「夫婦ともに働いているのに、なぜ家事はいつも自分が担うのだろう」——そう感じたことのある人は少なくないでしょう。共働き世帯は今や日本の家族形態の主流となりましたが、「就労時間は対等でも、家事・育児の分担は対等でない」という現実が統計データによって浮かび上がっています。本記事では、共働き世帯数がどのように推移してきたか、世帯内での家事・育児分担の実態はどうなっているか、国際比較ではどう位置づけられるかを、厚生労働省・総務省・内閣府の公式調査データをもとに整理します。育休制度や女性活躍推進法など男女共同参画政策との関係もあわせて解説しますので、職場の人事担当者・研究者・学生から、ご自身の家庭の状況を客観的に把握したい方まで、幅広く参考となる内容です。

共働き世帯とは|定義と統計的な枠組み
共働き世帯の定義
共働き世帯(ともかせぎせたい)とは、配偶者のいる世帯のうち夫も妻も何らかの形で就業している世帯を指します。厚生労働省「国民生活基礎調査」では「夫・妻ともに就業している世帯」として集計されており、雇用形態(正規雇用・非正規雇用・自営業など)は問いません。対照概念として、「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」(いわゆる専業主婦世帯)との二区分で語られることが多く、内閣府「男女共同参画白書」では毎年この推移を公表しています。
統計上の重要な注意点として、週数時間のパートタイム就業も「就業」に含まれます。そのため共働き世帯には、妻がフルタイム正規職員のケースから週10時間未満のパート就業のケースまで幅広く含まれており、「共働き=対等な就労」とは必ずしも言えない実態があります。労働政策研究・研修機構(JILPT)は共働き世帯の内訳を「双方フルタイム」「夫フルタイム・妻非正規」「その他」に細分化して分析しており、後者が大きな割合を占めることを指摘しています。
主要統計調査の枠組み
共働き世帯を把握するための主要な政府統計は以下の3つです。
- 総務省「労働力調査」: 15歳以上の就業状況を月次で把握。世帯類型別の推移は年次集計で参照可能。
- 厚生労働省「国民生活基礎調査」: 3年に1度の大規模調査。世帯類型別の就業状況・収入・健康データを横断的に把握。
- 内閣府「男女共同参画白書」: 上記調査データを年次整理し、政策評価のベースラインとして公表。
これらの調査は設計の違いから数値が完全に一致しない場合があるため、時系列比較には同一出所のデータを使用することが重要です。本記事では特に断りのない限り、内閣府「男女共同参画白書 令和6年版(2024年公表)」および総務省「労働力調査 令和6年(2024年)年平均」を参照します。
共働き世帯数の推移統計|1980年代から2026年まで
専業主婦世帯が主流だった時代(1980年代)
戦後の高度成長期、日本の標準的な家族モデルは「夫が外で稼ぎ・妻が家を守る」という性別役割分担でした。1980年時点では、専業主婦世帯(男性雇用者と無業の妻からなる世帯)が約1,114万世帯、共働き世帯が約614万世帯と、専業主婦世帯が約1.8倍の規模でした。この性別役割分担を前提とした税制(配偶者控除)や社会保険制度(第3号被保険者制度)も同時期に整備されており、こうした制度設計が家族形態の固定化を後押ししたとされています。
逆転の転換点(1991年)と2000年代の急増
構造が変化し始めたのは1990年代初頭、バブル経済崩壊を境としてです。製造業の雇用縮小・サービス業の拡大により女性パート労働者の需要が高まり、専業主婦世帯と共働き世帯の差は急速に縮まりました。1991年(平成3年)には両者がほぼ同数となり、その後共働き世帯が逆転。「1991年逆転」は内閣府「男女共同参画白書」でも重要な節点として記録されています。逆転の背景には、①景気後退に伴う家計収入補填の必要性、②男女雇用機会均等法(最終改正: 令和7年法律第63号・2025年6月11日施行)施行(1986年)による女性の職場参入促進、③保育所整備の緩やかな進展——の3要因が複合的に働いたとされています。
2000年代以降、共働き世帯数は一貫して増加を続けました。同時期の政策的変化として、育児・介護休業法(最終改正: 令和6年法律第42号・2025年10月1日施行)の累次改正による育休取得環境の整備と、女性活躍推進法(2015年成立・2019年改正)による企業への行動計画策定義務化が挙げられます。ただし、共働き世帯数の増加が必ずしも「対等な就労」を意味するわけではない点に注意が必要です。
2020年代の最新データ(2024年)
