夫が先に亡くなったとき、妻は住み慣れた自宅に住み続けることができるのでしょうか。この問いは、高齢の配偶者を抱える多くの家庭が直面してきた切実な問題です。旧来の相続法のもとでは、配偶者が自宅を相続しようとすると生活費となる現金・預貯金の取り分が少なくなってしまうというジレンマが長年存在してきました。とりわけ、家事・育児・介護を主に担ってきた高齢女性にとって、このトレードオフは老後の生活基盤を左右するものでした。
この問題を解決するために、2018年(平成30年)の民法改正によって新設されたのが配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)です。生存している配偶者が、亡くなった配偶者の所有建物に終身または一定期間、無償で住み続ける権利を法的に保障する制度で、2020年(令和2年)4月1日から施行されています。
本記事では、配偶者居住権の定義と法的骨格、2018年民法改正の背景と立法経緯、財産評価への影響、そして男女共同参画・ジェンダー平等の観点からの現代的評価を体系的に解説します。相続・離婚・家族法に関心のある方、企業の人事・法務担当者、自治体の男女共同参画相談員として実務に携わっている方を主な対象として、2026年時点の最新情報をお届けします。

配偶者居住権とは何か
配偶者居住権の基本定義
配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者が、相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた場合に、その建物の全部について無償で使用・収益できる権利のことを指します(民法第1028条第1項、最終改正: 令和8年法律第45号・2026年6月24日施行)。
この権利は、遺産分割協議または家庭裁判所の審判によって成立し、登記を備えることで第三者にも対抗できます。成立した場合、配偶者は建物の所有権を取得しなくても、その建物に住み続けることができます。つまり、「所有権」という重い財産を取得しなくても「住む権利」だけを取得できる仕組みです。これによって、残された配偶者が「自宅か、生活費か」という選択を迫られずに済むようになりました。
配偶者居住権は財産的価値を持つ権利であるため、遺産分割においては評価額が算出され、取得した配偶者の相続財産の一部として計上されます。建物の所有権(居住権の負担付き)は、ほかの相続人が取得することが多く、居住権者と所有権者が分離する形になります。
配偶者短期居住権との違い
民法には、長期型の「配偶者居住権」のほかに、短期型の配偶者短期居住権(民法第1037条)も規定されています。両者は補完的な関係にあり、相続開始直後から遺産分割完了後にかけての居住保護をカバーします。
- 配偶者居住権(長期型): 遺産分割協議・遺言・死因贈与によって成立。存続期間は原則として配偶者が亡くなるまでの終身(遺産分割協議で別途期間を定めることも可)。登記が必要(民法第1031条)。
- 配偶者短期居住権(短期型): 相続開始と同時に当然に成立。遺産分割が終了する日または相続開始から6か月のいずれか遅い日まで存続(民法第1037条第1項第1号)。登記不要。
配偶者短期居住権は、遺産分割協議が長引く場合でも配偶者が直ちに居住の場を失わないよう保護する「暫定的な措置」として機能します。一方、配偶者居住権(長期型)は長期的・安定的な居住を保障するものであり、遺産分割の中で積極的に取得を検討することが、残された配偶者の生活設計において重要な選択肢となっています。
制度の趣旨とジェンダー平等の視点
配偶者居住権が創設された直接の政策目的は、高齢配偶者(特に高齢女性)の生活の安定を図ることにあります。厚生労働省「令和5年簡易生命表」によれば、日本人の平均寿命は男性81.09年、女性87.14年であり、女性が男性より約6年長く生きる傾向があります。夫が先に亡くなるケースが統計的に多い状況のもと、専業主婦として家事・育児・介護を担ってきた女性は、自己の収入・財産が少ない傾向があります。
旧法のもとでは、相続で自宅を得ようとすると現金が手元に残らず、逆に現金を確保しようとすると自宅を失うリスクがありました。配偶者居住権の新設によって、居住の権利と流動資産(預金等)を切り離して確保できるようになり、高齢配偶者の経済的・生活的安定が強化されました。無償ケア労働(アンペイドワーク)のジェンダー格差が現実として存在する社会において、この制度は特に女性の老後の住まいを保護する役割を担っていると評価されています。
2018年民法改正の背景と経緯
旧法下での「住まいを失うリスク」
