育児をしながら働き続けたい。そのために何ができて、会社にはどんな義務があるのか—制度の全体像をつかみにくいと感じている方は多いでしょう。日本では育児と仕事の両立支援のために複数の法律が重層的に整備されており、それぞれが異なる役割を担っています。育児・介護休業法(以下、育介法)が休業・短時間勤務などの労働者の権利を保障し、女性活躍推進法と次世代育成支援対策推進法が企業の行動計画策定や情報公開を通じて職場環境の底上げを促す—この三本柱の関係を正確に理解することが、制度を活かす第一歩です。本記事では、2026年時点の法令体系を、人事担当者・育休からの復帰を控えた方・企業の制度整備を担う経営者の方向けに、比較表を交えながら体系的に解説します。

育児・仕事両立支援の法令体系とはどのような仕組みか
3本の法律が担う役割の違い
育児と仕事の両立を支える主要法令は、大きく三本の柱に整理できます。
第一の柱は育児・介護休業法です。労働者が持つ権利—育児休業の取得・産後パパ育休・子の看護等休暇・残業免除・時短勤務・柔軟な働き方確保措置—を具体的に定め、事業者がこれを拒んだり取得を理由として不利益な扱いをしたりすることを規制します。育介法は「権利保障型」の法令であり、違反した事業者は行政指導・公表の対象となります。
第二の柱は女性活躍推進法です。一定規模以上の事業者に対し、女性の活躍状況を数値で把握したうえで行動計画を策定・届出・公表することを義務づけます。育休の取得環境だけでなく、女性管理職の登用・賃金格差の是正まで視野に入れた幅広い内容を持ちます。
第三の柱は次世代育成支援対策推進法(次世代法)です。少子化対策の観点から、従業員の仕事と子育ての両立を支援する一般事業主行動計画の策定を求め、一定基準を達成した企業に「くるみん認定」「プラチナくるみん認定」を付与する制度を設けています。
「権利保障」と「インセンティブ」の二層構造
三本の法律は「権利保障型」と「インセンティブ型」の二層に整理できます。育介法が前者にあたり、制度を利用しようとする労働者の申出を事業者が拒むことは原則として許されません。
一方、女性活躍推進法と次世代法は「インセンティブ型」の側面が強く、行動計画の達成度に応じた認定マーク(えるぼし・くるみん)が採用力や企業ブランドの向上につながる設計になっています。ただし、行動計画の策定・届出・情報公表は規模要件を満たす事業者には義務として課されており、未達成の場合は行政指導・公表の対象となります。
育児・介護休業法が定める主要な権利
育児休業の申出と産後パパ育休
育介法第5条は、1歳に達するまでの子(一定要件を満たせば最長2歳まで延長可)を養育する労働者が事業者に育児休業の申出を行える権利を定めています。
2022年10月1日施行の出生時育児休業(いわゆる産後パパ育休)は、同法第9条の2から第9条の5に規定されており、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できます。育児休業の申出とは独立した制度であり、分割して2回取得することも可能です。一定条件のもとで休業中に就業できる点も特徴です。
男性の育児休業取得率は急速に上昇しており、令和7年度雇用均等基本調査(厚生労働省・2026年7月31日公表)によると50.9%となっています。同調査で女性は88.3%です。第6次男女共同参画基本計画(2026年3月13日閣議決定)は、2030年の目標として民間企業の男性育休取得率85%を掲げており、現状からさらなる引き上げが求められています。
子の看護等休暇・残業免除・時短勤務
育介法第16条の2・第16条の3は子の看護等休暇((旧称「子の看護休暇」は2025年3月31日までの名称)を定めており、対象は9歳に達する日以後の最初の3月31日までの子を持つ労働者です。2025年4月1日施行の改正で対象年齢が拡大されました。
育介法第16条の8は所定外労働の制限(残業免除)を定めており、小学校就学の始期に達するまでの子を持つ労働者が請求できます。2025年4月1日施行の改正で対象が拡大されており、かつての「3歳未満の子が対象」という情報は陳腐化しているため注意が必要です。
育介法第23条は、3歳未満の子を持つ労働者を対象に、所定労働時間の短縮措置(時短勤務)を事業者に義務づけています。また同法第17条は時間外労働の制限(1か月24時間・1年150時間を超えてはならない)を、第19条は深夜業の制限(午後10時から午前5時)を定めています。
2025年10月施行の柔軟な働き方確保措置
2025年10月1日に施行された育介法第23条の3(新設)は、3歳から小学校就学前の子を持つ労働者を対象に、事業者が5つの選択肢からいずれか2つ以上を措置することを義務づけています。5つの選択肢は(1)所定労働時間の短縮、(2)フレックスタイム制、(3)始業・終業時刻等の変更、(4)テレワーク・在宅勤務、(5)保育施設の設置運営等です。3歳未満に留まっていた就業支援を就学前まで広げた点が特徴です。