総務省「労働力調査(令和6年平均)」によると、共働き世帯数は約1,277万世帯、専業主婦世帯は約511万世帯となっており、共働き世帯は専業主婦世帯の約2.5倍に拡大しています。コロナ禍(2020~2022年)では一時的に女性就業率の低下が見られたものの、2023年以降は再び増加傾向に転じています。
内閣府「男女共同参画白書 令和6年版」では、女性の就業率(15~64歳)が2023年時点で73.3%に達し、過去最高を記録したことが報告されています。2007年時点の59.0%から14ポイント以上の上昇であり、かつて「M字カーブ」と呼ばれた出産・育児期の就業率低下パターンは統計上ほぼ消滅しています。ただし、後述するようにL字カーブ問題(管理職層での女性比率の低迷)が新たな課題として浮上しています。
また、共働き世帯のうち妻の就業形態に占める非正規雇用の割合は約45.3%(厚生労働省「令和4年版 働く女性の実情」)と依然として高く、就業率向上が「就業の質」の向上に必ずしもつながっていない点は重要な視点です。
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共働き世帯内の家事・育児分担統計
家事関連時間の男女差
共働き世帯が増加しても、家事・育児に費やす時間の男女差は依然として大きいことが統計データで示されています。総務省「社会生活基本調査(令和3年・2021年)」によると、週全体平均の1日当たり「家事関連時間(家事+育児+介護・看護+買い物)」は、女性が3時間28分であるのに対し、男性は44分にとどまっています。
有業者(就業している人)に限定した場合でも同様の傾向が見られます。有業女性の家事関連時間が2時間58分であるのに対し、有業男性は35分と約5倍の差があります。「夫婦ともに働いていれば家事も半々」という期待値と統計上の実態には、大きな乖離があると言えます。
育児時間の男女比較データ
同調査の「育児時間」の項目では、女性の1日平均が3時間45分、男性が49分です。6歳未満の子どもを持つ有業者に絞ると、女性が4時間51分、男性が1時間54分と差は若干縮まりますが、依然として約2.5倍の開きがあります。内閣府「男女共同参画白書 令和5年版」では、この育児時間格差が「L字カーブ問題」——育児期(30~40代)に女性が非正規・時短へとキャリアを縮小させる傾向——を構造的に引き起こしていると分析しています。
育休取得率の推移と家事分担の変化
厚生労働省「雇用均等基本調査(令和5年・2023年)」によると、育児休業取得率は女性が80.2%、男性が30.1%です。男性育休取得率は2010年時点の1.38%から大幅に上昇しましたが、取得期間が「2週間未満」に集中する(約70%)という課題も明らかになっています。取得期間が短ければ育児参加の実質的な変化は限られ、育休後の家事分担の平準化にも結びつきにくいと指摘されています。
育児・介護休業法第9条の2(出生時育児休業・産後パパ育休制度、2022年10月施行)では、子の出生後8週間以内に最大4週間の育休を分割取得できる制度が設けられました。さらに2025年施行の同法改正では、育休取得率の公表義務が従業員300人超の企業に拡大され、職場における両立支援の環境整備措置も義務化されています。
現代的論点|2026年時点の到達点
2007年以降の主な法改正・新法
共働き世帯の増加と家事育児分担問題に関係する主な法改正・政策の動きは以下のとおりです。
- 2009年: 育児・介護休業法改正 — 子が3歳になるまでの短時間勤務制度・所定外労働免除義務化
- 2010年: 第3次男女共同参画基本計画策定 — 父親の育休取得促進を重点目標に位置づけ
- 2015年: 女性活躍推進法成立 — 301人以上の企業に行動計画策定・公表義務化
- 2019年: 女性活躍推進法改正 — 対象を101人以上の企業に拡大(2022年4月施行)
- 2021年: 育児・介護休業法改正 — 妊娠・出産申出時の個別周知・意向確認義務化(2022年4月施行)
- 2022年: 育児・介護休業法改正 — 産後パパ育休創設・育休取得率の公表義務化(1,000人超企業)
- 2023年: こども家庭庁設立 — 少子化対策・育児支援の縦割り解消
- 2025年: 育児・介護休業法改正(2段階施行) — 柔軟な働き方確保措置の義務化・育休取得率公表義務の300人超企業への拡大
議論の現在地
共働き世帯の増加と家事育児分担格差をめぐっては、複数の立場から議論が展開されています。
一方では、「男性の家事・育児参加を促すには育休の取得を義務化すべきだ」という主張があります。スウェーデンやノルウェーなど北欧諸国が導入したパパクオータ(父親専用育休枠の法定化)が家事分担の変化をもたらしたとする研究が根拠として示されており、義務化の効果を支持する立場から積極的に引用されています。