2018年改正以前の民法のもとでは、配偶者の法定相続分は子がいる場合に2分の1でした。たとえば、夫が亡くなり、相続財産が「自宅(評価額2,000万円)+預金1,000万円」の合計3,000万円であった場合、法定相続人が配偶者と子1人であれば、配偶者の法定相続分は1,500万円です。
ここで配偶者が自宅(評価額2,000万円)を相続しようとすると、法定相続分(1,500万円)を500万円超えてしまいます。このため、差額の500万円を代償金として子に支払うか、または自宅の取得を断念するほかありませんでした。収入のない高齢の配偶者が代償金500万円を用意することは困難であり、長年暮らした自宅を手放さなければならない状況が生じていました。
このジレンマは、特に「夫名義の自宅に長年住んできた高齢女性」が直面しやすい問題でした。自己の収入や貯蓄が乏しく、住み慣れた環境を失えば生活が一変してしまうという切実なリスクが、改正前の制度設計のもとで顕在化していたのです。
改正前の対応策とその限界
旧法のもとでも、実務上はいくつかの工夫が行われてきました。たとえば、居住用不動産を遺贈または死因贈与によって配偶者に渡す方法や、生前に自宅を配偶者へ贈与するという対応がありました。また、配偶者の法定相続分を超える自宅取得を認める代わりに、他の相続人から「もめない」旨の合意を得るといった実務的な工夫もみられました。
しかし、これらの方法には遺留分(民法第1042条以下。法定相続人が最低限取得できる割合)との調整問題、贈与税・登録免許税等の税務上の負担、相続人間の合意が得られないリスクなど、多くの困難が伴いました。制度的に「住む権利」と「所有権」を分離して設定できる仕組みの整備が、長年の立法課題となっていました。
法制審議会の議論から立法へ
法務省の諮問機関である法制審議会(民法(相続関係)部会)は、2014年(平成26年)から配偶者の居住保護の法的強化を審議してきました。高齢社会の急速な進展、夫婦間の経済格差、そして「家事労働に対する評価が相続において十分に反映されていない」という問題意識が議論の基盤となりました。
4年間の審議を経て、2018年(平成30年)7月6日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)」が成立しました。同法により、配偶者居住権(民法第1028条以下)・配偶者短期居住権(同第1037条以下)・特別の寄与(同第1050条)・遺留分制度の見直し(同第1046条)などが一括して改正されました。配偶者居住権の規定は2020年(令和2年)4月1日に施行されています。
配偶者居住権の成立要件と法的効力
配偶者居住権が認められる条件
配偶者居住権(長期型)が成立するためには、以下の条件を全て満たす必要があります(民法第1028条第1項)。
- 相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと。「居住」の判断は相続開始時点の実態によります。
- 遺産分割協議・遺言・死因贈与・家庭裁判所の審判のいずれかによって取得が認められること(民法第1029条)。
- 被相続人が当該建物を配偶者以外の者と共有していないこと(同条第1項ただし書き)。第三者との共有状態では設定できません。
条件3の共有禁止要件は実務上の注意点です。たとえば、夫と子が共有名義になっている建物では、妻が配偶者居住権を取得できません。遺産分割協議において相続人全員の合意が得られない場合は、家庭裁判所の審判(民法第1029条)によって取得することも可能ですが、配偶者の生活の維持のために特に必要があると認められることが要件となっています。
登記と第三者対抗要件
配偶者居住権は、登記をしなければ第三者に対抗することができません(民法第1031条第2項)。遺産分割協議や審判が確定した後は、速やかに居住建物について配偶者居住権の設定登記を行うことが重要です。
登記は、配偶者(登記権利者)と居住建物の所有者となった相続人(登記義務者)が共同で行います。建物所有者には配偶者居住権の登記への協力義務があり(民法第1031条第1項)、所有者が協力しない場合には訴訟によって登記手続きを強制することも可能とされています。
登記を備えることで、将来的に建物所有者が変わった場合(たとえば所有者が建物を第三者に売却した場合)でも、配偶者は新所有者に対して居住の継続を主張できます。
消滅事由と存続期間
配偶者居住権は、次の事由によって消滅します(民法第1032条・第1035条・第1036条等)。
- 配偶者の死亡(終身の場合)
- 存続期間の満了(期間を定めた場合)
- 配偶者による居住権の放棄(居住建物所有者に対する意思表示)
