男性と女性では、平均寿命の長さだけでなく、かかりやすい疾患・医療機関への受診行動・精神的健康にも統計上の有意な違いがあります。「男性は短命で女性は長寿」というイメージが定着していますが、健康寿命(日常的に介護を必要とせず自立した生活を送れる期間)との差や、疾患別の罹患率・受療率を見ると、単純な「女性優位」とは言いきれない複雑な構造が浮かび上がります。
こうした健康の男女差は、生物学的差異(ホルモン・遺伝的リスク)だけでなく、ジェンダー(社会的・文化的に形成された性別。生物学的性別=セックスと区別される概念)に起因する要因——働き方・収入格差・家庭内役割・受診行動を規定する文化規範——が大きく関わっているとされています。WHO(世界保健機関)はこれを「健康の社会的決定要因」と位置づけ、個人の生活習慣だけでなく社会構造そのものへの介入を求めています。
この記事では、厚生労働省の生命表・国民健康・栄養調査・患者調査、内閣府の男女共同参画白書など公的統計を中心に、平均寿命・健康寿命の男女差、主要疾患のリスク比較、医療受診率の格差を整理します。また、2007年以降の法改正の動向と2026年時点の残された課題についても解説します。職場の健康経営を担う人事・労務担当者の方、ジェンダー政策の数値的根拠を学びたい研究者・学生の方、男女共同参画推進員として地域活動に取り組む方を主な対象としています。

男女の健康格差とは|統計で捉える基本概念
健康格差(ヘルスイネクアリティ)とジェンダー視点
「健康格差(Health Inequality)」とは、所得・職業・居住地・教育歴・性別などの社会的属性によって生じる健康状態の違いを指す概念です。疾患への罹患しやすさ・医療機関へのアクセス・平均余命・主観的健康感などの指標で計測されます。WHO「健康の社会的決定要因に関する委員会」は2008年の報告書の中で、健康格差の多くが社会構造に由来するものであり、是正可能であると結論づけました。
性別はその社会的決定要因の一つです。生物学的性差(セックス差)——ホルモンバランス・染色体構成・生殖機能——による疾患傾向の差異に加え、社会的ジェンダーに由来する差異——過重労働・無償ケア労働の負担・相談しにくい文化規範・収入格差——が健康状態に影響を与えるとされています。これら二重の要因を区別しながら統計を読み解くことが、ジェンダー視点の健康格差分析の核心です。
主要統計資料の種類と所管機関
健康の男女格差を把握するために参照される主な公的統計資料は以下の通りです。厚生労働省が公表する「簡易生命表」「完全生命表」は毎年・5年ごとの平均寿命データを男女別に示します。「国民健康・栄養調査」は肥満・喫煙・飲酒・運動習慣などの生活習慣リスクを男女・年代別に集計し、「患者調査」は疾患別の受療率(人口10万人対の受診者数)を性別に提供します。内閣府の「男女共同参画白書」は毎年版で健康に関する章を設け、ジェンダー視点での解説を加えています。国立がん研究センターの「がん統計」は罹患率・死亡率を性別・部位別に詳細に提供しており、厚生労働省「自殺対策白書」は自殺死亡率の性別・年代別推移を示します。
「男性短命・女性長寿」を超えた複合的な格差の構造
「男性は短命、女性は長寿」というイメージが広く定着していますが、健康統計が示す実態はより複雑です。平均寿命は確かに女性が男性を上回りますが、健康寿命(介護不要で自立して生活できる期間)との差——いわゆる「不健康期間」——は女性の方が男性より長い傾向があります。また、精神的健康の指標(うつ病受療率)は女性が高く、自殺死亡率は男性が女性の約2倍以上という逆転現象も見られます。
国際比較では、ジェンダーギャップ指数が高い(男女平等が進んでいる)北欧諸国ほど平均寿命の男女差が小さいというデータがあり、「社会的ジェンダー平等の向上が健康格差の縮小に寄与する」とする研究知見が蓄積されています。日本においても、健康統計をジェンダー視点で解析する「ジェンダー別健康統計」の整備が政策的課題となっています。
平均寿命・健康寿命の男女差データ
平均寿命の現状と推移(2023年データ)