育介法第22条の2は育児休業の取得状況を事業者が公表する義務を定めており、常時雇用する労働者が300人を超える事業者が対象です(2025年4月1日施行の改正で1,000人超から300人超に拡大)。
女性活躍推進法と次世代育成支援対策推進法の役割
女性活躍推進法が求める行動計画と情報公表
女性活躍推進法第8条は、一般事業主に対して行動計画の策定・都道府県労働局への届出・公表を定めています。2022年4月1日からは常時雇用する労働者が100人を超える事業者(「百人を超える」であり、100人ちょうどは対象外)まで義務が拡大されました。
情報公表の根拠は同法第20条です。2026年4月1日施行の改正(令和7年法律第63号)により、100人を超える事業者に対して、男女の賃金の差異(第20条第1項第1号)と女性管理職比率(第1項第2号)の公表が義務づけられました。ただし附則第6条の経過措置があり、実際に公表が義務となるのは2026年4月1日以後に終了する事業年度の翌事業年度に行う公表からとなります。「2026年4月からすぐに公表しなければならない」と単純に受け取ると不正確になる点に注意が必要です。
くるみん・プラチナくるみん認定制度
次世代法第12条は、101人以上の事業主に一般事業主行動計画の策定・届出を義務づけています(100人以下は努力義務)。行動計画に定めた目標を達成し、一定基準を満たすと「くるみん認定」(第13条)を受けられます。さらに高い水準の取り組みを行った事業者は「プラチナくるみん認定」(第15条の2)を申請できます。
認定マークは採用活動での訴求力として機能しますが、「えるぼし」「プラチナえるぼし」「くるみん」「プラチナくるみん」はいずれも法令の条文には現れない愛称です。引用する際は「次世代法第13条の認定(通称:くるみん認定)」のように条番号と愛称をセットで記載すると正確です。
次世代法は時限立法であり、有効期限は令和17(2035)年3月31日とされています(令和7年法律第63号で延長)。
2026年4月施行の女性管理職比率公表義務
2026年4月1日施行の女性活躍推進法改正(令和7年法律第63号・第20条第1項第2号)により、100人を超える事業者は女性管理職比率の情報公表が求められます。第6次男女共同参画基本計画は民間企業の課長相当職の女性割合について2030年に24%という成果目標を設定しています。令和7年度雇用均等基本調査(厚生労働省・2026年7月31日公表)によると、現状は課長相当職13.2%・係長相当職20.9%・部長相当職9.2%であり、目標との差は大きい状況にあります。
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現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
- 2015年:女性活躍推進法 制定・施行 — 301人以上の事業主に行動計画策定・情報公表を義務づけ、女性の活躍推進が法的枠組みに組み込まれました。
- 2022年10月:産後パパ育休 施行 — 育介法改正で出生時育児休業(同法第9条の2)が新設。男性育休の分割取得・休業中就業が可能となり、男性の育児参画を促す転換点となりました。
- 2025年4月・10月:育介法 2段階施行 — 2025年4月1日に子の看護等休暇の対象拡大・残業免除の対象拡大・育休公表義務の対象拡大が施行。同年10月1日に3歳~就学前の柔軟な働き方確保措置の義務化(育介法第23条の3)が施行されました。
- 2026年4月:女性活躍推進法改正 施行 — 100人超の事業者に女性管理職比率・男女賃金差異の情報公表が義務化されました(同法第20条第1項第1号・第2号)。
議論の現在地
男性育休取得率が50.9%(令和7年度)に達したことは制度普及の成果として評価される一方、「育休は取れたが復帰後の評価が下がった」「短期間の取得にとどまっている」という指摘は依然として続いています。取得率という「入口の数字」が改善しても、育休後の職場への再統合(復帰後の昇進・職務内容・チーム関係)が実質的に守られているかという「出口の質」に課題が残ります。
女性管理職比率の公表義務については、「見える化」による企業行動の変化が期待される一方、「数値目標のために短期的な管理職登用を行い、十分なサポートなしに困難なポジションへ配置される」という懸念も研究者・実務家の間で指摘されています。形式的な比率上昇が本当の意味での男女共同参画につながるかどうかが問われています。