- 居住建物の全部滅失その他の事由による使用・収益不能
- 居住建物所有者による解除。居住建物の無断改修・無断転貸・善管注意義務違反など一定の事由がある場合に限られます(民法第1032条第4項)。
消滅した場合、配偶者は居住建物を返還しなければならず、通常の使用によって生じた損耗や経年変化を除いて原状回復義務が生じます(民法第1035条第2項・同第621条準用)。
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配偶者居住権の評価と相続財産への影響
配偶者居住権の財産的評価方法
配偶者居住権は「使用・収益できる権利」として財産的価値を持つため、遺産分割・相続税申告においてその価額を算出する必要があります。国税庁の通達(令和2年4月施行の相続税法施行令等改正)では、おおむね以下の考え方で評価されます。
- 建物の相続税評価額(固定資産税評価額)を基礎とし、配偶者の平均余命・建物の耐用年数残年数・基準年利率(法定利率)をもとに計算した複利現価率を用いて「使用の期待総価値」を算出します。
- 「配偶者居住権部分の価額」と「居住建物所有権(負担付き)の価額」に分けて計算し、双方を合算すると建物評価額全体と概ね一致する構造です。
- 一般的に、配偶者の年齢が高いほど(平均余命が短いほど)居住権の評価額は低くなる傾向があります。
評価の計算は複雑であるため、具体的な相続手続きでは税理士・弁護士等専門家への相談が実務上推奨されています。配偶者の相続税の取得財産に居住権評価額が加わりますが、配偶者については相続税の配偶者控除(法定相続分または1億6,000万円の大きい方まで非課税)が適用されるため、多くの場合は実際の税負担に大きな影響は生じません。
改正前後の比較
| 比較項目 | 2020年4月以前(旧法) | 2020年4月以降(配偶者居住権新設後) |
|---|---|---|
| 居住継続のための条件 | 自宅の「所有権」を相続して初めて可能。法定相続分を超える場合は代償金支払いが必要 | 「配偶者居住権」を取得するだけで居住継続が可能。所有権を取得しなくてもよい |
| 現金・預金の確保 | 自宅と現金のどちらかを優先せざるを得ない状況が発生しやすかった | 居住権(低評価額)と現金を同時に確保しやすくなった |
| 手続きの複雑さ | 従来の遺産分割で対処(手続き自体はシンプル) | 居住権の評価・登記が必要。計算が複雑になる場面あり |
| 第三者への転貸 | 所有権があれば自由に賃貸可能 | 居住建物所有者の承諾が必要(民法第1032条第3項) |
| 権利の消滅時期 | 所有権は原則消滅しない(相続人が売却・処分することは可能) | 配偶者の死亡等で消滅(終身型の場合)。建物は最終的に所有者に帰属 |
| 高齢女性への影響 | 住まいか生活費かの選択を迫られるケースが多く、経済的弱者が不利になりやすかった | 住まいと生活費の双方を確保しやすくなり、高齢女性の生活保護が強化 |
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
配偶者の居住保護および家族財産に関連する主な法改正の流れは以下のとおりです。
- 2018年(平成30年)7月: 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立。配偶者居住権・配偶者短期居住権(第1028条~第1041条)、特別の寄与(第1050条)、遺留分の見直し(第1046条)、遺産分割前の払戻し制度(第909条の2)等が一括改正された。
- 2020年(令和2年)4月1日: 配偶者居住権・配偶者短期居住権・特別寄与料が施行。
- 2021年(令和3年): 民法等の改正(令和3年法律第24号)により相続土地国庫帰属制度が創設(2023年4月施行)。管理が困難な土地を相続した場合に国庫に帰属させる制度で、配偶者居住権が設定された建物の敷地に関する取り扱いとの整合が実務上の課題となっている。
- 2023年(令和5年): 不動産登記法等の改正(令和3年法律第24号、段階施行)により相続登記の申請義務化が2024年4月から施行。配偶者居住権の設定登記についても、義務化の文脈での周知が進んでいる。
- 2024年(令和6年): 民法改正(令和6年法律第33号)により離婚後共同親権制度が導入(2026年4月1日施行)。婚姻中・離婚後の「住まいの保護」をめぐる論点が家族法全体で再整理されており、配偶者居住権との関係が実務上注目されている。