他方で、「企業の生産性や個人の選択を尊重する観点から、法的義務化よりもインセンティブ設計で促進すべきだ」という立場も存在します。2022年に導入された産後パパ育休は「義務化ではなく取得しやすい環境整備」を目指した設計で、この立場に近いと言えます。
また、「共働き世帯の増加の一因が税制(配偶者控除)や社会保険料制度(第3号被保険者制度)による非正規就労への誘導にある」という構造的問題を指摘する声もあります。配偶者控除や「106万円・130万円の壁」の見直しについては与野党間でも見解が異なり、2026年時点も議論が継続中です。
残された課題
統計データが示す課題を3点に整理します。
第一に、家事育児時間の男女格差解消が依然として進んでいません。2011年調査と2021年調査を比較すると、男性の家事時間増加はわずか4分(40分→44分)にとどまり、10年間でほぼ横ばいです。
第二に、非正規共働きの固定化問題があります。共働き世帯増加の一因が女性の非正規就業増加である以上、「共働きの形式化」とも言える状況が固定化する恐れがあります。正規雇用への転換支援や非正規労働者の処遇改善が引き続き必要です。
第三に、ダブルケア(育児と介護の同時担当)問題があります。少子高齢化の進行により共働き世帯が育児と介護を同時に担うケースが増加しており、内閣府推計では2016年時点でも約25万人がダブルケア状態にあるとされています。2026年時点では更なる増加が見込まれ、支援制度の拡充が急務とされています。
国際比較|OECD加盟国との女性就業率・家事分担データ
女性就業率の国際比較
OECD「雇用アウトルック 2024年版」によると、日本の25~54歳女性の就業率は79.4%(2023年)で、OECD平均(78.5%)をわずかに上回る水準に達しています。2007年時点の64.0%から約15ポイントの上昇は目覚ましい変化ですが、就業率上昇の多くが非正規雇用の増加によるものである点は、スウェーデン(86.8%・正規比率が高い)やドイツ(80.3%・正規比率が中程度)と質的に異なっています。就業率の数値だけでなく就業の質(雇用形態・賃金・キャリア継続性)の比較が重要です。
家事・育児時間の国際比較
OECD「ベター・ライフ・インデックス 2024年」によると、日本の男性の1日当たり無償労働時間(家事・育児・介護等)は約106分で、比較対象のOECD加盟国中で最低水準にあります。OECD平均(約135分)を大幅に下回り、フィンランド(186分)・スウェーデン(196分)とは90分以上の差があります。また、男性の無償労働時間を女性の無償労働時間で割った「分担比率」でも日本は最低クラスで、家事育児を女性が圧倒的に多く担う構造が国際的に際立っています。
| 国名 | 女性就業率(25~54歳) | 男性の無償労働時間(分/日) | 男性育休取得率(目安) |
|---|---|---|---|
| 日本 | 79.4% | 106分 | 30.1%(2023年) |
| スウェーデン | 86.8% | 196分 | 約90%(2022年) |
| ドイツ | 80.3% | 164分 | 約42%(2022年) |
| フランス | 82.1% | 155分 | 約70%(2022年) |
| 韓国 | 72.6% | 72分 | 約6%(2023年) |
| OECD平均 | 78.5% | 135分 | — |
共働き世帯の収入・老後統計
世帯類型別の収入データ
厚生労働省「国民生活基礎調査(令和4年・2022年)」によると、世帯類型別の世帯所得中央値は、共働き世帯(双方就業)が約720万円、専業主婦世帯(男性雇用者+無業妻)が約540万円とされています。共働きによる世帯収入の向上は生活水準の維持を支える一方、夫一人の収入に依存するリスクの分散という観点でも重要な役割を果たしています。
ただし、妻が非正規就業の場合は世帯収入が大幅に下がり、「非正規共働き世帯」では世帯の経済的安定性が低い状態が続くケースもあります。特に妻の非正規就業が子育て期を経て固定化し、離婚・死別等のリスクに備えにくくなる点は、政策的に注目される問題です。
老後の年金格差との関係
共働きか専業主婦かという選択は、老後の年金受給額にも大きな影響を与えます。自らの就業歴に基づく厚生年金(報酬比例部分)を受給できる共働き世帯の妻は、第3号被保険者として基礎年金のみを受給するケースと比較して、老後所得水準に差が生じる可能性があります。