また、育介法第23条の3(柔軟な働き方確保措置)が2025年10月に施行されましたが、中小企業においてはテレワーク・フレックスタイム制の整備を進める余力のない職場での対応が課題として残っています。賛否の一方には「選択肢を2つ設ければよい設計で柔軟性がある」という評価があり、他方には「実質的に使える選択肢が限られる業種・職種での対応が困難」という指摘があります。
残された課題
第6次男女共同参画基本計画は、民間企業の男性育休取得率85%(2030年)・第一子出産前後の女性継続就業率80%(2030年)を成果目標として掲げています。女性の継続就業率の現状は69.5%(2021年・第6次計画記載値)であり、10ポイント以上の引き上げが必要です。
非正規労働者・中小企業勤務者・男性労働者の間では、育介法上の権利の認知度・利用率が低い傾向があります。育介法が定める権利は雇用形態を問わず適用される場合が多いにもかかわらず、制度の恩恵が届きにくいという構造的格差が残っています。
さらに、育介法・女性活躍推進法・次世代法がそれぞれ異なる届出先・公表システムを持つため、企業現場での制度管理が煩雑になりやすい構造があります。3法令の手続きを一元化する仕組みづくりも今後の課題として挙げられています。
3法令の比較|役割・対象・認定制度の違い
主要3法令の一覧比較
| 比較項目 | 育児・介護休業法 | 女性活躍推進法 | 次世代育成支援対策推進法 |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 育休・看護休暇・時短等の労働者の権利保障 | 女性の職業生活における活躍の推進 | 次世代育成支援のための職場環境整備 |
| 事業者の主な義務 | 育休付与・各種措置・育休取得状況の公表(第22条の2・300人超) | 行動計画策定・届出・情報公表(第8条・第20条・100人超) | 一般事業主行動計画策定・届出(第12条・101人以上義務) |
| 対象規模(義務) | 全事業者(措置・公表義務の一部は規模要件あり) | 百人を超える事業者 | 101人以上(100人以下は努力義務) |
| 認定・インセンティブ | なし(義務中心の構造) | えるぼし認定(第9条)・プラチナえるぼし(第12条) | くるみん認定(第13条)・プラチナくるみん(第15条の2) |
| 法令の種類 | 恒久法 | 時限立法(令和18年3月31日まで・令和7年法律第63号で延長) | 時限立法(令和17年3月31日まで・令和7年法律第63号で延長) |
| 主な届出・公表先 | 育休取得状況は公表(媒体は各社判断) | 都道府県労働局・女性の活躍推進企業データベース | 都道府県労働局・両立支援のひろば |
各認定制度の位置づけ
女性活躍推進法のえるぼし認定(第9条)とプラチナえるぼし認定(第12条)は、採用・定着・労働時間・管理職比率・多様なキャリアコースの5つの基準の達成状況に応じて星1つ~3つで段階認定されます。
次世代法のくるみん認定(第13条)は、育児休業取得率・残業時間・有給休暇取得率などの基準を達成した事業者が取得できます。プラチナくるみん認定(第15条の2)はさらに高水準の取り組みを求めるものです。これらの認定マークは「えるぼし」「くるみん」という愛称で呼ばれますが、法令条文にその名称は登場しません。
制度を活かすための実務ポイント
事業者が押さえるべき主な義務の整理
2026年時点で事業者が講じなければならない措置は多岐にわたります。育介法が定める各種権利(育休・産後パパ育休・時短・残業免除・柔軟な働き方確保措置)を就業規則・育児介護規程に整備し、労働者に周知することが基本です。
育介法は、育休申出が見込まれる労働者に対して、事業者が個別に制度を周知し取得するかどうかの意向を確認する義務を定めています(詳細な条番号は e-Gov法令検索 でご確認ください)。「本人が申し出なければ会社は何もしなくてよい」という受け身の姿勢では不十分であり、積極的な個別周知と意向確認が求められます。
また、育介法第22条の2の育休公表義務(300人超)・女性活躍推進法第20条の情報公表義務・次世代法第12条の行動計画策定義務はそれぞれ届出先・公表システム・期限が異なるため、人事部門での管理体制を整えておく必要があります。
不利益取扱い禁止との関係
育介法・男女雇用機会均等法は、妊娠・出産・育休取得を理由とした不利益取扱い(降格・解雇・雇い止め・不利益な配置転換など)を禁止しています。妊娠・出産に起因する不利益取扱いをマタニティハラスメント(マタハラ)、育休取得に起因するものをパタニティハラスメント(パタハラ)と呼びます。