厚生労働省の2023年簡易生命表によると、日本の平均寿命は男性81.09年・女性87.14年であり、女性が男性を約6.05年上回っています。この差はOECD加盟国の平均的な男女差(約5.4年、OECD「Health at a Glance 2023」)を上回っています。ただし、長期的なトレンドとしては縮小傾向にあります。1975年頃に約7年あった差が、男性の生活習慣改善・医療技術の進歩・心疾患死亡率の低下などにより、近年は6年台に落ち着いています。
都道府県別データ(厚生労働省「都道府県別生命表(2020年)」)では、男性の平均寿命が長い都道府県(長野県・滋賀県など)と短い都道府県(青森県・秋田県など)で2年超の差があります。女性についても類似した地域差が存在し、食文化・喫煙率・医療機関へのアクセス・所得水準が複合的に作用しています。健康格差が性別だけで語れない複雑な構造を示す代表的なデータです。
健康寿命と「不健康期間」の男女差
2019年における健康寿命(日常生活に制限のない期間の平均)は男性72.68年・女性75.38年でした(厚生労働省「健康寿命の算定方法の指針」に基づく推計)。この数値と平均寿命の差を「不健康期間」(概算)として算出すると、男性約8.4年・女性約11.8年となり、女性の不健康期間が男性より約3.4年長くなっています。
つまり、平均寿命が長い女性ほど晩年に医療・介護を必要とする期間が相対的に長い傾向があります。背景として、女性に多い骨粗鬆症(こつそしょうしょう。骨密度の低下により骨折リスクが高まる疾患)・変形性関節症・認知症の罹患率の高さが指摘されています。政府は健康寿命の延伸を男女共通の重点課題と位置づけており、「2040年を目途に健康寿命を男女ともに75歳以上とする」目標が掲げられています。
OECD・国際比較での日本の位置づけ
OECD「Health at a Glance 2023」によると、平均寿命の男女差が最も小さい国群はアイスランド・スウェーデン(差約3.5年)であり、最も大きい国群はロシア・東欧諸国(差10年超)です。日本の約6年は中程度ですが、健康寿命の男女差(約2.7年)は先進国の中でやや大きい水準にあります。
ジェンダーギャップ指数(WEF・世界経済フォーラム発表)で上位に入る北欧諸国では、男女の健康格差が総じて小さい傾向があります。WHO欧州地域事務所の報告書(”Gender and Health”)は、「社会的ジェンダー平等が高い国ほど、男女の健康格差が小さくなる傾向がある」と分析しており、健康政策とジェンダー平等政策の連動が国際的に求められています。
疾患リスクの男女差統計
がん・生活習慣病の男女別罹患率データ
国立がん研究センターの「がん統計(2023年)」によると、全がん罹患率(年齢調整罹患率)は男性が女性の約1.4倍となっています。部位別では、男性は肺がん・胃がん・大腸がん・肝臓がんの罹患率が高く、女性は乳がん・大腸がん・肺がん・子宮がんの順となっています。乳がんは日本女性の罹患率第1位であり、40歳代後半にピークを持つ特徴的な年齢分布を示します。
生活習慣病については、厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和4年)」によると、肥満(BMI25以上)の割合は男性31.7%・女性21.5%、糖尿病が強く疑われる者の割合は男性19.2%・女性10.3%と、いずれも男性の方が高い値を示しています。喫煙率も男性25.4%・女性7.7%と男性が顕著に高く、これらの生活習慣リスクが男性の死亡率を押し上げる要因の一つとなっています。一方、「痩せ」(BMI18.5未満)の割合は20歳代女性で20.7%と特に高く、若年女性の低栄養は骨密度低下・貧血・生殖機能への影響という観点から別途の健康課題とされています。
メンタルヘルス統計とジェンダー差
厚生労働省「患者調査(令和2年)」によると、気分(感情)障害(うつ病・双極性障害等)の総患者数は女性が男性の約1.6倍です。女性に気分障害が多い背景として、産後うつ(分娩後に生じるうつ状態)・月経前症候群(PMS)・更年期障害などホルモン変動に起因する要因のほか、家庭内無償ケア労働の負担集中・仕事と育児の二重負担・DVや性暴力被害の経験が精神的健康に影響するとされています。