内閣府「高齢社会白書 令和6年版」によると、単身高齢女性(65歳以上)の相対的貧困率は約22%と高水準にあり、特に元専業主婦で配偶者と死別・離別したケースで年金不足が深刻化しやすい傾向が示されています。この点は、年金分割制度(離婚時の厚生年金分割・3号分割)の利用実態とあわせて考慮する必要があります。
公的相談窓口
職場での均等法・育介法に関するトラブルや、育休取得に関する相談先として以下の窓口を利用できます。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室): 育児休業取得に関する職場トラブル・マタハラ相談の無料窓口。全国の都道府県労働局に設置されています。
- DV相談ナビ(#8008): 内閣府が提供する男女共同参画に関する相談窓口への案内電話。共働き・家庭内の問題を含む幅広い相談の入口として利用できます。
- 法テラス(日本司法支援センター)0570-078374: 就労・家庭問題に関する法律相談の案内を無料で提供。弁護士費用の立替制度も利用可能です。
具体的な事案については、弁護士など専門家への相談をご検討ください。
まとめ
共働き世帯数は1991年に専業主婦世帯を逆転し、2024年時点では約1,277万世帯と専業主婦世帯(約511万世帯)の2.5倍規模に達しています。女性の就業率は73.3%と過去最高水準に達しましたが、妻の就業形態の約45%が非正規雇用であり、就業率の上昇が即「対等な就労の実現」を意味するわけではありません。
家事育児時間の男女格差は依然として大きく、男性の家事時間は1日平均44分・有業者で35分と10年間でほぼ横ばいです。国際比較では日本男性の無償労働時間はOECD最低水準にあり、共働き世帯の増加が家事育児分担の均等化につながっていない現実が浮かび上がります。
2025年の育介法改正による柔軟な働き方確保措置の義務化・育休取得率公表義務拡大など政策的取り組みは強化されていますが、税・社会保険制度の構造的課題も含めた包括的な議論が引き続き求められています。統計データで現状を正確に把握し、政策議論に参加することが、男女共同参画社会の実現に向けた市民の重要な関与方法のひとつです。
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国立女性教育会館 編『男女共同参画統計データブック 2021年』(2021年)
内閣府・厚労省・総務省の主要統計を一冊に集約した公式データ集。就業・家事・育児・教育・社会参画など多分野のジェンダー格差データを視覚的に把握でき、政策研究・実務の基礎資料として広く活用されています。

よくある質問(FAQ)
Q. 共働き世帯と専業主婦世帯はどちらが多いですか?
A. 2024年時点では共働き世帯(約1,277万世帯)が専業主婦世帯(約511万世帯)を約2.5倍上回っています。両者が逆転したのは1991年のことで、以来差は拡大し続けています(出典: 総務省「労働力調査 令和6年平均」)。
Q. 共働き世帯でも家事は女性に偏っていますか?
A. 統計データでは依然として大きな偏りが確認されています。総務省「社会生活基本調査(2021年)」によると、有業女性の家事関連時間は2時間58分、有業男性は35分で、約5倍の差があります。
Q. 日本の男性の家事育児時間は国際的にどう評価されますか?
A. OECD「ベター・ライフ・インデックス 2024年」によると、日本の男性の1日当たり無償労働時間(約106分)は比較対象のOECD加盟国中で最低水準です。OECD平均(約135分)や北欧諸国(190分超)と比べて著しく低い状況にあります。
Q. 共働き世帯の増加は女性のキャリアにどう影響しますか?
A. 就業率の上昇というプラス面がある一方、妻の非正規就業が約45%を占める実態から「L字カーブ問題」(育児期以降も管理職へのキャリアアップが停滞する現象)が指摘されています。家事育児の不均等分担が女性のキャリア継続を構造的に阻む要因の一つとされています。
Q. 専業主婦世帯と共働き世帯では老後の年金に差が出ますか?
A. 就業形態によって厚生年金(報酬比例部分)の受給額が異なります。自ら厚生年金被保険者として就業してきた共働き世帯の妻は、第3号被保険者として基礎年金のみを受給するケースより受給額が高くなる傾向があります。離婚の際は年金分割制度が利用できる場合があり、詳細は年金事務所での個別確認が推奨されます。
Q. 男性育休の取得を促す法律はありますか?
A. 育児・介護休業法が根拠法令です。2022年施行の産後パパ育休(出生時育児休業)では、子の出生後8週間以内に最大4週間の育休を分割取得できます。2025年改正では育休取得率の公表義務が従業員300人超の企業に拡大され、職場の環境整備措置も義務化されています。