なお、2018年改正では、家事・育児・介護などを担った被相続人の親族への特別の寄与(民法第1050条)も新設されました。長年にわたって義父母の介護を担ってきた「長男の妻」など、相続人ではない親族が、相続開始後に相続人に対して金銭の支払いを求めることができるようになりました。配偶者居住権と合わせ、無償ケア労働を担ってきた者への法的保護が強化された改正として位置づけられています。
議論の現在地
配偶者居住権をめぐる現在の議論は、主に以下の論点に集まっています。
活用件数の少なさと周知不足: 法務省の登記統計によれば、施行(2020年4月)後も配偶者居住権の設定登記件数は相続件数全体に比べて少なく、制度の利用が広がっていないとの指摘があります。弁護士・司法書士から「メリットが伝わりにくい」「協議が複雑になる」という声が聞かれ、制度の普及には一般市民への継続的な啓発が必要とされています。
評価計算の複雑さをめぐる賛否: 賛成側からは「居住権の評価を数値化することで相続分の公平な計算が可能になり、合理的な遺産分割を促す」という評価があります。一方、懐疑的な見方としては「計算が複雑すぎて一般の遺族が理解・活用するハードルが高い」「相続紛争の新たな火種になりうる」という意見も聞かれます。
子ほか相続人への負担論: 配偶者が居住権を取得した場合、建物の所有権はほかの相続人(子等)に帰属しますが、配偶者の居住権が消滅するまで売却や賃貸が制約されます。「売りたくても売れない、貸せない」という実質的な制限を子世代が長期間にわたって負うことへの懸念も一部に存在します。
残された課題
2026年時点において、配偶者居住権には以下の課題が指摘されています。
- DV被害者への不適用問題: DVや虐待が原因で別居している配偶者は、「相続開始時に被相続人の建物に居住していた」という要件を満たさない可能性があり、制度の恩恵を受けられないケースがあります。DV被害者保護の観点から、特別規定または解釈指針の整備が求められています。
- 事実婚(内縁関係)への非適用: 配偶者居住権は法律婚の配偶者にしか認められません(民法第1028条・同第890条)。増加する事実婚カップルが相続時に同様のリスクに直面することを考えると、立法的対応の検討が必要との指摘があります。
- 不動産価格変動への非対応: 居住権の評価は設定時点の不動産評価額を基礎とします。地価が大きく変動した場合に評価の見直し手段がなく、相続人間の実質的な公平が損なわれるリスクがあります。
- 区分所有建物(マンション)への適用の不明確さ: 区分所有建物(マンション)への配偶者居住権の設定については、区分所有法との関係で解釈が確立していない点があります。特に管理費・修繕積立金の負担者を誰にするかについて、実務上の混乱が生じているケースもあります。
ジェンダー平等の観点から見る配偶者居住権
高齢女性の住居保護と経済格差の縮減
内閣府「令和5年版高齢社会白書」によれば、65歳以上の一人暮らし高齢者のうち女性が占める割合は約7割に上ります。夫が先に亡くなることが多い統計的傾向に加え、女性は職歴・収入・年金額の面でも男性より低い水準にある傾向が続いています(内閣府男女共同参画局・男女共同参画白書参照)。
こうした状況のもとで、「住まいか生活費か」という選択を迫られてきた高齢女性にとって、配偶者居住権は生活の根幹を守る制度です。居住権を取得することで流動性資産(現金・預金)も確保しやすくなり、老後の経済的自立が支援されます。家事・育児・介護という無償ケア労働(アンペイドワーク)を長年にわたって担ってきた女性が、相続においても適切に保護されることは、夫婦間の経済格差縮減という男女共同参画の観点から重要な意義を持ちます。
DV被害者・別居事案との接点
配偶者居住権の成立要件に「相続開始時に被相続人の建物に居住していた」という条件があります(民法第1028条第1項)。このため、DVが原因で自宅を出ていた配偶者は、この要件を満たさない可能性があり、制度の保護から排除されるリスクがあります。
2024年(令和6年)改正配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)では保護命令の対象が精神的暴力にまで拡大されましたが、配偶者居住権の居住要件とDV被害者保護との整合については立法的整理が残されています。保護命令を取得して別居している場合でも「みなし居住」として要件を満たすと解釈できるか、判例・学説は2026年時点でも定まっていません。
こうした個別の法律判断については、具体的な事案の内容によって結論が大きく異なるため、弁護士などの専門家への相談をご検討ください。
公的相談窓口
配偶者居住権・相続・DV問題の相談先
配偶者居住権や相続問題、DVに関する具体的な相談は、以下の公的窓口をご活用ください。