不利益取扱いの禁止規定の条番号については、2026年10月1日施行予定の法改正で条番号が移動する予定があるため、現時点での正確な条番号は e-Gov法令検索 でご確認ください。不利益取扱いを受けたと感じた場合は、次の相談窓口への早めの相談が有効です。
公的相談窓口
育介法・女性活躍推進法に関する職場の問題は、以下の公的機関に相談できます。
- 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局・ハローワーク内): 育休取得の拒否・不利益取扱い・マタハラ・パタハラ等の相談を受け付けています。電話や窓口での相談が可能です。
- 女性の活躍推進企業データベース(厚生労働省運営): 企業の情報公表状況を検索・確認できます。在職者・求職者が企業の制度整備状況を調べるためにも活用できます。
- 法テラス(日本司法支援センター): 0120-078374(通話料・相談料無料)。不利益取扱いについて法的対応を検討する場合に相談できます。
具体的な法的事案については、弁護士などの専門家への相談をご検討ください。
まとめ
育児・仕事両立支援の法令体系は、育介法(権利保障)・女性活躍推進法(情報公開・行動計画)・次世代法(環境整備・認定制度)の三本柱で成り立っています。
2022年の産後パパ育休(育介法第9条の2)施行と2025年の育介法2段階施行を経て、制度の射程は拡大し続けており、男性育休取得率も50.9%(令和7年度・厚生労働省雇用均等基本調査)まで上昇しました。しかし育休後の職場再統合・非正規労働者への制度普及・中小企業の実施体制・女性管理職比率の実質的な引き上げなど、2026年時点でも多くの課題が残っています。
三本の法律の役割分担を正確に把握し、自社の義務と現状を「見える化」することが実効的な両立支援の第一歩となります。各制度の詳細な条文については e-Gov法令検索 でご確認ください。
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育児と仕事の両立問題を社会構造の面から考える視点として、仕事と家族 – 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか (中公新書)は、国際比較の観点から日本の就業・出生の構造を分析しており、制度の背景理解に役立てられる一冊です。
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よくある質問
- Q. 育介法・女性活躍推進法・次世代法は何が違いますか?
- 育介法は労働者個人の権利(育休・時短・残業免除など)を保障する「権利保障型」の法律です。女性活躍推進法は100人超の事業者に行動計画策定・情報公表を義務づける法律で、女性管理職比率や賃金格差の是正まで視野に入れます。次世代法は仕事と育児の両立支援のための行動計画策定を求め、くるみん認定などのインセンティブ制度を持つ法律です。三本の法律はそれぞれ異なる役割を担いながら、育児・仕事両立支援の体系を構成しています。
- Q. 産後パパ育休とは何ですか?
- 産後パパ育休(出生時育児休業)は、育介法第9条の2から第9条の5に定められた制度であり、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できます。2022年10月1日に施行されました。通常の育児休業とは独立した申出が可能で、2回に分割して取得することもできます。一定条件のもとで休業中に就業できる点も特徴です。
- Q. 男性の育休取得率は現在どのくらいですか?
- 令和7年度雇用均等基本調査(厚生労働省・2026年7月31日公表)によると、民間企業の男性育児休業取得率は50.9%です。女性は88.3%です。第6次男女共同参画基本計画は2030年の目標として85%を掲げており、さらなる引き上げが課題となっています。
- Q. 育休取得状況の公表義務はどの企業に課されますか?
- 育介法第22条の2により、常時雇用する労働者が300人を超える事業者に育児休業の取得状況の公表が義務づけられています。2025年4月1日施行の改正で、1,000人超から300人超に対象が拡大されました。300人以下の事業者は義務ではありませんが、取得促進に向けた自主的な取り組みが推奨されています。
- Q. 女性管理職比率の公表はいつから義務になりますか?
- 2026年4月1日施行の女性活躍推進法改正(令和7年法律第63号・第20条第1項第2号)により、100人を超える事業者に女性管理職比率の公表が義務づけられました。ただし附則第6条の経過措置があり、実際に公表が義務となるのは2026年4月1日以後に終了する事業年度の翌事業年度に行う公表からです。詳細は所管の都道府県労働局または e-Gov法令検索 でご確認ください。