ただしこれらの要因が単独で作用するわけではなく、社会経済的地位・支援ネットワークの有無・職業ストレスとの相互作用が重要とされています。また、精神的不健康状態の統計は受診した人のデータに依拠するため、受診行動の男女差そのものが統計に影響する点にも注意が必要です。男性は精神的不調があっても受診しないケースが多いとする研究知見もあり、「統計に現れない男性のメンタルヘルス問題」が課題として指摘されています。
自殺統計から見るジェンダー規範の影響
厚生労働省「令和5年版自殺対策白書」によると、2022年の自殺死亡率(人口10万対)は男性16.6・女性7.4であり、男性が女性の約2.2倍となっています。この男女差は多くの先進国に共通して観察される現象であり、「自殺の男女パラドックス」(企図率は女性が高いが死亡率は男性が高い)として知られています。
原因として、男性が用いる手段の致死性の高さのほか、「男性は弱みを見せるべきではない」というジェンダー規範が精神的苦痛を抱えた男性の相談・受診行動を阻害しているとする指摘があります。内閣府の分析では、コロナ禍(2020年以降)において女性の自殺者数が増加傾向を示した時期があり、非正規雇用の多い女性が感染拡大による雇用喪失の影響を強く受けたことが背景として指摘されました。健康統計は特定時期の社会的変化を鋭敏に反映する側面があります。
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医療受診・健康行動の男女差統計
医療機関受診率のジェンダー差
厚生労働省「令和2年患者調査」の受療率(外来)を性別にみると、全体として女性が男性をわずかに上回る年代が多い傾向があります。ただし20歳代・30歳代の男性については、「体の不調があっても医療機関を受診しない」傾向が一部研究で報告されています。男性の受診回避は「仕事を休めない」「弱みを見せたくない」というジェンダー規範と関連するとされており、精神科・心療内科受診における男性の遅延は特に顕著とされています。
入院受療率は高齢になるにつれ男女ともに増加しますが、75歳以上では男性が女性を上回る疾患区分もあります。高齢男性の入院の主要原因は肺炎・脳血管疾患・心疾患であり、これらは生活習慣病の進行と密接に関連しています。一方、女性の高齢期入院は骨折・変形性関節症など筋骨格系疾患の割合が高く、健康寿命延伸のための介入ポイントが男女で異なることを示しています。
がん検診受診率のジェンダー差データ
厚生労働省「国民生活基礎調査(令和4年)」によると、がん検診受診率(過去1年間)の主な数値は以下の通りです。乳がん検診(女性)47.4%、子宮頸がん検診(女性)43.7%、胃がん検診・男性47.4%・女性37.0%、肺がん検診・男性49.0%・女性40.9%となっています。すべての検診項目で目標受診率50%を下回っているか、ほぼ達していない状況です。
受診率が低迷する背景要因として、仕事・育児・介護の多忙さ、医療機関への経済的アクセスの障壁、職場や自治体による検診機会の提供格差が挙げられています。特に非正規雇用・自営業の女性は職場経由の健診機会が少なく、国民健康保険の特定健診受診率の男女差にも反映されています。自治体によるクーポン券配布・個別通知などの施策が展開されていますが、アクセス格差の是正には至っていないのが現状です。
健康投資行動の男女差
運動習慣(週2回以上・1回30分以上・1年以上継続)の割合は、厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和4年)」によると男性35.3%・女性28.6%と男性がやや高い一方、食習慣の改善意欲・栄養バランスへの関心は女性が高い傾向があります。睡眠については、睡眠の質に不満を抱える割合が女性でやや高く、家事・育児・介護の負担と睡眠不足の関連が指摘されています。
健康リテラシー(健康情報を収集・理解・活用する能力)については、一般的に女性の方が情報収集意欲が高いとする調査が多く見られます。ただし職種・教育歴・年代・所得水準によって大きく異なるため、「男性は健康に無関心」という一般化には慎重な解釈が必要です。近年注目される「フェムテック(FemTech。Female Technologyの略で、女性の健康課題をテクノロジーで解決するサービス・製品の総称)」は、月経管理・妊活・更年期サポートなど女性固有の健康課題への新たなアプローチとして産業界から注目されています。