- 法テラス(日本司法支援センター) 電話: 0570-078374(平日9時~21時・土曜9時~17時)
弁護士・司法書士への案内や、経済的に余裕のない方向けの法律扶助制度(無料法律相談・審査を経た弁護士費用立替)の利用について相談できます。 - 市区町村・都道府県の無料法律相談
多くの自治体が月複数回、弁護士による無料法律相談を実施しています。相続・遺産分割・配偶者居住権について相談できます。男女共同参画センターでも相談窓口を設けているところがあります。 - DV相談ナビ #8008(内閣府)
DV被害の相談窓口を案内するナビダイヤルです。相続・離婚に絡む問題についても、地域の適切な支援機関につないでもらえます。
まとめ
配偶者居住権は、2018年の民法改正によって新設され、2020年4月から施行されている制度です。被相続人が所有する建物に相続開始時に居住していた配偶者が、所有権を取得しなくても終身または一定期間、その建物に無償で住み続けることができる権利です(民法第1028条)。配偶者短期居住権(同第1037条)と合わせて、相続開始から遺産分割後にわたって配偶者の居住が段階的に保護されます。
制度創設の背景には、旧法のもとで高齢女性が「自宅か、生活費か」という選択を迫られてきたという問題がありました。配偶者居住権によって居住の安定と流動資産の確保を同時に実現しやすくなり、無償ケア労働を長年担ってきた配偶者の老後の経済的自立を支える制度として意義を持ちます。
一方で、2026年時点においても制度の利用件数が期待を下回っているとの指摘があり、DV被害者への要件適用問題・事実婚への非適用・評価計算の複雑さ・マンションへの適用の不明確さといった課題が積み残されています。男女共同参画の観点からは、こうした課題の立法的解決と制度の周知・活用促進が引き続き求められています。
具体的な相続・遺産分割については、個々の事情によって判断が異なります。弁護士・司法書士・税理士などの専門家に早めに相談することをお勧めします。
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よくある質問(FAQ)
- Q1. 配偶者居住権を取得するにはどうすればよいですか?
- 遺産分割協議でほかの相続人全員の合意を得る方法と、家庭裁判所の審判(民法第1029条)によって取得する方法の2つがあります。どちらの場合も、取得後は速やかに居住建物について配偶者居住権の設定登記(民法第1031条)を行うことが重要です。
- Q2. 配偶者居住権は他人に譲渡したり、建物を貸したりできますか?
- 配偶者居住権は譲渡できません(民法第1032条第2項)。また、居住建物を第三者に賃貸する場合は建物所有者の承諾が必要です(同条第3項)。居住権はあくまで配偶者自身が住むための権利であり、売買や一般的な貸付けの対象にはなりません。
- Q3. 内縁(事実婚)の配偶者も配偶者居住権を取得できますか?
- 現行法では、配偶者居住権を取得できるのは法律婚の配偶者に限られます(民法第1028条第1項・同第890条)。事実婚の配偶者には相続権自体がなく、配偶者居住権も認められていません。事実婚カップルは生前に遺言等によって対応を検討する必要があります。詳細は弁護士等に相談してください。
- Q4. 配偶者居住権の存続期間はどのくらいですか?
- 遺産分割協議や審判において別途期間を定めない場合は、配偶者が亡くなるまでの終身です(民法第1030条)。期間を定めた場合はその満了をもって消滅します。遺産分割の内容によって柔軟に設定できますが、後から変更することは原則できないため、設定時に十分な検討が必要です。
- Q5. 「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の使い分けを教えてください。
- 配偶者短期居住権(民法第1037条)は相続開始と同時に自動的に発生する暫定的な権利で、遺産分割が終了するまでの間(最低6か月)、無償で居住を続けることができます。遺産分割後も長期的に住み続けたい場合は、別途、遺産分割協議等で長期型の配偶者居住権を取得することが必要です。
- Q6. DVが原因で別居している場合も配偶者居住権を取得できますか?
- 現行法では「相続開始時に被相続人の建物に居住していた」ことが要件(民法第1028条第1項)となっており、DV被害による別居中は要件を満たさない可能性があります。2026年時点でこの点についての明確な判例・解釈指針はなく、個別の状況によって判断が異なります。DV被害者の方は早期に弁護士へご相談ください。

