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