| 健康指標 | 男性 | 女性 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 平均寿命(2023年) | 81.09年 | 87.14年 | 差6.05年、女性が長い |
| 健康寿命(2019年) | 72.68年 | 75.38年 | 差2.70年、女性が長い |
| 不健康期間(概算) | 約8.4年 | 約11.8年 | 差約3.4年、女性が長い |
| うつ病等受療率(2020年) | 1(基準) | 約1.6倍 | 女性の受療率が高い |
| 自殺死亡率(2022年人口10万対) | 16.6 | 7.4 | 男性が約2.2倍高い |
| 肥満率BMI25以上(2022年) | 31.7% | 21.5% | 男性が高い。若年女性の痩せも課題 |
| 喫煙率(2022年) | 25.4% | 7.7% | 男性が約3.3倍高い |
| 乳がん検診受診率(2022年) | (対象外) | 47.4% | 目標50%未達 |
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
健康と男女共同参画に関連する2007年以降の主な法改正・政策変化を示します。
健康増進法改正(2018年成立・2020年4月全面施行):健康増進法(e-Gov法令検索)(平成14年法律第103号、最終改正2020年4月施行)の改正により、受動喫煙対策が法的に強化されました。喫煙率が男性に偏在する現状から、職場・公共施設での分煙・禁煙義務化は男性の健康リスク低減にも寄与することが期待されています。
がん対策基本法改正(2016年・2023年改正):がん対策基本法(e-Gov法令検索)(平成18年法律第98号)の改正により、希少がん・小児がん対策や緩和ケアの充実が追加されました。乳がん・子宮頸がん等の女性特有がんへの対策および検診受診率向上施策も盛り込まれています。
母子保健法改正(2021年):母子保健法(e-Gov法令検索)(昭和40年法律第141号、最終改正2022年施行)の改正により、産後ケア事業の市町村実施が努力義務から法定化されました。産後うつ(分娩後に生じるうつ状態)の早期発見・支援体制の整備が法的根拠をもって推進されています。
自殺対策基本法改正(2016年)・第4次自殺総合対策大綱(2022年):男性の自殺死亡率の高さを踏まえ、働く世代の男性を対象とした相談支援強化・職場でのメンタルヘルス対策推進が重点項目に明記されています。
労働安全衛生法改正(2014年・ストレスチェック義務化):労働安全衛生法(e-Gov法令検索)(昭和47年法律第57号)改正により、従業員50人以上の事業場でストレスチェック制度が義務化されました(2015年12月施行)。職場メンタルヘルスの男女差の把握に貢献しています。
議論の現在地
健康と男女共同参画をめぐる議論は、2026年時点でいくつかの方向で展開されています。
第一に、「男性の健康課題」の可視化が進んでいます。自殺・生活習慣病・受診回避という男性特有の健康リスクを「男性の生きづらさ」というジェンダー視点から捉え直す動きが政策・研究の両面で活発化しています。第6次男女共同参画基本計画(令和8年3月13日閣議決定)でも、男性の健康問題やメンタルヘルスへの支援の重要性が盛り込まれています。この点については、男性への支援拡充を求める立場と、依然として制度的支援が不足する女性への優先的対応を求める立場の間で議論が続いています。
第二に、LGBTQ+(性的マイノリティ)当事者の医療アクセスへの課題が注目されています。トランスジェンダー当事者が性別違和感からがん検診受診をためらうケース、同性カップルが医療上の意思決定に参加できないケースなどが報告されています。医療機関における多様なジェンダー・性的指向への対応を求める声が高まる一方、医療現場の対応の実務的課題を強調する立場との議論が続いています。
第三に、女性の生涯を通じた健康支援(Women’s Health Throughout the Life Course)という視点が国際的に広まりつつあります。日本でも月経・妊娠・更年期といった女性の生物学的ライフイベントを職場でサポートするための制度整備を求める声が産業界や市民社会から上がっています。
残された課題
2026年時点でも未解決の主な課題を示します。第一に、ジェンダー別健康統計の整備不足があります。多くの公的統計では男女二値分類(男性・女性)での集計のみが提供されており、ノンバイナリー・トランスジェンダー当事者の健康データは系統的に収集されていません。EBPM(証拠に基づく政策立案)の観点から、多様な性別を包摂した統計設計の見直しが求められています。
第二に、介護予防における男女差への対応の遅れがあります。不健康期間が女性に長い現状に対し、骨粗鬆症・変形性関節症・認知症の予防策における男女別データの活用はいまだ限定的です。第三に、男性の精神的健康と「男らしさ規範(マスキュリニティ規範)」の変革という課題があります。自殺死亡率の高さに代表される男性の精神的苦痛を減らすためには、受診行動を阻む社会規範への働きかけと、男性向け相談支援の充実が同時に必要とされています。第四に、職業上の健康リスクを職種・産業別に男女で分析する「職業ジェンダー統計」の整備も途上にあります。
男女共同参画政策と健康の接点
女性特有の健康課題と政策対応
女性の健康に関しては、生涯を通じたライフイベント(月経・妊娠・出産・更年期)に起因する健康課題への制度的支援が重要な政策課題となっています。産前産後の健康管理については、母子保健法(e-Gov)(昭和40年法律第141号)に基づく健康診査・保健指導の体制があり、産後ケア事業の法定化(2021年改正)はその一例です。
また、男女雇用機会均等法(e-Gov)(昭和47年法律第113号)第13条(2026年10月1日以降は第18条)は、事業主が妊娠中・出産後の女性労働者の健康管理に関して必要な措置を講ずることを義務づけています。更年期障害については法的義務が未整備な部分があり、更年期症状を理由とした就業困難が女性のキャリア断絶につながるケースが指摘されており、職場における更年期支援の制度化が課題とされています。
男性の健康課題と政策上の位置づけ
男性の健康問題は、歴史的に政策の主要課題として取り上げられることが少なかった分野です。しかし近年、自殺死亡率の高さ・生活習慣病による早期死亡・受診行動の消極性といった男性特有の健康リスクをジェンダー平等の観点から捉え直す動きが進んでいます。第6次男女共同参画基本計画(令和8年3月13日閣議決定)には「男性の家事・育児・介護への参画」とともに「男性の心身の健康」への支援が盛り込まれています。
自殺対策においても、2022年策定の「第4次自殺総合対策大綱」では働く世代の男性を特定対象とした対策の強化が盛り込まれました。男性向けの相談窓口設置・SNS相談の普及・職場でのメンタルヘルス研修の充実などが進められています。ただし、男性向け支援の充実は依然として女性向け支援と比較して限定的であり、社会的認知度の向上が課題として残っています。
LGBTQ+当事者と医療アクセスの格差
LGBTQ+当事者の健康格差については、国内の系統的な統計整備が乏しいのが現状です。民間調査や研究者によるアンケート調査では、アウティング(本人の同意なく性的指向・性自認を第三者に暴露すること)を恐れて医療機関への相談をためらうケース、同性パートナーが医療上の意思決定(手術同意書等)に参加できないケースが報告されています。
トランスジェンダー当事者については、ホルモン療法・性別適合手術に関わる医療アクセスの課題が指摘されており、2023年の最高裁決定(性同一性障害特例法の手術要件を一部違憲と判断)以降の制度改革の動向が医療現場にも影響を与えています。LGBTQ+の健康格差データの系統的収集と政策への反映は、2026年時点での重要な課題の一つです。医療現場での多様な性のあり方への対応指針の整備も、現在進行形で議論されています。
相談窓口・参考機関
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(都道府県・政令市が設置する相談窓口に接続)。こころの不調・メンタルヘルスについて無料で相談できます。
- いのちの電話:0120-783-556(無料・毎月10日は24時間対応)。自殺を考えるほど追い詰められたときに利用できる相談窓口です。
- 女性健康支援センター(都道府県):各都道府県が設置する女性の健康相談窓口です。月経・更年期・妊娠・DVなど女性特有の健康課題について相談できます(厚生労働省サイトから各都道府県の窓口を確認できます)。
- 法テラス(日本司法支援センター):0570-078374(平日9時~21時・土曜9時~17時)。健康問題が法的問題(労災認定・職場ハラスメントなど)に関わる場合に弁護士無料相談の案内を受けられます。
具体的な治療・診断についての判断は、医師など医療の専門家にご相談ください。心身の不調を感じる場合は、医療機関・精神保健福祉センター・専門相談窓口へご相談ください。
まとめ|健康格差をジェンダー平等の視点で捉え直す
男女の健康格差は、平均寿命という単一指標で把握できるものではありません。健康寿命・不健康期間・疾患別罹患率・受診行動・メンタルヘルス・自殺統計——これらの複数のデータを重ね合わせると、「男性が医療や精神的支援を受けにくい構造」「女性が晩年に長い不健康期間を過ごす傾向」「女性特有の健康課題が職場制度に十分反映されていない現状」という3つの問題が浮かび上がります。
これらはいずれも生物学的差異だけでは説明できず、就業形態・収入格差・家庭内役割分担・受診行動を規定するジェンダー規範といった社会構造的要因が深く絡んでいます。健康統計をジェンダー視点で読み解くことは、医療政策だけでなく労働政策・男女共同参画政策の立案においても不可欠な視点です。EBPM(証拠に基づく政策立案)の基盤としての性別統計の整備が引き続き求められています。
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伊藤公雄・牟田和恵 編著『ジェンダーで学ぶ社会学』世界思想社(ジェンダーと健康・社会政策を学ぶ標準的テキスト)

よくある質問(FAQ)
- Q. 男性と女性で平均寿命に差があるのはなぜですか?
- A. 生物学的要因(テストステロンが心疾患リスクを高める可能性など)と社会的要因(喫煙率・飲酒率が男性に高い、受診行動を消極化させるジェンダー規範、危険業種への従事割合の差)が複合しているとされています。先進国では平均寿命の男女差は縮小傾向にあります。
- Q. 女性は長寿なのに健康格差で不利な面はありますか?
- A. あります。健康寿命との差(不健康期間)が女性は男性より約3.4年長い(概算)ため、晩年に医療・介護を必要とする期間が相対的に長い傾向があります。また、精神的健康(うつ病受療率)については女性が男性の約1.6倍となっています。
- Q. 男性の自殺死亡率が女性の2倍以上という統計が生じる理由は何ですか?
- A. 複数の要因が指摘されています。男性が選びやすい手段の致死性の高さ、「弱音を吐いてはいけない」というジェンダー規範による相談・受診の回避、経済的危機に直面した際の社会的サポートの薄さ、などが挙げられています。政策上も男性向けの相談支援強化が重要課題とされています。
- Q. 女性特有の健康課題(月経・更年期など)は法律でどのように保護されていますか?
- A. 労働基準法第68条は月経時の生理休暇を定め、母子保健法(昭和40年法律第141号)は妊産婦の健康診査・保健指導を規定しています。男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号)第13条(2026年10月1日以降は第18条)は、事業主が女性労働者の健康管理に必要な措置を講ずることを求めています。ただし更年期障害への職場対応については法的義務が未整備な部分があり、制度的課題として指摘されています。
- Q. LGBTQ+当事者が医療機関を利用する際に特有の課題はありますか?
- A. 主な課題として、アウティング(本人の同意なく性的指向・性自認を第三者に暴露すること)への懸念から相談をためらうケース、同性パートナーが医療上の意思決定(手術同意書等)に参加できないケース、トランスジェンダー当事者が性別欄の記載に困難を感じるケースなどが報告されています。医療機関における多様なジェンダー・性的指向への対応は2026年時点で整備途上にあります。
